第3話

 私の小隊の小隊長はツーロン中佐という、すごく偉い方でした。

 そんなに偉い人なのになぜ前線の部隊にいるのかと言うと、前線で武勲を上げ続けた彼自身が後方勤務を嫌がったからだそうです。彼曰く、優秀な軍人が後方にいては宝の持ち腐れなんだとか。


 そんな彼はいつも私を叱ってばかりいました。

 時には新型武器、拳銃でゴム弾ではあるもののマガジン10個分を撃たれることもありました。その日は痛みでまともに食事をとることもできないほどでした。




「タウラ下等歩兵とは貴様か?」

「は、はいっ!本日付けでツーロン小隊に配属されました、タウラ下等歩兵ですっ!」


 胸に何やら色々なバッジがついた男性に話しかけられました。おそらくこの方がツーロン中佐なのでしょう。


「貴官はサージ特等歩兵と共に行動しろ。貴官の活躍を期待している」

「はっ!ありがとうございます。では失礼致します」


 あの変態と、ですか……。しかし全く知らない人と一緒と言うのも困りますし、まぁ良しとしましょうか。

 ツーロン中佐の期待に応えられる自信は全くないですけど、自分にできることは頑張っていきましょうかね。


 とくに仕事を与えられなかったので暇を持て余した私は、先輩の見よう見まねで銃を構えてみたりして時間を潰していました。

 その時です。


カンカンカン!!!


 見張り台の鐘がなる音が聞こえてきました。それを聞くや否や、先輩たちは基地中央の広場に走り始めました。

 訳もわからぬまま追随して行くと、ツーロン中佐が緊張した面持ちで立っています。


「敵が攻撃を仕掛けてきた。それも剣を装備した兵が大隊規模でだ!よっぽど的になりたいらしい!!お望み通り、あの世送りにしてやれ!」


 どうやら敵襲のようです。入隊して初日で初陣とは……。まだ自分の武器の使い方も分かっていないのですが……どうしましょうか。


「あ、タウラちゃん!それの使い方わかる!?」

「サージ先輩!実はよくわからなくて……」

「そこの引き金を引いたら撃てるからね。覚えたね!早く行くよ!」

「え、あの、ちょっと!?まだよくわからない……ま、待ってください!」


 今の説明でわかれば誰も苦労しませんよ先輩!


 私は先行していってしまったサージ先輩に追いつくべく走り始めました。


「はぁ、はぁ……。やっと、追いついた…はぁ」

「遅かったね、それにもうバテてるじゃん。もしかして訓練サボってたの?」

「え、いや、そもそも私……ッ!」

「どうやら話している暇はなさそうだ、タウラちゃんは教わった通りに動いていればいいからね!」


 少し話が噛み合っていないように感じます。もしかして先輩、私が訓練を受けていないことを知らないのでしょうか?



「エンゲージ!各個自由射撃!敵騎士と魔導士を殲滅しろ!!」

「「うおぉおおおお!!!!」」


10月11日、ツーロン小隊と連合王国の魔導部隊が衝突しました。これが私の初陣でした。


「タウラちゃん!近距離はオレに任せて、敵魔導士を狙撃してくれ!」

「は、はいっ!」


 しかし、私は訓練を受けていないので敵の魔導士がどこにいるのかわかりませんでした。それどころか、敵味方の区別もつけられていなかったのです。


「………。」

「タウラちゃん?どうしたんだ、早く撃てよ!」

「…すみませんッ!私、魔導士がどれか区別できません…」

「なに?」

「ごめんなさい、ごめんなさい!実は私、何の訓練も受けられなかったんです!言われるままにいたら、こんなところに来てしまって……!」


 先輩の顔がみるみる赤くなって、血管が浮き出ています。すごく、怒っているのが伝わってきます。


「なぜそれをもっと早く言わなかった!訓練を受けていない兵士なんて、ただの一般人と変わらないだろうが!!」

「すみません!…ほんとうに、申し訳ありません……」

「チッ!もういい、お前は後ろに下がっていろ!」


 そう言って先輩は、私を置いて走って行ってしまいました。

 先輩はほかの隊員と合流して敵兵を次々に倒しています。私と一緒にいる時間がなければ、どれほどの戦果を挙げれていたでしょうか。そう考えると、私はとてもいたたまれない気持ちになりました。



「撤退!退け!退けー!!」


 離れて味方を見守っていると、撤退の号令が出されました。

 私も撤退するため走り出しました。そのとき、一瞬ですが、小隊長と目が合ったような気がしました。


 撤退中、敵兵の弓矢や魔法を受けながら、命からがら基地まで戻ってきました。


 後で撤退した理由を聞くと、あの敵部隊の中に「ネームド」つまりとても優秀な兵士がいたからだそうです。


「お、タルラちゃん。無事だったか」

「あ、先輩……さっきは本当に、申し訳ありませんでした!私が報告を怠ったばかりに!」

「え?あぁ…謝罪はさっき聞いたから、もういいよ。そのことについて後で小隊長に呼び出されるはずだから、遅れないようにね」

「は、はい!」


 小隊長に、呼び出し…?やっぱりそれだけ重大な問題だったのですね……




「マドリーシヤ大攻勢」まで残り5ヶ月と12日

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