第38話 世界一な妹の後日談(百合視点)

「きゃー! わー! どうしようどうしよう! 兄様に言っちゃった! 愛してるって言っちゃった!!」


 私は自分のベッドに身を投げ出し、足をバタバタさせてしまう。

 子どものような仕草だって自覚はあるけれど、気が高ぶってしまって押さえられない。


 でもしょうがない。こればかりは仕方が無い。

 だって、私は兄様に、愛の告白をしてしまったのだから!!


 兄様と私は血の繋がった兄妹。そこに家族愛以上の感情が生まれるなんて、普通じゃない、異常だと言われても仕方がないでしょう。


 けれど、兄様に抱いていた本当の気持ちを口にしたことへの後悔は意外にもありませんでした。

 むしろ、言うべきことをきちんと言った達成感が大きいくらいです。

 なぜなら、この感情がたとえ世間では認められないものでも、私にとってはとても大切な物……恥じるべきことなど、何一つ無いのですから。


「まぁ、兄様は優しいお方ですから。たとえ肉親から特別な感情を向けられていると知っても拒絶などしないと確信していましたが。それでも……ふふふふふっ♪」

「……あのさぁ」


 兄様の声です!


「全部聞こえてるんだけど……」


 兄様の眠たげな声が下の方から聞こえた。

 もっと正確に言うと、下のベッドから聞こえた。


 女の子になってから一段と高くなった可愛らしい声。もちろん以前の中性的な雰囲気のお声も最高でしたが、こちらも勿論素敵です。


「百歩譲ってそういうのを言うのはまだいいよ。でもさぁ……何時だと思ってるんだ、今」

「深夜3時を回ったところですね。それがどうかされましたか?」

「それがどうかされました、じゃないから! 深夜だぞ!?」

「兄様は気にせずお眠りになってください。私は気が高ぶってしまってしょうがないので」

「気にせずは無理だろ……」

「そして気が高ぶった私はベッドで眠る無防備な兄様を発見してしまう。まるでおとぎ話のお姫様の如く、穏やかな顔で眠る兄様……そんな兄様に引き寄せられた私は、ついうっかりそのお唇を奪っていまい……」

「余計眠れなくなるからやめろ!?」


 ふふふ、焦っている兄様も素敵。

 そんな可愛らしい反応をされてしまうともっとからかってしまいたくなりますが……。


「ご安心ください、兄様。私は兄様の嫌がることなど何もするつもりはありませんから」

「安心できないだろ……」

「まぁ、超シスコンの兄様のことですから、待ってましたと飛び起きて私を押し倒し、口にはできないようなあんなことやこんなことをしちゃうんでしょうけど」

「それ、多分人違いですね、天海百合さん」


 ああ、兄様の心の距離が離れてしまった!

 こうなっては仕方がありません。ええ本当に。仕方が無いのです。オヨヨヨヨ……。


 私はすぐさま失態を取り返すため、ベッドから音も無く飛び降り――。


「……って、なんでベッド入ってくるんだよ!?」

「兄様が心の距離を離すからです。だったら物理的距離を近づけるしかないじゃないですか」

「しかなくないだろ、全然! 距離取られたなら取られたままにしとけよ! ちょっと反省挟めよ!?」

「兄様、人間の寿命は永遠じゃないんですよ? 兄様と一緒にいられる時間は有限……だからこそ、距離を置いておくなんて勿体ないじゃないですか」

「いや、意味分かんないし……」


 そう言いながらも兄様は私を拒絶したりはしない。やっぱり兄様は優しくて世界一の人です。

 私は背中を向ける兄様を、後ろからぎゅーっと抱きしめます。

 ぴくっと肩を跳ねさせましたが、それだけで、兄様は振り払ったりなんかしません。


「兄様、好きです」

「…………」

「もちろん、そういう意味で、好きです」

「いや、本当に全然遠慮しなくなったな……」

「だって、もうバレてしまいましたから。好き好き、兄様。ちゅきちゅき~~♪」

「変な言い方すんなよ!? 全然お前らしくないし!」

「ちょっとばかりバリエーションを試してみようと思いまして」


 兄様に愛を囁くためなら、あらゆる国の「愛してる」という表現を学ぶ覚悟だってあります。

 ただ、兄様は日本語しか分からないので、勉強しても伝わらないのなら意味ないんですが。


 ……そうだ! 私思いついちゃいました!


「ほら、兄様もどうぞ」

「どうぞ……?」

「試しにどうですか。戸惑うだけではしゃくでしょう。たまには反撃し、私を戸惑わせてみては?」

「ど、どういう意味だよ」

「私に、『愛してる』と囁いてみてください。愛をたっぷり込めて」

「なんで!?」


 私はちょっと我が儘になってしまいました。

 兄様に心の内を晒して少し欲が出てきた私は、たとえ嘘でもいいので、愛の言葉を頂きたくなってしまったのです。


 だって、兄様の愛の言葉ですよ?

 世間一般に兄様の生み出すあらゆる物は、たとえ偽物であっても、この世界のあらゆる本物に勝ると言われています。

 有史より「一度は言われたい言葉ランキング」の第一位は「愛してるby兄様(本心)」、そして第二位は「愛してるby兄様(冗談)」と相場が決まっているのです(私調べ)。


「さあ、兄様。私に愛の言葉を囁いてください。ああちゃんと私の名前も添えてくださいね。ネットオークションにでも転売されれば大変ですから」

「芸能人のサインじゃないんだから……」

「ああ、怖いなぁ。兄様に『百合の全てを愛してる。結婚しよう。そして今夜二人で大人になろう』なんて言われてしまったら……きゃー! どうしようどうしよう! ねえねえ、兄様! わたしどうすればいいですか!? いや、もちろん兄様のお気持ちも身体も受け入れますよ? 当然じゃないですか! しかし、そこから先が問題なのです……! 果たして未熟な私が兄様を満足させられるでしょうか。私もそういうシミュレーションは毎晩欠かしていませんが、最近は兄様と同じ部屋ということもあり中々はかどらなかったところもありまして……ああ、どうしよう……」

「…………」

「あれ、兄様?」


 兄様が黙られてしまった。

 後ろからなので表情は見えませんが、暗闇の中でもぼんやりと耳が赤らんでいるのが見えるような……?


「兄様ー?」

「……おやすみ」

「えっ、兄様!? 愛の言葉は!? ほ、ほら、私を困らせるチャンスですよ!? 兄様っ、兄様ってば!」


 兄様は完全に心を閉ざした感じに、布団をお顔が隠れるくらいに被られてしまった!

 私の完璧な計算が……!?


 いや、まてよ?

 私の完璧かに思われた計算も、兄様の手に掛かれば赤子のだだ声同然。

 かの有名なピタゴラスの定理、フィボナッチ数列なども、兄様が鶴の一声で「否!」と突きつければそれが正とされるといいます。


「私が浅はかだったということですか……さすがは兄様! やはり兄様は神が光と同時に世に生み出したとされる特別な存在――」

「寝ろ。……寝坊したって起こさないからな」

「はいっ!」


 優しいレスポンスをいただけた私は、ついつい兄様に抱きついてしまいました。

 兄様はやっぱり無視しようとしている感じでしたが、決して拒否はしません。

 それどころか、私が風邪を引かないよう掛け布団が肩まで掛かっているか気にしてくれて……まったくもう、兄様はどれだけ私を惚れさせれば気が済むんでしょうか。


 おかげで今夜も良い夢(兄様出演ならなんでもOK。特に兄様に)が見られそうです。

 ああ、やっぱり気持ちを伝えて良かったぁ!



 そして翌日。

 微妙な夜更かしのせいか少し寝入りすぎた私でしたが、ちゃんと兄様が起こしてくださいました。

 しかも、「しょうがないなぁ」って言いながら、寝ぼける私に寄り添って洗面所まで連れて行ってくれて……これもう結婚では!?


 おかげで一日中ずっと頬が緩んでしまって、みゃこから「なんだか今日の百合ちゃん、ご機嫌だね!」と褒められてしまいましたが。


 とにかくやっぱり兄様は至高の存在です。

 私も兄様のお嫁さんになる宣言をしてしまった以上、改めてもっと自己研鑽を重ねなければと思いました。


 全ては兄様と私が一緒にいて当たり前になれる幸せな世界を作るため!

 待っててください、兄様。いつか夢の中でだけ聞こえるウエディングの鐘が兄様と私の上で鳴り響く日が来るまで……そうしたら、いっぱい褒めてくださいね!!


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久しぶりの投稿失礼します。


新作を投稿しましたので、ぜひこちらもお願いいたします。

(男女ラブコメです)


キスはするのに恋愛感情は無い幼馴染み同士の話

https://kakuyomu.jp/works/16818093092276114427

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絶対に兄様と結婚したい妹VS突然女の子になっちゃったお兄ちゃん としぞう @toshizone23

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