第31話 美少女に洗体される美少女
「それじゃあ、洗うわね~?」
「ひゃ、ひゃい……」
彼女が来たッ!!!!!!!!
もう早速かよ! 何がどうなってんだよ!?
ええと、今の状況を整理するとだ……まず、大浴場に入る前には体を洗わなくちゃいけない。
なのにボクは目隠しをしているから、自分じゃ洗えないという話になりまして……。
「じゃあ、誰が碧先輩を洗ってあげるか、じゃんけんで決めましょー!」
という、美也子ちゃんの提案により、『第一回誰が天海碧の体を洗うか決めようじゃんけん大会』が行われたのであった。
そして勝利したのが…………きょこだったのである。
ボクは当然音しか聞いていなかったわけだけど、決勝戦にて百合に勝利したきょこはそりゃあもう彼女を知る者は皆目を疑うくらいに大はしゃぎしたみたいで、負けた百合もまた皆目を疑うくらい悔しがったとかなんとか。音だけは聞こえていたので、他の人の迷惑になっていないか不安になったけれど。
でも……きょこがボクの体を洗うことになったというとんでもない事実に比べれば、他の全てがどうでもよくなってしまう。
「あーちゃん、その目隠し、取らなくて本当に大丈夫?」
「う、うん。取ったら大変なことになっちゃうから……」
「そう? 水吸ったりして嫌になったら言ってね。私はあーちゃんに裸見られたって全然良いし……って、当たり前だけど」
「あはは……」
それがボクに取っては当たり前じゃないんです……。
「じゃあ、頭から洗っていくね。くすぐったかったり、痒いところがあったら遠慮無く言って!」
「へ、へいっ!」
ボクは身をガチガチに硬くしつつ、促されるままイスに座る。
きょこは楽しそうに笑いつつ、ボクの髪をシャワーで濡らし、指でさっと撫でていく。
その優しい手つきがむしょうに気持ち良くて、ボクは全身をぞくぞく震わせてしまう。
「それじゃあ、シャンプーからね」
目が見えないボクのために、きょこは丁寧にこれからすることを一つ一つ言葉にしてくれる。そんなきょこの気遣いにありがたさを感じつつ……油断した、その瞬間だった。
「よいしょっ……」
――むにゅん。
(――ッ!?)
首に、背中に、柔らかな何か――いや、何かと誤魔化すことさえ許されない、豊満なそれが触れた!!
「ご、ごめんね、あーちゃん。ちょっとシャンプー取りたくて……!」
耳をくすぐる位の距離で、きょこの少し苦しげな声が聞こえる。おそらくボクが座っているせいで、その向こうのシャンプーを取るのに身を乗り出しているからだと思うけれど……いや、冷静に状況を分析したって、今ボクの背中にきょこの胸が押しつけられている事実が変わるわけじゃない!
お風呂という場所の性質故、間に阻むものが何も無い素肌同士の触れ合いがどうとか、なんとか、かんとか……これ実質目隠ししてるだけじゃん! 他のもの、何も遮断できてないじゃん!!
「よし、取れた♪ お待たせっ、それじゃあ洗っていくわね!」
とはいえ、ボクのために頑張ってくれて、今もご機嫌そうに声を跳ねさせている彼女に抗議するのは忍びない。それに、これが同性同士の適切な距離感なのかもしれないし……いや、ボクが男だった頃は他の男子とこういう肌のまぐあい(語弊有り)をしたことなんかなかったけれど。
「えへへ、あーちゃんの髪綺麗だから、痛めちゃわないよう気をつけないとね」
「そ、そんなお気遣いなさらず……もう適当にべちゃってやって、シャワーで雑に流してくれても大丈夫だし!」
「むっ、あーちゃん、私がそういう人間に見えてる? 心配しなくても、自分の以上に丁寧に、あーちゃんからこれから毎日私に洗って欲しいって頼むくらい完璧に洗っちゃうんだから!」
ボクの遠慮は油となって、きょこの闘志を燃え上がらせてしまったらしい。
実際には本当に何も見えてないし、むしろきょこが頑張れば頑張るほど、もう目隠ししたって絶対に大浴場には来ないぞという決意を硬くさせるばかりなんだけど……。
「それじゃあさっそく……っと。痒いところない?」
「だ、大丈夫……!」
きょこがボクの髪にシャンプーを絡ませてくれる。丁寧にじっくり、ゆっくり、髪の毛一本一本の間に泡を染みこませるような、そんな手つきで……。
正直、痒いどころかメチャクチャ気持ちいい! きょこが上手っていうのもあるだろうけど、やっぱり同い年の美少女に髪の毛を洗ってもらっているっていう事実がなんかもう、ヤバい。駄目だ。うっかり「明日も洗ってくれる?」とか頼んじゃいそうでヤバい!
「ふふっ、あーちゃんの髪、こんな風にじっくり触れるなんて本当に幸せ」
「お、大げさじゃない……?」
「ううん。あーちゃんは自分の価値を低く見積もりすぎよ。あーちゃんの髪、ふわっとしてて、手触りすごくいいし……ずっとこうしていたいくらい。人間国宝レベル!」
「えぇ……」
「でも、あんまり時間かけたらあーちゃんが風邪引いちゃうかもしれないし、ほどほどにしないとね」
きょこはそう言って、しっかり合図をした後にシャワーでシャンプーを流してくれた。
そして、次いでリンスをつけてくれる。
「ふふふっ」
「え、ど、どうしたの?」
「んーん。やっぱりあーちゃん、可愛いなって」
さっとリンスを髪に馴染ませて、さっと流し……、
「ふぁえっ!?」
なぜかボクに後ろから、ぎゅっと抱きついてきた!
阻むものの何もない状況で!!
「うん、綺麗になった!」
「あ、ありがと」
それで抱きつく必要あります!?
これが女子……? いや、きょこだからなのか……?
ボクは混乱しつつ、真っ暗闇の中でただただその感触を楽しむしかなかった。
「それじゃあ次は体の方ね」
「え、あ、いやそれはやっぱり……」
「駄目よ、あーちゃん。お風呂に浸かるならちゃんと先に体を洗わなきゃ」
思わず立ち上がろうとしたボクを、すぐさま両肩を掴んで押さえ込むきょこ。
ああ、そうだ。うっかりなんてもんじゃない。ボクは完全に油断していた!
髪を洗うなんて序の口。お風呂に入る前……そこにはより大きな試練が待っていたんだ。
「か、体くらい自分で洗えるよ!」
「駄目よ。私がやるって言ったんだもん」
きょこは聞き分けの悪い子どもに言い聞かせるみたいに、ボクの抗議を突っぱねる。
絶対に逃がさない、という強い意思を感じる……! 一体何がこれほどまで彼女を突き動かしているんだろう……!?
しかし、きょこに体を洗われてしまえばボクだって耐えられる自身はない。
今以上にきょこの柔らか~な体を楽しめば、絶対鼻血を噴くし、ボクの立つはずのない何かも何かのファンタジー的なアレでいきり立つかもしれない。
もしかしたらそれをきっかけに性転換が治るかも……? いや、仮に男に戻れてもここじゃあ確実にきょこに尋常じゃ無いトラウマを植え付けるし、ボクも男でありながら女の体で女子風呂に入った罪で一生牢屋の中で過ごすことになるに違いない。
いくら男に戻れても誰かを――せっかくできた友達を傷つけるなんて絶対ダメだ!
「大丈夫。体なら美也子のを洗ってあげることもあるし……ちゃんと隅から隅まで、綺麗にしてげる」
(その隅から隅までがダメなんだって! どうすれば……!?)
「京子先輩」
不意に割って入ってきた声は……百合のものだった。
「どうしたの、百合ちゃん?」
「バトンタッチしましょう」
「え……どうして!?」
「先輩にクレームをつけるつもりは全くありませんが……少々時間が掛かりすぎてしまっている気がしまして」
「えっ、本当!?」
きょこが焦ったような声を上げる。
確かに、測っていたわけじゃないけれど、話ながらじっくりとだったから、結構贅沢に時間を使っていた気はする。
「私は既に頭も体も洗いきってしまいました。しかし、京子先輩はまだ自身の体は全く洗われていないでしょう? 姉様にお気遣いいただけることは、妹として実にありがたく、嬉しく思いますが、このままでは先輩が自身の体を洗いきる前に、みんなお風呂で茹で上がってしまいます」
「そ、それは確かに……待ってもらうわけにはいかないものね。風邪を引いてしまうかもしれないし……!」
「それに、京子先輩もずっと姉様の体を洗っていては体を冷やしてしまいます。ここはじゃんけん大会準優勝のこの私が、京子先輩の大役を引き継がせていただければ、と」
百合は理路整然とした態度できょこの良心を削っていく。みんなに迷惑がかかるとなれば、善良なきょこは決して無視できないし、百合はそれが分かっていやらしく攻めている。それだけ百合もなりふり構っていられないという表れかもしれないけれど……。
「うう……あーちゃんの体、洗ってあげたかったのにぃ……」
「またの機会はあります。その際は、当然初代じゃんけん大会優勝の京子先輩に優先権が生まれるでしょう」
「……百合ちゃんがそう言ってくれるなら。うん、お願いしてもいいかしら。ごめんね、あーちゃん。最後まで役目を全うできなくて……」
「う、ううん! 謝ることじゃないよ!」
話の流れ、内容というかノリはあんまり理解できなかったけれど、でも、とりあえず言ったんきょこに体を洗ってもらうという試練からは逃れられたっぽい。
ボクは内心ホッとしつつ、きょこを落ち込ませてしまったのは申し訳ないと思いつつ……。
「今度! 今度絶対やるからっ!」
「フォワァ!?」
強い決意を滲ませながら、きょこが、後ろから思い切り抱きしめてきた!?
胸が! 大きすぎる胸が、ボクの背中でむぎゅうっと潰れてる!!
背中に文字を書いて、「なんて書いたでしょう?」と当てる遊びの如く、ボクの背中は鋭敏にきょこのおっぱいの形を、大きさを記憶しようと神経を尖らせて……!
「それじゃあ……また、後でねっ」
きょこはそうしてたっぷりおっぱいを押しつけた後、名残惜しそうに帰っていた……。
危なかった。あと一秒でも押しつけられていたら、絶対に鼻血を噴いていた。間違いない。ボクは詳しいんだ。
「兄様、出てます」
「うえっ!?」
百合に指摘され、鼻に触れると確かに生温かな感触があった。
完全に手遅れだった……いや、きょこにバレなかったんだ。ぎりぎりセーフと思っておこう。そうじゃなきゃ、あまりに自分が哀れすぎる。
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