第23話 わくわく寮生活
「ただいま、あーちゃん、百合ちゃん」
なんて考えていると、きょこ達が帰ってきた。
きょこはボクの正面に、美也子ちゃんは百合の正面に座る。
「やっぱりお休みの最終日は混むわねぇ」
「普段はもっと少ないの?」
「うん。部活動やってる子とそれ以外の子だと食べる時間ずれたりするし、お部屋で食べる子も少なくないから」
「そうなんだ」
「あと……今日はやっぱり特別かも。だって噂になっていたもの。百合ちゃんと、新しく編入してくる百合ちゃんのお姉さんが、今日入寮するって」
「え、そうなの!?」
さっきまでの疑念を、見事にきょこが晴らしてくれた。
噂になってたなら、確かに目立ってもおかしくない。そんな噂になるほどの話題なのかは分からないけれど……。
「百合ちゃん有名人だもんね~」
そして美也子ちゃんがさらに確信を深めてくれる。
そうだよな、百合は一年生の代で首席入学し、入学して一ヶ月経たずに注目を浴びていることはボクの耳にも届いている。というか、他でもない百合自身に自慢された。
当然そんな百合と一緒にいる見知らぬ女性都を見れば、それが『百合ちゃんのお姉さん』だと気がつくだろう。
つまり目立っているのは百合! ボクはそのおまけみたいなものだ。
「…………」
そう納得するボクを、なぜか百合が「やれやれ……」と言いたげに見てくるけど……なんでやろなぁ。
「ふふっ、そんなあーちゃんと一番にお友達になれたなんて、私、運がいいかも」
「それも目立つ原因だと思いますよ、京子先輩」
「え?」
「京子先輩が特定の誰かと懇意にしている……というか、誰かとあだ名で呼んだり呼ばれるほど仲良くしているなんて、少なくとも私は初めて見ましたから」
「そうかしら……?」
そうなんだ。だから百合も少し驚いた感じだったのか。
でも、なんとなく分かる。きょことはさっき合ったばかりだけど、誰にでも優しそうな感じで……だから、初っぱなから凄く甘えられてびっくりしたというのもあったのだ。決して、美少女に抱きつかれて浮かれていたわけじゃない。決して。
「……ううん、百合ちゃんの言うとおりかも。私、八方美人って美也子にもよく言われるし……でも、なんだかあーちゃんとはそうなりたいなって思っちゃったの」
少し落ち込んだ感じで、きょこが吐露する。そして、上目遣いにボクを見てきた。
「あーちゃんは、迷惑だった……?」
「ううん、迷惑なんかじゃないよ。ボク、編入してきて上手く馴染めるか不安だったけど……少なくともきょこっていう友達ができて安心したっていうか」
きょこが周りからどんな風に思われているのか、ボクは知らなかったけれど、ボクは彼女が積極的に来てくれるのは嬉しかった。もちろん、下心なんてありません。
「それにボクらはお姉ちゃん同盟でしょ。だから、これからも妹共々仲良くしてくれたら嬉しいな」
「う……うん! もちろん!」
握手しようと手を伸ばすと、きょこは泣いてしまいそうな表情で、大げさに両手で握ってきた。隣に座る美也子ちゃんも感動したように、目をまん丸に見開いてキラキラしたまぶしい視線を飛ばしてきている。
なんか大げさな反応だけど……でも、不安じゃなくなってくれたなら嬉しいなぁ。
「本当に人垂らしですね……それでこそ兄様ですが」
そんなボクらを眺めつつ、ボクにしか聞こえないくらいの声量で、百合がやれやれと呟いた。
……なんてやりとりをしつつ、ボクらは晩ご飯を注文した。
この食堂のシステムは、テーブルごとに貼られた二次元コードをスマホの学生用アプリで読み取り、アプリ上で注文する。
料金は朝昼晩、それぞれ一食ずつならタダ。二人前以上食べるなら二食目以降は有料。食べた物に応じてカロリー計算もしてくれる。ありがたいような、おっかないような。
そして、頼んだ料理は配膳ロボットが持ってきてくれるという仕組みだ。まるでファミレスみたい。ハイテクだ。
さすがはお嬢様校というべきか、学食で見るような、食券を買ってトレイを持ってカウンターに並ぶ……みたいな感じではなかった。そういうのはお淑やかではないという認識なのかも。
ちなみに料理は絶品だった……けれど、食事シーンは割愛させていただこう。
なんたって食事中無闇にお喋りするのはお行儀良くないので、みんな殆ど会話しなかったし、なんかテーブルマナー違反してたらどうしようと食事を楽しむほどではなかったから、正直味わえはしたものの、食事を楽しむほどの余裕はなかったからだ。
◇
「それで、あっちにまっすぐ行くと管理人室。もう挨拶はしたのかしら」
「うん。国原さんっていう人が担当してくれるって」
「奏さんね! それなら私達と一緒!」
食事が終わって早速、きょこはボクの手を引いて、寮の中を案内し始めた。物腰柔らかながら、積極的に引っ張ってくれる彼女はとても可愛かった、下心は、アリマセン。
ちなみに百合は美也子ちゃんに引っ張られて部屋に戻っていった。宿題見て欲しいんだって。
「基本的に寄る20時以降の外出は禁止よ。鍵は施錠されているから勝手には出れないけれど、管理人さんに事情を説明して納得してもらえれば、一応出られるみたい」
「みたい?」
「私は試したことがないから分からないの。……でも、あーちゃんが誘ってくれるなら、門限破りもいいかも?」
「い、いや、それは止めておくよ。ボクのせいできょこの評判を悪くしたら忍びないし」
せっかく友達になってくれたんだ。悪影響を与えて、友達にならなきゃよかったとか思われたくない。
「……ねえ、あーちゃん」
「ん?」
「あーちゃんはさ、自分のこと、ボクって呼ぶのね」
「あ……うん、そうなんだ。子どもの頃からの癖で」
やっぱりきょこも気になるらしい。
違和感に繋がるなら直した方がいいかもしれないんだけど……でも、女の子の体に慣れてきたとはいえ、気持ちはやはり男寄りのまま。
私ならまだしも、あたしとか女の子っぽいしゃべり方には抵抗があって……結局自分のことはボクと呼んだままだった。
これはもう、そういうものだと諦めたい。
「ほ、ほら。男勝りだったから…………変かな」
「ううん、すっごく可愛いと思うわ。それに、なんだかドキドキする」
「ドキドキ!?」
「不思議ね……あーちゃん、どこか他の人と違う雰囲気っていうか、凄く可愛らしいのに、同時に凜々しさも感じるの」
それは……ボクの中の男をほんのり感じ取っているってことだろうか。
……いや、ないな。だって男だった頃にも、男らしいなんて全然言われたことなかったし。
ボクを人間として褒めてくれたのはそれこそ百合くらいなもんで。
「ごめんなさい。ちょっと変なこと言っちゃったわね」
「う、ううん、大丈夫」
「案内の続き、しましょ。レクリエーションルームは行った? いろいろなゲームが置いてあるのよ。卓球とか、ダーツとか、ビリヤードとか……興味ある?」
「結構ある!」
なにそれ楽しそー。なんか、林間学校みたいでわくわくしてきたなぁ!
ボクはきょこに腕を引かれつつ、寮の中を歩いて回った。そもそも寮暮らしなんて初めてってこともあって、見る物見る物全部が面白くて……これなら明日からも楽しくなるだろうなぁと、胸を躍らせるのだった。
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