第22話 晩ご飯
「あーちゃん、晩ご飯行こっ」
一時間後、きっかりに部屋を訪れたきょこは、すぐさまボクの胸にダイブしてきた。
繰り返すが、きょこは同年代で見ても大人びて見える方だ。お姉さんタイプ。発育もとてもよろしいし、背はボクより高い。
絵面的にも甘えるならボクの方がしっくりくるんじゃないかと思うんだけど……いや思うだけであって決してボクがきょこに甘えたいとかそういうんじゃないってことは明言――心の中で思い浮かべておく。軽めに。
「さっきも思ったけど、あーちゃん、お胸大きいよね……ふかふかぁ」
「あ、ありがと」
きょこを受け止めつつ、百合の方を伺うと……それより先に、美也子ちゃんのやけにキラキラした視線とぶつかった。
「お姉ちゃんが甘えてる……!? 百合ちゃん、あたしもあれやりたい!」
「あれって……京子先輩に? それともまさか姉様に?」
「百合ちゃんに!」
「私……!?」
美也子ちゃんは一個下よりももうちょっと年下に見える快活な女の子だ。もちろんこちらもきょこ同様美少女である。
そんな彼女はしっかり者の百合より妹っぽい……いや、妹キャラっぽい。同い年の百合と並んでも幼さは健在で、百合がお姉ちゃんっぽく見えた。
「あー……あたし百合のにおい好きぃ~」
「どうも」
胸で美也子ちゃんを受け止めつつ、感情薄めに頷く百合。百合はどこにいても百合だ。
でも、こうやって友達と仲睦まじくしているところを見るなんて初めてだから、なんだかほっこりするなぁ。
「って、こう甘えてたら時間がいくらあっても足りないわ! 食堂、行きましょ。あーちゃん、初めてよね?」
「うん。一階のロビーの奥にあるっていうのは聞いたけど」
「うふふっ、じゃあ案内してあげる! ご飯食べ終わったら、他の所も見て回りましょ。もちろん、百合ちゃんも一緒に!」
「は、はい、ありがとうございます」
どこか浮かれた様子のきょこに手を引かれ、歩き出す。
そんな彼女を百合も美也子ちゃんも、どこか物珍しそうな目で見ていた。
そうして食堂に着き、空いていた四人がけテーブルに座ったのだけど。
「百合、なんかボクら視線集めてないか?」
「気のせいではないですね」
食堂には既に、この寮に住んでいるんだろう女子生徒達がそれなりに集まっていた。食堂はこんなテーブルが何十個も並んだ、大きめのレストランって感じの様相だけれど、それも間もなく埋まりそうな雰囲気だ。
食堂ではいくつかメニューが選べ、中にはテイクアウトメニューもあったので、部屋に持って行って食べることも可能みたいだけれど……まあ、この寮の住民全員が集まるとなれば、賑わって当然かもしれない。
ちなみにお金は掛からない。領内に設置された自動販売機も含め、飲食代はタダらしい。まあ、お嬢様学校ということもあり、無料にかこつけて、食事を無駄に頼みまくって無駄にしたり、飲み物を必要以上に確保したりみたいな、治安を乱す人はいないという性善説から成り立っているんだろう。
もちろんお金を使う必要のある文房具屋や本屋なども学内にはあるけれど、それらは全てスマホ決済でできる。なので基本的にはお金を持ち歩く必要はないとか。
はえぇ……便利っすねぇ……。
……さて、話を戻すと、ボクらがなぜか目立っているという件だ。
「制服を着てるせいかな……」
今日はゴールデンウィーク最終日。つまり休日だ。明日から学校なので、一時の帰省をしていた子達も当然帰ってきているだろう。多くの女子が私服姿だ。多少制服の子もいるものの……ボクと百合は二人とも制服を着ているから、少数派だ。
そして、きょこと美也子ちゃんもなぜか制服を着ていた。多分学校に行く用事があったんだろう。今二人は共に席を外しているけれど(お花摘みに行くと言っていた)、四人制服姿の生徒が集まれば、確かに目立ってもおかしくない。
「いえ、そんな理由ではないでしょう」
しかし百合は、そんなボクの推理をあっさり却下する。
「姉様が美人過ぎるから目立っているのです」
「ボクが原因っていうのか!? 百合だって美人じゃんか……」
「そうですね。では訂正します。姉様と私が美人だから、目立っているのです」
こいつ、恥ずかしがりもせず……!
しかし、その推理は今度はボクが却下させてもらうぞ。
「そもそも美人かどうかは関係ないだろ。見た感じ、ここの子達総じてレベル高いし」
隅から隅まで見渡して、目立つ目立たないの差はあれど、みんな揃って顔がいい。まるで漫画の中みたいだ。これが超名門お嬢様校の実態……!?
まさか顔採用してたりしてぇ~……と、冗談っぽく思い浮かべてみたものの、あの学長だからなぁ……あり得なくない。
「では、格好、顔以外に理由があるのでしょうね」
「えー……?」
ぱっと浮かんでこない。何か他に目立つ理由あるかなぁ。
百合には分かってるみたいだけれど、ボクにはどうにもさっぱり分からなかった。
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