第20話 訪問者
「あ、あれぇ? 奏さんかなぁ!?」
ナイス差し込み! どろろんとした空気をなんとか変えるため、ボクはすぐさまドアへと向かい、来客を出迎えた。
「あ……」
来客は奏さんではなく、女の子だった。同い年くらいの女の子。
気持ち幼く見えるのは、リアルじゃあまり見ない高い位置で括られたツインテールのせいかもしれない。でも、違和感があるとかじゃなくて、それが絶妙に似合っている、幼さが武器になる感じの可愛い子だ。
彼女は大きく目を見開き、ボクの顔を見て……視線を下げ、胸の辺りで止める。そんなに気になります? ボクのおっぱい……。
「ええと……どちら様でしょうか?」
「え、えと! 今日ここに新しい方が来たって聞いて! もしかしたら百合ちゃんじゃないかなーって思ったんですけど……」
「あっ、もしかして百合の友達?」
「はいっ、聖護院美也子って言います! ……あれ、呼び捨て?」
「その声、みゃこ?」
「あ、百合ちゃん!」
部屋の奥から百合が顔を出し、聖護院さんが嬉しそうに跳ねる。
聖護院……なんだかお嬢様学校らしいカッコいい名字だなと思いつつ、初めて会う百合の高校の友達にちょっと緊張を覚えてしまうボク。
(百合のヤツ、みゃこって言ったよな。百合が誰かをあだ名で呼んでるのなんて初めて見たなぁ)
多分、寮に入ることを言っていたんだろう。待ちきれなかったという感じに、百合に話しかけに行った美也子ちゃんを見て内心ほっこりする。寮にも入らず
百合と彼女の間には若干温度差も感じるけれど……まぁ、百合はある意味いつも通りか。
「あのぅ……」
「え?」
「すみません、妹が」
「え、あ……美也子さんの?」
「はい、姉です。私も引っ越しの挨拶にと思ったのですが」
美也子さんに取り残される形で、おずおずと声を掛けてきた女の子。
確かに美也子さんより少し年上っぽい。雰囲気としては奏さんに少し似ているかもしれない。ふわっとウェーブした茶髪に、柔和な雰囲気の顔立ち。大きめのメガネを掛けた、そこはかとない母性を漂わせてくる……おっとりした物腰で、お淑やかな雰囲気で、これまたやっぱりすごく可愛い子だ。
確かに姉と言われれば、さっきの美也子ちゃんと顔立ちが似ている気がする。
「ええと、貴女は?」
「あ、ごめん、挨拶が遅れて……えっと、ボクは百合のあ、姉で――」
「えっ!」
話を遮り、彼女が興奮したように両手を握ってきた。そしてぐいっと顔を近づけて……か、可愛い! なんかいい香りもする!
「貴女が百合ちゃんのお姉さん!? ずっと会いたかったの!」
「え、ええと……?」
「私、聖護院京子と言います。二年生です!」
「ぼ、ボクも二年生で……」
「ですよね! 同い年っ! 百合ちゃんから話は聞いてましたけど……本当に話通りというか、それ以上っていうか! 本当に実在してたんだ!」
目をキラキラ輝かせながら、見つめてくる京子さん。話通りとかなんとか……百合のヤツ、何を話してたんだ!?
「あれ? でも……兄様って言ってたような……」
「えっ! あー…………そ、それは多分、ほら、ボクが自分のことボクなんて言ってるから! 子どもの頃から割と男勝りだったというか、だから百合もたまに兄様なんて言ってて、その名残かなぁ……なんて!」
聖護院さんの指摘に、ボクは慌てて誤魔化す。もう何度目にもなるけれど、ボクが元々男だったことは絶対黙ってなきゃいけない。
そりゃあ一ヶ月前は男だったんだから百合がボクを兄って言っていることは当然だけれど……。
でも、まだ名乗ってもいない初対面の相手に早速嘘を吐くことになるなんて……いや、これからどんどんそんな機会は増えていくんだろう。一々罪悪感に襲われていたらキリがない。
「そうなのね!」
幸い、聖護院さんには全く気に障った感じがなかった。良かった……。
「貴女のお名前は?」
「あ、天海碧って言います」
「わあ、すごく可愛い名前! ぴったり! 碧ちゃんって呼んでいい? 私のことも、京子って呼んでいいから!」
「う、うん。分かった、京子……さん」
「さんはいらないわよ? ねっ、お友達になりましょ! 私ずっと貴女とお話してみたかったし、私もこの学院の先輩としてきっと碧ちゃんの役に立てると思うの!」
ぐい、ぐい、ぐい、ぐい、ぐい!
ボクが若干背を逸らさなくちゃいけないくらい、前のめりな京子さん……いや、京子。
お淑やかで大人しそうな見た目に反して、凄く熱烈だ!
「あ、百合ちゃんが美也子を呼ぶみたいに、あだ名とかつけてくれても嬉しいかも。うーんと……きょこ、とかどうかな!」
「きょ、きょこ……?」
「わあ! 私あだ名で呼ばれるなんて初めてなの! 嬉しいわ!」
興奮していよいよ抱きついてきた京子さん改め、京子改め、きょこ……まだ呼ぶなんて言ってなかったのに!
にしたって、こ、これはヤバい。女体化したとはいえついこの間まで男子高校生をやっていたボクに、同い年の、しかもものすっごく可愛い女の子に抱きつかれるのは、本当にヤバい! もう立つものもないとはいえ!
「碧ちゃんは……どうしよっか。普通にあおちゃんって呼ぶのも可愛いし、ちょっと崩してあーちゃんとかもいいかも! ね、どうかしら!」
「ど、どうぞお好きに……えへへ……」
ああ、もうどーにでもなれ!
いい香りだし、体は柔らかいし、なんか夢見心地な気分だ。ボクが男の子だったら絶対好きになってた。女の子じゃなかったらうっかり告白して玉砕していたところだ。
「……姉様」
「はっ!!」
百合の冷たい声が耳を打つ。同時に責めるような視線も感じた!
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