地味に暮らしたい非モテ最硬タンク、攻撃特化の【三皇】と呼ばれる美少女三人を助けた結果、うっかり最強パーティを作り上げ、激病みに愛されてしまう

せせら木

第1話 最硬のおっさん

 たとえば、自分の命が危なくなった絶望的な局面で、最も役に立つ能力とは何だろうか。


 俺――ヤマダ(36)が考えるに、それは圧倒的な防御力だと思う。


 防御力さえあれば、すべての攻撃を防ぐことができ、その足で安全地帯まで逃げ、無事生き延びることができるわけだ。


 命があれば、儲けもの。


 強いモンスターを狩れなくても、高価な資源を採取できなくても、生活を極端に豊かにできなくても、カッコいいところを見せられずにモテなくても、日々を生きるだけで人は幸せになれる。


 それだけでいい。


 防御力さえあれば、平和にのんびりと生きていける。


 だから俺は――


「ステータスオープン、っと」





――――――――――――――

【名前】

ヤマダ

【職業】

タンク

【能力】

攻撃……5

 防御……∞

 素早さ……23

 魔力……12      etc

――――――――――――――





 ……とまあ、こんな感じで防御力にしかスキルを割り振らずに今までやってきた。


 周りからは『ダサい』とか、『カッコ悪い』とか、『モテない』とか、その他思い返せば無限に湧き出て来るんじゃないかと思うほど現在進行形で貶されているが、それはもはや構わない。


 資源豊富でありながら、気を抜けばすぐに命を落としてしまうこの大迷宮で生きていくためには、圧倒的な防御力しかないのだ。


 そこに攻撃力も、素早さも、魔力だってあまりいらない。


 あるのは防御力だけでいい。


 自分と、もしも大切な人ができた時に、絶対守ることのできる圧倒的な守備の力。


 本当にそれだけでいいのだ。


「――ってわけで……よっこらせっと」


 鉱石集めを終え、ちょうどそこにあった岩へ腰を下ろす。


 大迷宮の10層。


 ここが俺の拠点であり、マイエリア。


 強くもなく、弱くもない敵ばかりで、そこそこ価値のあるアイテムが豊富に採れる場所だ。


 初級探索者は、まずこの10層の資源の豊富さに目を奪われ、しばらく滞在しがちなのだが、一定期間を過ぎると、すぐ11層へ移動してしまう。


 理由は簡単。


潤沢な資源で経験値アイテムを作り、それですぐにレベルアップするから、ここで得られる経験値に対して物足りなさを覚えるわけだ。


 ただ、稀にこの場所で大幅レベルアップを望もうとし、俺みたいに能力値の向上を図る奴もいる。


そういう奴を見ると、「頑張ってるなぁ」なんて思うのだが、大抵は飽きてしまったり、パーティメンバーから次の階層へ行くことを促され、移動したりしがちだ。


 俺みたいに一つの能力を∞にする奴なんて見たことがない。


 自分で言うのもなんだが、確実に変態ではあると思う。


 それゆえにバカにされてるわけだしな。まあ、もう慣れてるけど。


「さてと、今日のノルマはとりあえず達成か……? えーっと、銀鉱石がいち……に……さん……し……ご……」


 採った鉱石の数を数え、充分だと判断したところで簡易ボックスの蓋を閉める。


 腰を上げ、拠点に戻ろうとしたところ、だ。


 向こうの方で楽しそうにしてる、探索者集団がいた。


 人数としては四人。恐らく初級パーティの連中だろう。見慣れた光景だ。




「よしっ! 目指すは究極のお宝と強さが得られる最下層だ! 皆! 俺についてこい!」




 思わず笑みが漏れてしまう。


 ああいうのは懐かしい。


 昔、俺にもああいった時代があった。


 若くて、活気に満ちていて、パーティメンバーの奴らと行けるところまで行ってやる、なんて考えてたっけか。


 けど、今は……。


 いや、いい。


 思い出すのはやめにしとこう。辛くなるだけだ。


「……帰るか」


 呟き、ちょうどすぐ傍の地面を見やる。


「……ん?」


 なんとなく違和感だ。


 妙にここだけ盛り上がってるような。


 たぶん、普通に歩いていたら気付かないはずだ。


 不審に思い、何気なく掘ってみる。


「……む? んん……? お、おお、おおぉぉぉ……!?」


 う、嘘だろ……? マジかよ……。


 何でもない違和感のある地面を掘ると、激レアアイテムを見つけてしまった。


 ――ランダムワープボール。


 作動させると、持ち主と認識した人間を大迷宮のどこかへ飛ばすというもの。


 ワープ系の能力は、もちろんこうしたアイテム以外にも魔法で使えたりはするんだが、こいつほどの力を人じゃ発生させることができない。


 大抵は、今いるところから上に五階、下に五階ほど上がれるか、拠点に戻るだけの魔法しかないのだ。


 でも、このランダムワープボールは、上も下も、最下層にだって行けるポテンシャルを持っている。


 ゆえに、強さに自信が無ければ、最悪使用者を死に至らせる危険なアイテムでもある。


 うかつに使うことなんてできない。


 できないから、ピンときた。


 たぶんあれだ。


 これ、俺以外に他の奴がどこかで見つけて、恐ろしくなってここに埋めたんだろう。


 なるほどな。


 だったら俺もそうさせてもらおう。


 元あったように、土の中に埋めて――


「……え?」


 と思ったが、なんかボールがビカビカ光り始める。


 おい……ちょっ、待て。待ってくれ。


「くっ……! う、嘘だろおい……! ぐぁっ……!」


 もう逃れることはできない。


 光は凄まじいほどに輝きを増し、目も開けていられないほどになった。


 体も、何か凄い力で動かされている感じだ。


 マズい。これは完全にやってしまった。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 光と共に、俺の意識は一瞬にして途切れるのだった。

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