第7話 指紋

 こちらの村というのは、前述のように、

「双子が生まれるのが当たり前」

 という、都市伝説があり、他の村では、

「忌み嫌われる双子が、こちらでは、当然のこと」

 だったのだ。

 だから、ほとんど同じ顔がいるのは当たり前、しかし、この村の人間であれば、その人を間違えるということはなかったのだ、

 そういう意味でも、この村は、他の村よりも、さらに閉鎖的で、

「閉塞感」

 といってもいいかも知れない。

 いや、それくらいしなければ、この村は成り立っていかない。そもそも、村というのは、この村に限らず、

「閉鎖的なところがあってこそ、当たり前」

 というべきなのだろうが、この村は、さらに特殊で、その理由を村人に教えるわけではなく、

「他の村人と、接触してはいけない」

 という、自治体であれば、

「条例」

 と言われるくらいに、重要なものだった。

 もし、破ってしまうと、

「村を追放」

 ということになるのだった。

 そう、この村は、それだけでも、まるで、

「鎖国状態」

 だった。

 江戸時代の鎖国との違いは、

「江戸時代であれば、貿易をするという意味で、長崎の出島で、オランダとだけは、国交を開いていた」

 ということで、完全な鎖国というわけではなかった。

 しかし、この村は、自治体との、従属関係だけで、同等の関係の村との交流は一切なかったのだ。

 それだけ、村では、

「自給自足」

 が行き届いていて、江戸時代の飢饉のときも、他の村に比べて、まだマシだったくらいで、

「まわりに助けを請うということはなかった」

 ということであった。

 そんなことが明治時代の途中くらいまで続いたであろうか。国家が、

「対外戦争」

 を行い、それに伴っての、徴兵ということになると、さすがに、

「村からも出さないわけにはいかない」

 ということだったのだ。

「国家のために、村を代表して出征した」

 という人に対して、いくら何でも、

「村外追放」

 などといえるわけがない。

 結局、彼らが出征したことで、今まで

「隠されていた秘密」

 というものが暴露されることになっていたのだ。

 彼らは結局、軍の中で、

「自分たちの村が特殊である」

 ということを知ってしまったのだ。

 しかし、そうは言っても、戸惑いはあっただろうが、徴兵を終えて、村に戻ると、結局また、村の生活になじんでしまい、

「昔と同じ」

 ということになるのだ。

 実際に、村の娘と結婚し、双子が生まれて」

 ということに変わりはなく、

「これが、俺たちの運命なんだ」

 と思ったかどうかまではハッキリと分からないが、この村において、当たり前のごとく、

「俺たちは、これからも、今までの伝統を守る」

 という暗黙の了解に変わりはなかった。

 ただ、彼らは、この村に、ひそかに伝わっている、

「悪魔の紋章」

 というものを知っているのだろうか?

 この村における、

「悪魔の紋章」

 と呼ばれるものは、

「指紋」

 であった。

 これは、他で言われている、

「悪魔の紋章」

 というものとは一線を画していた。

 他のものは、

「七不思議」

 であったり、

「都市伝説」

 と呼ばれているものではあるが、医学的であったり、科学的には、証明されているものであった。

 しかし、ここの、伝説は、明らかに、

「科学的な証明」

 というのはされているものではない。

 しかも、他の場合は、明らかに、

「悪魔の紋章」

 という言葉を使わているわけであり、この村では、逆に、

「村人の紋章」

 ということで、悪いことだというわけではなかったのだ。

 ただ、世の中の、

「常識」

 というべきか、

「医学的に証明されている」

 ということが、この村では通用しないということなのだ。

 それがどういうことなのかというと、普通であれば、

「人間に、同じ指紋は一つとして存在しない」

 と、言われている。

 ただ、それは、あくまでも、今のところ言われているのは、

「同じ時代に存在している人」

 という但し書きがつく。

 なぜなら、

「時代をまたいで、指紋が一致しようがしまいが、関係ないのだ」

 あくまでも、

「犯罪捜査」

 であったり、

「身分証明」

 という意味で使われるので、同じ指紋の人間が過去にいたとしても、そこに一切のかかわりはないわけなので、問題なかったのだ。

 ただ、これも、多くは知られていないことだが、違う村には、おかしな

「都市伝説」

 というものがあった。それは、

「誰かが死ぬと、その指紋が、同委に生まれた子供に宿る」

 というものであった、

 その範囲には、制限のようなものはなく、全世界のどこになるのかは分からないが、そういうことなのだ。

 ということであった。

 ただ、

「同じ時代には、絶対に同じ指紋は存在しない」

 と言われていたのだ。

 ひょっとすると、

「同じ時代に同じ指紋が存在しない」

 ということを証明するために、そのような、

「時代をまたいで同じ指紋が、世界のどこかに宿る」

 という考えが、

「後付け」

 でつけられたのかも知れない。

 その信憑性というものは、あるわけではないが、

「言われてみれば、これも当たり前のことで、あながち、うそではない」

 と言われることなのかも知れない。

 しかし、この村の伝説は、

「ありえない」

 と思われることが、実際にあるという、

 それが、

「都市伝説」

 でも、

「七不思議」

 のどちらでもない。

「明らかに、間違いない事実」

 ということで言われているのだ。

 それは、この村では、

「当たり前のことだと言われる、双子の指紋が、まったく同じだ」

 ということであった。

 もちろん、この村だけの伝説であるが、

「双子が生まれるのが当たり前」

 というところまでは、

「当然のごとく」

 ということで許されることであったが、実際には、

「指紋が同じだ」

 ということも、実は都市伝説で言われていたが、そもそも、この村で、

「指紋を何かに使う」

 ということはなかったので、決められることというのはなかった。

 それを思うと、

「同じ指紋が存在する」

 ということを、

「都市伝説」

 のように伝わったとしても、誰もそれについて疑う人も、信じないという人もいなかった。

 だから、この村では、都市伝説でもなんでもなかったのだ。

 それを分かっているからか、時代が進んで、戦後になってから、指紋が必要になる事態が起こると、

「さすがに、これは、誰かに知られると、パニックになる」

 ということで、自治体の手で、

「情報統制」

 であったり、

「鎖国の村」

 というものを続けた。

 しかし、いつまでも隠し通せるわけはない。

 それでも行おうとするのだから、それがバレることだってあるだろう。

 自治体とすれば、バレた場合は、

「自分たちは知らなかった」

 ということで押し通す。

 それを、村との密約として、決めておいたのだった。

 さすがにそれを、書面に残すわけにもいかず、令和の今まで、ひそかに守られてきたことで、それが、どこにもこれまでバレなかったという方が、

「指紋が同じ」

 ということよりも、よっぽど、すごいことなのだろう。


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