第4話 伝説の村
ある北国の県に、Tというところがある。今の時代は、観光地になっているようで、博物館になったようなところがあった。そこの村には、妖怪や伝説などがあり、民俗学の先生が、風俗などの研究をしているようだった。
昔から、いろいろな研究が施されていて、そこでは、大学生になった頃の瀬戸口が訪れていた。
瀬戸口は、その頃から、民俗学に興味を持っていて、特に、妖怪、伝説のたぐいは、興味があったのだ。
実際には、怖い話は苦手であったが、大学に入ってから、研究するのが一人ではないということで、大学生になってから、民俗学研究会に所属し、サークル内の活動は、当然のことながら、サークル活動以外でも、積極的に、いろいろ赴いているのであった。
だから、一年生の頃から、いろいろなバイトをしていた。
もちろん、お金に困っている時というのは当たり前のことであるが、それ以外の時であっても、アルバイトをして、小遣いを稼いでいた。
そのほとんどを、一年生の時は、
「旅行代」
に貯めていた。
民俗学の研究を始めたきっかけというのが、そもそも、旅行好きだったことで、ある温泉地の、
「民芸村」
なるところが気に入ったことから始まったのだ。
その民芸村というところは、そもそもが、その温泉町の観光スポットとして営業していて、こじんまりとしたところであったが、その村の中でも、観光地の中心にあり、特に、若い女性に人気があったのだ。
大学生になりたての頃は、女の子の動向が気になってしまい、旅行に行くのが好きだったのは、
「旅の恥はかき捨て」
ということで、普段は女の子と話をすることすら恥ずかしいと思う、シャイな性格だったのに、旅行に行くと、自分から声を掛けたくなるくらいであった。
そんな瀬戸口は、よく各駅停車に乗った。各駅停車限定の安い切符があり、約2,000円で、一日乗り放題というものだった。
ここで、約という言葉を使ったのは、途中、ところどころで、値段が上がったからである。
その切符は、冊子になっていて、最初は5枚つづりで、一万円で、そのうちの2枚が、2日分、有効だったので、結果、一万円で、7日間の旅行ができた。
しかし、今は、値段が上がったことで、一万二千円で、1日分が有効な5枚つづりになっていた、
瀬戸口が使っていたのは、まだ発売してから、間がない頃だったので、本当に初期の値段だった。
この切符はかなり特殊で、
「1日分」
という制限が掛かっているので、
「午前0時を超えて、最初に到着した駅までが有効」
ということになっている。
しかも、もう一つの特徴は、
「基本的に、各駅停車と快速電車だけが有効だったので、急に特急や新幹線を使いたいと思う時、特急券だけの購入でいいわけではない。乗車券から買いなおす必要がある」
ということである。
つまり、完全に、各駅停車専用であり、特急券と併用したとしても、その切符は使えないということになるのだ。
そんな切符を使って、電車に乗ると、その目的として、
「どこから乗ったのか分からない」
ということもあるようだ。
そんな中で、その時、出かけた街が、T町だった。
観光化されてはいるが、妖怪や都市伝説の街、それなりに、大人しめの街並みで、それなりの様相を呈していた。
それを思うと、今まで行ったことがなかった町に初めて行ったという感覚と、田舎町の閑散とした雰囲気が、
「また来てみたい」
という思いに誘ったものだった。
その街には、一年生の間に2度訪れた。
その場所において、祭りがあった時に出かけたのだが、その祭りがあることを教えてくれたのが、
「以前この街で知り合った女の子に教えてもらった」
ということからだった。
それも、知り合ったのは電車の中で、その時に、その子は、友達と一緒に旅行の最中だったのだ、
相手も、同じ切符を持っていて、まだその時は、その切符は今ほどメジャーになっていなかったので、
「今まで続くなど、あの時は思ってもいなかったな」
と感じるほどだった。
だから、お互いに、同じ切符で旅をしているということで、意気投合したのだった。
その頃の、瀬戸口は、旅行の計画を立てるということはしていなかった。
もちろん、最初の日だけは、ちゃんと計画し、宿も予約をしていた。その時の宿というのは、今では見ることがなくなった、
「ユースホステル」
というところで、全国の主要観光地などには、一つくらいはあったものだ。
そこでは、どちらかというと、
「知らない者同士が、合宿をする」
というイメージで、
大学生などが、一人旅や、友達と旅をするということに特化したところであったのだ。
だから、宿では、スタッフのことを、
「ピアレントさん」
と呼び、挨拶も、
「いらっしゃいませ」
ではなく、
「おかえりなさい」
であり、
「いってらっしゃい」
は、
「いってらっしゃい」
なのだが、それは、
「また、戻っておいでね」
ということを含めた言い方であった。
それを思うと、完全に家族であり、合宿であったり、ボーイスカウトのような感覚に似ているのである。
ユースホステルというのは、食事を作るのは、ヘルパーさんだが、後片付けの洗物は、自分たちでするということがあたり前であった。
そして、食事の後には、皆でロビーに集まって、自己紹介から始まり、ゲームなどに興じたものだ。
それこそ、楽しい、大学のサークルでの合宿を思わせるのだ。
それを思うと、大学というところも、
「本当に楽しい」
と改めて感じさせ、
「ユースホステルの楽しさ」
というものを、実感させられるのであった。
そんな合宿が楽しくて、さらに仲良くなった人に、
「明日の予定」
を聞いて、まだ行ったことがないようなところであれば、
「じゃあ、俺も明日はそっちに行こうかな?」
ということで、そこで初めて翌日の行動を決めるのだ。
「ユースホステル」
の部屋が空いているということが、大前提であるが、ほとんどの場合は、大丈夫であった。
だから、大学時代の旅行というと、
「その特殊切符を使って移動し、宿はユースホステル」
というのが当たり前になっていて、それだけ毎日が楽しかったのだ。
今の時代に、ユースホステルもあまり聞かなくなったが、結構年齢を重ねた人も多かったりするのだ。
そして、その時の彼女は、その時だ微先であった女の子だった。
よく聞いてみると、同じ町の、女子大生だという。彼女の方は、女子大なので、同じ大学というわけではないが、大学生同士の交流は結構行われていて、友達の彼女にも、そのそこの大学生が多かったのだ。
「同じ大学の方がいいのでは?」
ということであったが、当時は、四年生の女子大生というと、どこか、
「お高く留まっている」
と言われることが多かったようだ。
だから、どうしても、近所の女子大、特に短大の女の子をゲットしようとする。それこそ、
「都市伝説」
のようで、おかしかった。
その彼女と知り合ったのが、ちょうど、一年生の時に例の切符で出かけた時、彼女も一人旅だった。
その時は、ちょうど2日目で、その地方の大都市で、観光名所がたくさんある街を観光し、あてもなく、次の街を探っている時に、電車の中で、出会ったのだ。
一人で電車に乗っていて、いかにも旅行というような、リュックを持っていたので、
「一人旅だ」
とピンときた。
登山であったり、何かのスポーツであったら、一人ということはないと思い、可能性としては、
「一人旅が一番だ」
と感じたのも、無理もないことであった。
声をかけると、案の定、一瞬たじろいだが、すぐに我に返った。普通であれば、虚勢などが少し見えたり、脅かされたことで、嫌な表情が少し滲んできてもよさそうだが、そんな雰囲気はなかったのだ」
彼女と少し話をすると、雰囲気は冷静沈着に見えるが、それは、落ち着いているというよりも、暗さが目立つ感じだった。
言い方は悪いが、
「何かにとりつかれているかのようだ」
というのが、ちょうどいい表現かも知れない。
だが、瀬戸口は、そんな女性に興味を抱いたのだ。自分は怖がりなところがあるので、そんな自分にはないところを持っている女性ということで、そこが気に入ったのだった。
そもそも、彼女の何に、興味を惹かれたのかというと、
「暗い雰囲気なのに、嫌な気分にさせないところがある」
というところで、それが、彼女の趣味趣向にあるということが分かったのだった。
なぜなら、彼女と話をした時、まだ、瀬戸口はどこに行こうかということを決めていなかった。
だから、
「T町に行きたい」
と言われた時、ピンときたのだ。
怖がりの瀬戸口の中には、
「T町」
という選択肢はなかった。
「あんなところに行くくらいだったら、もっといいところはたくさんある」
と思っていたからであって、意外な彼女の口から出てきた言葉に、
「やっぱり俺が怖がりだということを分かっていないんだな」
と思ったがそうではなかった。
こっちが、
「じゃあ、一緒に行こう」
と言った瞬間、彼女は堰を切ったかのように、T町の自分なりに感じたいいところを口にするのだった。
その時の彼女の変わりようは、それまでの暗い雰囲気が一気に明るくなった。それを聞いて瀬戸口は、
「なんだこれは?」
と一瞬、たじろいだが、
「彼女って、二重人格だったんだ」
と思えば納得がいった。
誰だって、自分の得意な話になれば、我を忘れて、喋りまくるという性格を持っていることだろう。
「T町は僕も行ったことがないので、行ってみたいと思っていたんだ」
と、半分ウソ、半分本当のことを言った。
「行ったことがないのは、本当」
で、
「行きたいと思っていた」
というのがウソである、
しかし、それでも、ちゃんと文章が通じるというのは、実におかしなもので、それだけ、その二つは、
「表裏の関係にある」
といってもいいだろう。
これは、
「長所と短所」
という考えと同じもので、
「長所と短所は紙一重だというが、まるで二重人格のそれぞれの性格のように普通であれば、まったく違うものだ」
ということに似ているといってもいいだろう。
それは、
「二重人格」
と同じようなもので、決して、
「多重人格」
ではない。
「お互いに、相対的な関係だ」
ということは分かっていて。いわゆる、
「ジキルとハイド」
の話を思い出す。
この話は、ジキル博士が、自分の開発した薬を使って、自分の中にあるであろう、
「もう一人の自分」
というものを、あぶりだすということであった。
だから、ジキル博士は、自分でその薬を飲んだということは、。
「自分の中にもう一人の自分がいる」
ということが、前提になっているのだ。
ということが、博士が思っているのは、自分だけではなく、自分以外の人も全部に渡って、同じことが言えるという発想であった。
そんなジキル博士の、
「自信」
というのは、どこからきているのだろう、
「信じて疑わない」
という気持ちがなければ、そんな簡単に自信が持てるわけはないはずだ。
そんな二重人格の、
「代表例」
といえる、
「ジキルとハイド」
の話は、最初から、分かっていての、まるで出来レースのように思えた。
誰もがそう感じているという核心部分をいかに、ごまかしながら、実際には、正反対だといっていいはずだが、言い切れない部分を、自分だからこそ、証明できるかのように考えるということだった。
「二重人格というものが、すべて、正反対のものだという根拠は、自分の中にあるものだから」
ということだからだろう。
同じ人間の中に、同じものが存在するわけはない。それを同じではないとするから、
「二重人格は、正反対の性格だ」
といえるのだろう。
「1+1=2」
という形にすべてがなっているのだとすると、小学生の時分からなかった理屈が、
「やっと今になって分かってくる」
ということになるのだろう。
それを考えると、
「人間というのは、数式で割り切れるような、単純なものなのかも知れない」
と考えるのだった。
「もう一人の自分」
というものの代表例として、
「ドッペルゲンガー」
というものが考えられる
これは、世の中には3人いると言われる、
「よく似た人」
というわけではなく、本当に、
「もう一人の自分」
ということであって、さらには、
「ドッペルゲンガーというものを見ると、近い将来、死んでしまう」
という伝説があるという。
これこそ、一種の、
「都市伝説」
ではないか?
しかし、この話は現代の伝説ではなく、結構前から言われている。さらに、昔の著名人が、
「ドッペルゲンガーを見たことで、死んでしまった」
という話も伝わっている。
「エイブラハム・リンカーン」
「芥川龍之介」
などが、その代表的な例だと言われている。
ドッペルゲンガーを、
「どうして見るのか?」
ということに関しても、いろいろな謂れがある。
「同一時間、同一次元に存在している人間がいるのは、タイムパラドックスに違反しているということになるので、片方を殺しにくる」
という考え方であったり、
「そもそも、ドッペルゲンガーというものを見るというのは、精神疾患によるものなので、死んでしまうというのは、ドッペルゲンガーを見たから死んだわけではなく。その精神疾患、つまり、脳の病気によって死んでしまうということが原因なのではないか?」
ということであった。
つまり、ドッペルゲンガーというものを、ハッキリとは分かっておらず、いろいろな説があるのだが、それに関しても、根拠たるものが、存在しての考え方であった。
曖昧さはあるが、その中でも、
「理屈は通っている」
という意味で、
「都市伝説」
というほどのものではないということになるのではないだろうか?
ただ、
「ドッペルゲンガー」
という言葉は、詳しく内容を知っているかどうかにかかわらず、
「名前だけは知っていて、もう一人の自分を見ると死ぬ」
ということだけは、知っているという人がほとんどであった。
だから、この内容だけを聞けば、
「ああ、これは都市伝説なんだな」
といえるが、考えられること、ほとんどすべてに、その理由が分かっているというのであれば、もはや、
「都市伝説ではない」
といってもいいのかも知れない。
そういう意味で、
「都市伝説に近い」
というもので、こちらは、心理現象だといってもいいのだろうが、何かというと、それは、
「デジャブ」
という現象である。
「初めて見るはずなのに、かつて、どこかで見たり聞いたりしたことがあるかのように感じる、一種の錯覚のようなものだ」
といってもいいだろう。
「ドッペルゲンガー」
と違い、デジャブに関しては、原因が何なのか、説はあるが、信憑性はないというものであった。
「T町」
にやってきた時、彼女と初めてあったはずなのに、初めてではないと感じたのだったが、それが、自分では、
「デジャブだ」
ということに気づかなかった。
もちろん、
「デジャブ」
という言葉も知っていたし、デジャブというものが、どういうことなのかということを知っていたので、この思いがデジャブに繋がらないはずはないのだが、その時は、
「デジャブだ」
とは思わなかったのだ。
「ああ、あれがデジャブだ」
と感じたのは、
「T町」
を離れてからだった。
「離れた瞬間に、気づいたのだ」
といってもいいかも知れない。
「T町」
というところは、妖怪や伝説のたぐいが昔からたくさん残っているところで、
「怪奇現象」
というものも、感じるという人は少なくなく、一定数いるということであった。
そんな
「T町こそ、その街全体が、都市伝説なのかも知れない」
と思うことで、
「デジャブ」
というものが、街を離れた瞬間に、
「自分に降りてきた」
と感じることができたのであろう。
それを思うと、怪奇現象というものが、いかに、曖昧には思えるが、
「辻褄が合っていることもある」
ということであろう。
「デジャブという現象は、本当は覚えているのだが、完全に覚えているということになあると、自分に何らかの危険性が及ぶ」
ということで、
「わざと曖昧にしている」
と言われるような話を聞いた。
となると、デジャブ単独というよりも、他の心霊現象であったり、不気味なものが絡みあうことで、それが、一つの結論になったかのように思えるのかも知れない。
つまり、
「デジャブというのは、他の何かと一緒になって存在するものなので、そのもう一つの存在を意識しないと、いつまで経っても、理屈が解明されることはない」
という意味で、
「交わることのない平行線」
というものを描くことになるのだろう。
ということであれば、その、
「もう一つ」
というのは何であろうか。この場合に考えられるのは、
「ドッペルゲンガーではないか?」
ということであった、
そこにいる、もう一人の自分が、意識できているかいないのか、
「もう一人の自分は、自分であって、自分ではない」
ということを考えると、やはり、そこには、
「デジャブ」
という現象と、
「抱き合わせの感覚」
があるのかも知れないといえるであろう。
ドッペルゲンガーのような妖怪が、きっと、この
「T町の伝説の中に存在していて、分かっている人も結構いる」
ということであろう。
それが分からない、瀬戸口だから、
「デジャブ現象」
というものに、見舞われるのかも知れない。
そんな現象を感じさせる
「T町」
において、昔から伝わっていた不思議なもののひとつとして、
「悪魔の紋章」
と呼ばれるものがあった。
これも、
「都市伝説のたぐいなのか?」
あるいは、
「七不思議なのか?」
そういわれていたようだった。
この
「悪魔の紋章」
というのは、ある妖怪を模した絵が描かれている中に描かれているというもので、最初は、
「何かのシミのようなものではないか?」
と言われていたようだが、実際には、シミではなく、
「意識して描かれたものだ」
と、民俗学の先生が言い出したことで、有名となったのだ。
そもそもは、この街の伝承を描くことが専門だった、作家の先生がいて、その人が気づいていたようなのだが、先生は、自分でそれを発表しなかった。
それは、
「曖昧過ぎて、発表できない」
ということで、その時は、
「都市伝説」
だったのだが、それを引き継ぐ形で、民俗学の先生あ研究した。
ちなみに、
「この二人に関連性はなく、知り合いでないばかりではなく、面識すらなかったのだ」
しかし、
「先生が引き継いだということは、その悪魔の紋章というものは、分かる人には分かるということなのかも知れない」
といえるだろう。
完全な解明などできるはずはないが、いかにも、この、
「T町の伝承」
と言われるところまでは、落とし込んだようだ、
ひょっとすると、先生にはある程度分かっていたのかも知れないが、
「T町の伝承」
という、
「七不思議」
というものを先生は、発表したことで、見る人が見れば、
「伝承だ」
ということになるのだろう。
「悪魔の紋章」
この言葉は、
「T町においての都市伝説から、七不思議に昇格した」
ということになるのだろう。
「悪魔の紋章」
というのは、全国津々浦々で伝承されるものであろうが、結局は、七不思議として伝わっていることの方が多いのかも知れない。
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