第4話 キッチンの仕事と役割


 イギリスのレストランは大体が前菜、メインディッシュ、そしてデザートの3コースで提供されます。

 

 前菜は注文が入ってから大体10分以内で調理可能なものが選ばれますが、大体どこのレストランでも若年のシェフが担当します。

 

 そして次にメインディッシュですがこの調理にかけられる時間は20分から30分位です。

 このメインディッシュは3人がチームを組んで作り上げます。

 

 1人目は肉や魚を調理するシェフでミートシェフと呼ばれます。グリルやフライパン、オーブンを使って調理し、その横でそれに合わせたソースを作ります。

 

 2人目はガーニッシュシェフと呼ばれます。ガーニッシュとは付け合わせという意味でメインディッシュの付け合わせを調理するシェフです。

 

 このミートシェフとガーニッシュシェフは一つのテーブルの人数分のメインディッシュを同じタイミングで仕上げなければならないのでコミュニケーションをとりながら完璧な状態で同時に3人目に渡します。

 

 3人目はパスと呼ばれるシェフでガーニッシュシェフとミートシェフから渡された料理をお皿に盛る仕事をするシェフです。またこのパスのシェフはすべての伝票を管理しながら調理の進行具合の確認もします。パスはオーケストラだと指揮者のような役割をします。

 

 この役割はたいてい年長者の料理人が担当します。このパスが納得できない仕上がりで料理が上がってくるとすべての料理をもう一度最初から作り直しさせられます。

 

 料理は人の手が作るものなので毎回同じ時間で同じ仕上がりにはなりにくいし、忙しくなればなるほど思いがけないアクシデントや不運に見舞われます。


 たとえばいつも使っている器具が調子がよくないだとか、使いたい鍋やフライパンがまだ洗い場から戻ってきていないなど完璧な状態はほとんどありません。そんな小さなアクシデントが仕上がり1分遅らせてしまうことがよくあります。


 そんな時、パスのシェフが出来が気に入らないとか、タイミングが合ってないという理由でもう一度初めから作り直すように言われると自分だけではなく3人とも仕事が増え、その後のテーブルの料理にまでずれ込んで支障が出ることになるのでとても強いストレスを感じたりします。

 

 そのためミートシェフとガーニッシュシェフはお互いのミスをかばい合い、パスのシェフのご機嫌をうかがいながら仕事を進めていきます。言葉を使わずお互いの顔色と目の動きで気持ちを伝えることが出来るようになるのでとても仲良くなります。


 次にデザートシェフです。デザートシェフは若いうちから専門にデザートを学び、仕事にしている人がほとんどなのでほかのキッチンスタッフとは持っている技術が全く違います。


 なので経験の多いシェフでもデザートの知識があまりないことが多いです。デザートシェフを雇う余裕のないレストランでは簡単なものだけ手作りし、特別な技術が必要なものは業者から完成された物を買って提供しています。


 しかし格式のあるホテルやアフタヌーンティーに力を入れているレストランでは他との差別化をはかるためにデザートシェフを雇ったり育成したりしています。

 大抵キッチンは男性スタッフがほとんどですがこの部署だけは女性が多く、キッチンの雑踏や怒り声からは少し離れた静かな場所になります。


 しかし、デザートはメインディッシュの後、ゆっくりとおしゃべりしたりお酒を召し上がってから注文されることが多いので、キッチンスタッフがみんな片付けを終えて帰ってしまってからオーダーが入ることが普通です。女性が多い部署だけに夜遅くなってからの帰宅が心配されたりもします。


 またこの部署は料理に添えるパンを作ったりもします。ほとんど火を使うことがないのでガスコンロから遠い所に位置しており、専用のオーブンと大型ミキサーを持っています。


 

 そして次に朝食シェフです。大体20部屋あるホテルで一人専属の朝食担当シェフを使います。なので40部屋の場合は2人の朝食シェフが必要になります。


 朝食のサービス時間は大体どこも朝7時から10時までです。パンやフルーツやジュース、シリアルやヨーグルトなど冷たいものはビュッフェスタイルで用意されており、それに加えて温かい新鮮な食べ物を朝食担当シェフが作って提供します。


 朝食というのはだれしもがこだわりが強く、朝食の注文は普通のディナーのお客さんの注文よりこと細かくて伝票が長くなることがよくあります。

 卵料理ひとつにしても目玉焼き、ポーチドエッグ、スクランブルエッグ、オムレツ、ゆで卵があり、卵の火の通し方なども詳しい要望がある他、食材の好き嫌いが詳しく書かれた伝票がキッチンまで届きます。

 

 ディナーのオーダーに関してはお客さんはステーキの焼き加減以外はそれほど注文を細かくいってくることはありません。それはお客さんが自分が注文した料理の知識をそれほど持っているわけではないので気に入らなかったら食べた後に苦情が来ることはありますがオーダーの時、細かな注文が来ることはまずありません。

 卵やベーコンに関してならば自分で毎日作っているものなので朝食シェフにも頼みやすいのかもしれません。


 次にC&Bシェフです。このシェフはイベント時の専門シェフです。結婚式がほとんどですが最近では幼児の洗礼儀式や大規模なバースデーパーティー、会社のミーティングのケータリングの料理を提供します。

 

 結婚式ではまず最初にシャンパンと一緒にカナッペがサービスされます。立食になるので一口サイズで食べやすい物が提供されます。大体カナッペからディナーまでの時間は2,3時間あり、シェフはその間にディナーの準備に取り掛かります。ディナーの後はホールでダンスパーティーが催され、その後半に温かい肉のホットサンドウィッチやチーズボードなどの軽食が提供されます。

 

 食事の内容はイベント主催者とレストランのイベント担当マネージャーが事前に何度もミーティングをして決められていますがいつも必ず当日になってアレルギーやグルテンフリー、ベジタリアンなどの変更事項が発覚してキッチンスタッフを困らさせます。


 また結婚式はなかなか時間通りに進めるのが難しいイベントで、スピーチの長さや写真撮影などで大幅に時間がずれこむことがよくありスケジュールを狂わせます。


 料理を温かく完璧な状態で提供するにはキッチンスタッフと接客スタッフとの完璧なコミュニケーションが必要になります。結婚式は準備する食事の人数も多いので急な変更が難しい上、短時間の間にたくさんの仕事があるのでいつも緊張して仕事に取り組む必要があります。


 しかし仕事がうまく遂行した喜びも格別です。たくさんの料理を時間通りに高水準で提供できた時の達成感や誰かの特別な一日の思い出作りのお手伝いが出来たという誇らしい気持ちにやりがいを感じます。



 続いてプレップシェフです。プレップシェフはディナーサービスの時に特別な持ち場はなく、柔軟にいろんなシェフの手助けをします。若いプレップシェフの一番大きな仕事はジャガイモの皮むきです。イギリスではとにかくフライドポテトの注文が多いのでこのポテトの皮むきだけでもかなりの量になります。


 それ以外でも野菜をカットしたり、いろいろなシェフのお手伝いをするので若いシェフが仕事を覚えるには最適です。愛想がよくて人に好かれやすい性格だと上のシェフ達から可愛がられ、いろんな仕事や技術を教えてもらえます。そうなると早くから自分の持ち場を与えてもらえ、自分より下のシェフを使うことが出来ます。

 でもなかなかむつかしい立場なのでここであきらめてやめていくシェフも多くいます。

 




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