第2話 イギリス最初の仕事


 イギリスに住み始めて最初の半年は仕事探しに苦労しました。知り合いのつてでパートタイムの仕事は時々入ったものの暮らしを安定させるために腰を据えて働ける場所を探し続けました。

 そこで見つけた最初のフルタイムの仕事が中華系レストランのキッチンの仕事でした。

 当時は簡単な意思疎通も困るほどの英語力でしたが日本人だということに興味を持ってもらえて面接もそこそこにすんなりと入ることができました。


 そのレストランはかなり大きなキッチンで厨房スタッフだけでも15人もいましたし、そのほとんどが英語を話せない中国人でした。そこで私は簡単な中国語や漢字を使って意思疎通を図りましたがキッチンの仕事に慣れると会話がなくてもなんとなく仕事ができるようになりました。


 シェフはみんな中国人でしたが洗い場の学生はマレーシアやベトナムの学生5人ほどがシフトを回していました。この洗い場の学生と厨房の中国人たちは全く会話をせずに仕事をしていました。何か伝えることがある時はまず鍋をたたいて注意を惹き、必要なものを指さすだけでした。


 洗い場の学生たちはキッチンの中国人たちにかなり気を使っていたし、中国人シェフたちも学生たちと仲良くしたいと思う気持ちはないようでした。どうしても難しい話をしなければならない場合はウエイトレスの子たちを介して英語と中国語で会話していました。


 ここでの私のポジションはサラダ、デザートのシェフでした。時給は6,50ポンドで当時の最低賃金でしたがこの厨房では料理長と副料理長以外はみんなこの金額でした。

 朝9時から仕込みが始まり11時にオープンしてランチタイムが落ち着いたら順番で休憩に2時間ほど入ります。そしてまた夕方の仕込みが始まり夜9時にラストオーダーで片付けに入ります。週6日働き休みは平日の1日だけもらえます。


 しかし、嬉しかったのが従業員の食事は1日2回すべてオーナーが負担してくれることでした。これにより貧乏な学生たちも大人たちも食事に困ることはありませんでした。食事は外に段ボールをひいてその上にみんなで座って食べました。


 また2時間の昼休憩は薄暗い倉庫でビーチ用ベッドと寝袋が用意されていて、ここに5,6人が男女同じところで寝ていました。

 今、この姿を思い出すとイギリスではないどこか別の国に迷い込んだような感じでした。しかしそのような環境の中でも仕事を続けていくことができたのは次第にみんなが可愛がってくれるようになり、よそ者だった私を仲間に入れてくれるようになったからでした。


  最初はシャイで仲良くなるまでに時間がかかる中国人たちでしたが次第に慣れてくると簡単な英語や顔芸を駆使して笑わかせてくれるようになりました。また中国の人たちは仲良くなると人の口に食べ物を入れてきます。包丁を使っている時や鍋を振っている時でさえ手で口まで食べ物を運んできます。

 これには最初戸惑いましたがそのうちそれも愛嬌かと受け入れるようになりました。


 中国の人たちの国民性もあると思いますがみんなが同じ過酷な環境だからこそ仲間意識が強く、外国から来た心細さと同郷の懐かしさを持ち寄り、肩を寄せ合って一生懸命生きているような感じがとても好きでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 木曜日 20:00 予定は変更される可能性があります

キッチンで働くということ はじめ次郎 @JHajime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ