キッチンで働くということ

はじめ次郎

第1話 はじめに

 私は長年、イギリスと日本のレストランでシェフとして働きました。そして10店舗以上のレストランのキッチンを経験しました。この数が多いのかどうかはわかりませんが貴重な経験が多く、良い所も悪いと思うところもありましたが、この経験を文章と写真で誰かに伝えたいと思いました。

 

 料理の世界はまだまだ封建的でこれから料理の世界に飛び込もうとする若者には厳しい世界です。パワハラが当たり前に存在し、いじめに苦しむ新米シェフも多くいます。賃金も底辺からのスタートで努力と根性で少しずつ向上していきます。料理の世界で成功したくて飛び込む人もいるし、そうでない人もいます。

 

ホテルのレストランは利用者から見たらきらびやかで洗練された一流の社交場のように思えるかもしれません。しかし、その裏は必ずしもそうではありません。つらいことも多い反面、もちろんうれしくて誇らしい気持ちになることもあります。料理が好きで努力することが苦にならない人もいるし、人生に投げやりな気持ちで働き続けている人もいます。

 

 また近年は食べ物のアレルギーやダイエット食が増えてきているので提供する側は細心の注意を払わなければなりません。また繁盛期と閑散期の人員確保と削減もレストランにとっては心を痛める問題です。


 この2つはとてもバランスが難しく、人員削減をすれば一人当たりの仕事の負担が増えて注意がおろそかになりがちです。レストランのスタッフはいつでもかなりの緊張感と疲労感を感じながら仕事をしています。そのために、職場はきつい言葉が飛び交い、いじめやケンカが絶えません。

 

 しかし、苦しいことばかりでもありません。レストランで働いていると様々なドラマチックな出来事が多々起こります。それは思いがけない新しい味の発見や、新しい技術や食材との出会い、また同僚に助けられたり、助けたりしながら大きなイベントをやりとげた時、苦しい時はほめあったり、なぐさめあったりしながら友情を築いていく時などです。このような出来事はドラマや映画の脚本に書かれやすく、それにあこがれてこの世界に入る若者も多くいます。

 

 今、思い出しても顔をしかめるような苦い思い出も、自然と笑みがこぼれてしまう楽しい思い出も両方同じくらいありました。

 この本がレストラン従事者たちからも共感してもらえれたらうれしいです。





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