モノローグ(桜井)

     ◯


 一体、柳とは何者なのか? 奇人か?変人か?それとも偉人か? ……いや、現時点では偉人には程遠いわ、アレは。

 ……ただ、何となく私は、柳の成れの果ての偉人(ベートーベンJr.?)には憧れる気はしないなあ、とだけ思った。そしてこの話し合いの決着として、こう締め括った。


 ……柳の見出したその答えは、間違いではない、正しいものよ。何故ならそれは、柳の思い込みや個人的な主張ではなく、客観的に証明される「真実」だから。

 でも、私がその「真実」で、この先を生きていくとしたら、それは「死」にも等しいわ。何故なら柳のその認識手段は、ハッキリ「確定」させる事、それはつまり決定済みの「過去」そのものを意味すると思うから。


 柳、……真の「海」とはね、「生きている」のよ? 

 ~~波に揺らいで~~絶えず変化し~~ 〜 〜〜〜 〜〜その姿は時と共に移り行く~~まるで「生命」そのもの様に〜〜〜〜


 果たして……柳の「海」は、「波打って」いるかしら? ——波の高さが常に一定なら——全く変わらないなら——その姿は永遠に直線を引き続ける——————それこそが「死」なのよ。

 私は、橋の欄干も頼りにせず〜〜(目を閉じながら)~〜フラフラと歩き出す~~そして~〜物思いに耽ったみたいな〜~誰に向けて喋っているのか分からない〜~そんな焦点の定まらない浮いた声で~~心の中でこう呟く~~


  (◯) (◯) (◯) (◯)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

  (私)   (私) (私)   (私)−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 (先が見えないって……)~〜(どこに何が映るかはまだ分からない……)~(けれども可能性は◯の数だけ無限大……?)~〜(もしそれを「未来」と呼ぶのなら……!)〜


 そして~〜フラついた千鳥足を~〜あの例の地点、そう、この「私」の「スタンディングポジション」に確りと踏み込んで自立し——すぐさま一秒先の未来へ「目を開き」——「柳」に向かって、こう直球をぶつけた——


     ◯

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

     私

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 「見るって事。——それはもう変えられない現実。——当然、それは唯◯つのみ。——現実(リアルタイム)は訪れたその瞬間に過ぎ去って行く。————」


 ……「現在」は、今この瞬間にも確定した「過去」へと置き換わる……

 柳の……その認識手段を用いて、私が世界の何たるかを理解するとなれば、それは実質的には、過去のデータや出来事の分析と大して変わらないかもね。そんなのは私からすれば、皆が経験済みの事を理解する事と同義だわ。

 確かに百通りの場数を踏んだ経験が、百人の私を存在させる……それは私の強み。けど勘違いしないで欲しいわ……過去の経験を参考に、それを用いて石橋を叩いて渡るような生き方は、私のスタンスじゃあないわ。

 柳、あんたは今日の新聞に載っている前日の天気図だか記号を見ていればホッと一安心でしょうけど、私は予想天気図……いいえ、そうじゃなくてっ、明日はどうなるか、雨が降るか槍?が降るか、全く予想出来ない、この真の世界を理解(征服?)したいわね!  

 私のスタンスは常に柳より前に、先へ……よ。そ、プログレよ! 今までも、これからも、この刹那……瞬時に過ぎ去って行く現在の先の「未来」を向いて生きるだけよ。

 とは言っても……「過去」を向いて生きることもまた正しなのよ、ね。例えば、伝統とか古典ってものよね。柳の好きな?ベートーベンとか。

 私も作品鑑賞だけなら古典志向だし(……けれど、私自身が作品を創作するとなれば間違いなくプログレ……じゃなくてっ、アバンギャルド、即ち「前衛」だわね)。……まあ、私の未来は芸術とは無縁だし何だっていいけど。


 もう……何て言うか、勝負とかどうでもよくなった。改めて自分のスタンスを再確認した。そ、これが「私」なんだと。


 最後に柳に一言。

 ……私、あんたに倣って遠回しに言うけど、そろそろココから「消失( )」するかもよ? あ、別に亡くなりはしないけど。

 で、柳はこの先どうする……?

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