モノローグ(桜井)


 柳は空を見上げたまま、……である。何を考えているのか全く理解に苦しむ無表情。元より飄々としていて、喜怒哀楽みたいな感情を読み取れないタイプだけど。反面、疑問に思うだとか困っただとか……曰く言い難い感情になると微妙な顔をする。なのでこの妙に不自然な無表情、ポーカーフェイスとも若干言い難いし……どうもあれは何か不都合を隠している顔と見た。パッとしない曇り顔とも取れるけど。

 一、二分経ってようやく柳が口を開く、……とりあえず美術なんだし何か描こう、桜井は山だろ?自分が川でさ……とか何とかわざとらしく言った。時間稼ぎっぽいのは丸分かりだけど、どうせ六限も美術だし、後はそのまま自主解散みたいなものだ。まあ私としても様子見は別に都合悪くないけど……山、ねぇ……


 柳、山を描くのって私あまり得意っていうより好きじゃないのよね、デカ過ぎて何処から見ても代わり映えしないから構図もワンパターンだし、動かざること山の如しだから安定感ありありで変化がないでしょう、何かハッキリし過ぎで面白くないのよ、誰か描いても似たり寄ったりの三角形みたいなね……と、少し愚痴っぽく言った。

 じゃあ川なら面白いのか?と、柳。

 川、かぁ……まあそうね、川って諸行無常じゃないけど、流れは常に止まることがないでしょ、流動するものを静止させて描かないといけない、まあ面白いって言うより挑戦し甲斐があるわよ。一瞬の光の移ろい、水の揺らめきを抜き出して表現したモネじゃないけど、そんな感じよね。

 一瞬の、光かあ……と、柳。柳の表情が移ろい始めたのが、分かった。さっきまでのポーカーフェイス擬きの顔から、あの疑問の顔に変わって、そして——

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