モノローグ(柳)

               ◎


 困った……目的地まで来たものの、空模様が微妙だ、少し曇っている。実を言うと、曇っていては話し合いは無理なんだ、なんて桜井に言ったらどうなるだろうか? 桜井の方をチラッと見やる、何かさっきから顔色が曇っている様な気もしないではないが……いや違った、もう雷が落ちそうで怖い、慌てて視線を空の方へずらした。

 雨が降りそうな雲ではないが、太陽が今は薄灰色に覆われている。空全体として見れば空色と薄灰色が半々の割合だ。それでも一般的には好天と判断される空模様だろう。

 そう言えば新聞の天気図でここ最近◎(曇り)の天気記号って見なかった。今日の新聞の天気図では新潟◯(快晴)であったが、もちろんそれは前日二十一時の天気図だから予報が外れたという訳ではない、そもそも天気記号は人間の目視による「観測結果」の記号なのだから「天気予報」には当然使えない。今、自分が空を見上げたら曇りだから天気図に◎とマークしたって、それは予報ではない。四月十四日十三時十五分現在の天気図ってだけ……腕時計を見ると既に十三時十六分……つまり◯や◎等で印された天気図とは作成したその瞬間に「過去」の天気図となってしまう宿命にある。そんな諸行無常な儚なき天気記号。

 では、「未来」の天気図……つまり今日の天気予報は、結局「晴れのち曇り」だったのだろうか? 自分は天気の予報欄になど目もくれないが当たっていたのだろうか……まあどうせ「曇りのち晴れ」とか「晴れ時々曇り」とか微妙な精度でお茶を濁して当てにならないのだから……いや、その自分の考えは……そう、認められなかった、よな。今日の新潟の中越地方が「曇りのち晴れ」だったとしても、自分が今立っているこの一点のみが中越地方って訳じゃないし、この場所は曇りでも数キロ先の湯沢辺りは晴れているのかも……

 そう、この件は既に桜井に論破されていたのを思い出す。自分の主張は桜井の前で一蹴された。いつもそうだった。結局は自分の言っている事がすべて個人的な主張めいていたから、桜井に敵わないのか。


 桜井の弁舌そのものは流暢ではあるが、やや男性的というか……堂々と、確りした物言いなので、一聴すると主張めいている感じも受けるのだが、実際の話の中身は全然主張していない、そもそも主張を主張でもって打ち負かす事など出来やしない。

 ……深夜テレビの討論番組、あれやこれや主張が飛び交い、番組の最後になっても一つの答えは出ない、全員が全員の主張に納得しないまま番組は終了し、ただはっきりしないもやもやした感覚を残して朝日を寝不足の中で迎える。時間を無駄にした気分だ……なので、朝まで寝ていれば良かった……と、桜井に言ったら、そりゃ朝まで寝ているのが普通なのよ?と、その通りを言った。そして気付く、朝まで寝ていれば良かった……そりゃ朝まで寝ているのが普通なのだ、阿呆な事を口にしたと。

 桜井は、主張せず、ただ事実を、実際を、現実を語るのだ、冷徹な眼差しで。「主観的」にではなく、「客観的」に。

 自分に足りないのは「客観」なのか? なら逆に桜井に足りないのは「主観」なのか?

 主観じゃ客観に勝てない。ならば自分も客観で……とは言え、自分なんかの客観など、客席で試合観戦している程度の客観でしかない、それでは桜井の冷徹なまでの客観に及ばない。なら「主観と客観」両方でなら、勝てるのか?


 ……柳、どうするのよ?と、桜井が催促ぎみに言って来た。……時間もある程度経ったし、もういい頃合いかな……期待しつつ空を再度見上げたら——

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