第13話 モンスター2

「ふーっ」


 僕は息を深く吐いて気持ちを一旦落ちつける。

 そうすることでヘソの下辺りに力が溜まり、自在に動ける感じがするのである。

 何より冷静に状況を分析できる。


(敵の数は合計十体。四方を囲まれている状態……)


 狼たちはタイミングを見計らっている。

 こちらに攻撃を仕掛けるタイミングだ。

 全員で全方向からの同時一斉攻撃。

 それをやられると、シーナを守るのは難しい。

 よってこちらから仕掛けるに如かず。


「シーナ、これを持って」


 僕は先に火のついた薪の一つをシーナに渡す。


「モンスターが飛びかかってきたらそれを向ければ、躊躇するはずだよ」


「……う、うん」


 先ほどは取り乱していたが、なんとか最低限の落ち着きを取り戻したらしい。

 ……強い子だ。


(よし、じゃあ行くか)


 僕は地面を蹴った。


「アレン!! ちょっと待って!! だからその剣!!」


 僕は正面の一体に突っ込んでいく。

 まさかこんなにも勢いよく前進してくるとは思ってなかったムーンファングは、一瞬硬直するが。

 すぐに素早い反応で横に飛んで躱す。

 僕の剣が空振りする。

 その隙を逃すまいと、飛びかかってくるが。

 残念だったな。

 実戦を想定して、振り下ろした後に素早くもう一撃出す動きはもう八十年くらい毎日やってるんだ。

 僕は体に染み込んだ動きで、素早く剣を翻した。

 今度はムーンファングの反応は間に合わない。

 ズバッ!!

 と僕の剣は容易くムーンファングの体を真っ二つにした。


「……うん。岩を切るよりは全然楽だね」


 大きな生き物を切ったのは初めてだったが、骨まで含めても岩よりは柔らかい。


「嘘……あの剣で? というか岩を切る……?」


 シーナが何やら驚いていたが、今はそれどころじゃない。

 僕は尽かさず近くにいたもう一体目掛けて走る。

 仲間が急に真っ二つにされて困惑している状況だ。

 連携を取って対処される前に敵の戦力を削る。


「ふっ!!」


 浮き足だって仲間に目線を向けていた一体をまた一刀両断する。

 飛び散る獣の鮮血。

 まるで水をたっぷりと入れた皮袋を切ったみたいだなとぼんやりと思う。

 さあ、これで残り八体。


 ーーガアアアアア!!


 やけになってこちらに一体単体で突っ込んできた。

 短気な性格なのだろうか?

 野生では相当強くないと長生きできない気がする。

 ……ということで。


「はっ!!」


 脇を通り抜けるようにして一閃。

 死体が地面に転がった。

 残り七体。

 だが、残りの数以上に大きな効果があった。

 僕が目線をムーンファングたちに向けると、彼らは後退りしたのである。

 まだ圧倒的に数が有利なのだから一斉に襲い掛かればいいのだが、目の前で味方があっという間に三体やられたばかり。

 さっきの短気な個体は別として、撤退も十分選択肢として出てくる。


(……実戦経験としてはありがたいけど、シーナを危険にさらすのもね。そのまま帰ってくれるとありがたい)


 と思っていたら。

 ズンズンと、別の足音が。


「……あ、あれは、レッドファング」


 シーナが震える声でそう言った。

 一回り……いや二回りムーンファングより大きな赤い毛の狼型モンスターである。

 見た感じコイツらのリーダーってところか。


 ーーオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 大地を揺らすようなレッドファングの鳴き声が周囲に響いた。

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