第12話 モンスター
今回は時系列が前に少し戻って、ゴライアスと戦う前のお話です
なお少しと言いつつ百年戻ります。
少し(エルフ基準)
ーー
岩の切断を実現した僕が次に考えたのは生き物との戦いだった。
この百年間小動物くらいは狩って食べていたが、あまり戦いという感じでもない。
「机に入ってた地図によると……北の方の山はモンスターが出るらしいんだよね」
小屋には机があり、中には地図が入っていた。
この山周辺の地形とちょっとした補足事項が書かれているのだ。
誰が書いたのかは知らないがありがたい話である。
そして地図の北の方には「モンスター出現注意」と書かれている。
「……よし行こう」
今までは避けていたが、危険は承知である。
実際の戦いでは動かない岩と戦うわけではないのだ、強くなるには必要なことだろう。
□□
僕は剣と最低限の食料を持って山を北の方に進んでいく。
どうやら自然は豊からしく、栄養豊富そうな木の実が沢山なっていた。
「危険な場所なんだろうけど、これは便利だ。食料いらなかったかも」
僕はそう思いながら、なっている木の実を食べながら進んでいく。
「……ただ、出発するの遅かったかな」
見ればもう周囲が暗くなり始めていた。
……今日は野宿するか。
僕は周囲の木の枝や枯れ葉を集める。
そして。
「ああ、あれがいいかな」
折れた木を一本発見した。
その木切り株(というか折れ株?)の隙間に枯葉を詰める。
そして剣を抜いて。
「ふっ!!」
切り株の隙間を素早く擦るように剣を振った。
すると。
ジリッ、と小さな火種がついた。
剣の修行でついでに身につけた火おこしの方法である。
僕はその火種のついた葉っぱを取り出すと優しく息を吹きかけて火を強くする。
あとは地面に重ねておいた木の枝に火を移せば焚き火の出来上がりだ。
「さて、明日に備えて昨日取った動物の肉でスープでも作ろうかな」
そう言ってこれも小屋の中にあった鍋を取り出す。
「にしてもこの鍋も丈夫だよなあ」
かれこれ百年使ってるのに全然壊れない。
何かそういう加工でもしてあるんだろうか? 元の持ち主ってどんな人なんだろうな。
そんなことを考えつつ料理を作る。
同時に周囲への警戒はしておこう。
ここはもうモンスターの出現区域のはずだ。
そんなことを思っていたら。
ガサガサ。
と近くの茂みから音がした。
小動物の大きさじゃないことは音で分かった。
いよいよモンスターか!?
と思ったら。
「……お、お腹すいた」
現れたのはボロボロの少女だった。
そしてすぐにバタリと、その場に倒れたのだった。
□□
とりあえず放っておくのもあれなので、女の子を火の近くの暖かいところに移動させた。
「よっこいしょ……女の子動かすだけでも重いな」
エルフの腕力ってやっぱり弱いな。
と改めて思う。
「起きたらスープ上げるかな」
そんなことを思いながら、僕も近くに座る。
改めて少女の方を見る。
年齢は……人間だと十七歳くらいか。
なので見た目は僕よりもお姉さんに見えるだろう。実際は何倍も生きてるけど。
顔立ちは結構整っていた。
「女の子見てると、妹思い出すなあ」
サファイアは元気だろうか?
父親は契約は守るタイプだ。
たぶん酷いことにはなっていないはずだと願いたい。
僕は、そんなことを思いながら、パチパチと燃える火を眺める。
しばらくすると。
バッと、少女が起き上がった。
「あ、アナタ誰よ!!」
警戒したように僕の方を見る。
まあ、ボロボロだったし怖い目にあったのかな。
「僕はアレン。スープ飲む?」
そう言って木で作った容器に入れたスープを差し出す。
すると。
グウウウ。
と大きな音が鳴った。
「い、いただくわ……」
素直にそう言ってスープを受けとると女の子は、すごい勢いでスープを飲み干してしまった。
「お、おかわりいただけないでしょうか……」
申し訳なさそうに容器を差し出してくる女の子。
「いいよ」
僕はそう言っておかわりをよそってあげた。
パアッ!! と嬉しそうな顔をする女の子。
「ぷっ」
思わずそれを見て僕は笑ってしまった。
□□
「ありがとうアレン。私はシーナよ!!」
スープを飲んで元気を取り戻したらしい女の子は、そう自己紹介した。
気の強そうな子である。
「というかその耳、エルフなのね。初めて見たわ……あれってことは年上?」
「今百歳とちょっとだね」
「そうなの!?」
切れ長の目を丸くして驚くシーナ。
「え、なんかごめん。小娘が生意気な口聞いちゃってた?」
「いいよいいよ。自分より年上っぽい見た目の人に敬語使われるのも変な感じするし」
僕はそう言いながら自分の分のスープを飲んだ。
そしてシーナに尋ねる。
「それにしてもどうしてこんな山に?」
「……」
僕がそう尋ねるとシーナは黙ってしまう。
何か聞かれたくないことでもあるのだろうか?
「冒険……って言うか家出」
シーナは少し間を開けた後語り出した。
「私さ、結構村では可愛いって評判なのよ。だから両親にお見合いの話がたくさんくるんだけどね」
「へえ、まあシーナは美人だもんね」
「え? あ、ありがと……」
シーナは少し顔を赤くしながら話を続ける。
「でも、まだ誰が好きとか分かんないし。それに、アタシやりたいことがあってさ。将来村を出て世界中を冒険したいの。そのことを十七歳の誕生日の今日話したら……二人とも『もうそういうことを言う年齢でもないだろう』って」
膝を抱えるシーナ。
「……それが悔しくて、嫌になって、だから村で危ないから行っちゃダメって言われてるこの山に来ちゃった。冒険してやろうって……見事にモンスターに襲われて逃げてたら迷子になったけど」
「なるほどね……」
十七歳……エルフの感覚だとまだほんの小さい子供だが、人間は違うのだろう。
彼女は人とは違う道を夢見ている。
「ところでアレン。アナタの方は? なんでこの山に?」
「え? んーと」
なんて言おうかな?
この山に来た理由って、エルフの王族を追放されたからなんだけど……それは話せないし……。
「剣の修行だね」
「エルフなのに? 魔法が得意なんじゃないの?」
「……まあ、普通はそうだね」
「それに、体だって私より細いくらいだし……ほんとに大丈夫なの?」
うーむ、そうか。
これでも百年鍛えたつもりだけど、女の子から見ても細身なのか……。
ちょっと悲しい。
「あ、なんかごめん。そうよね。誰だって好きなことやっていいわよね」
そう言って謝ってくるシーナ。
いい子である。
「じゃあ、その剣で戦うのね」
シーナは僕の剣を指さす。
「僕の相棒だね」
僕は興味深そうに見ているシーナに、剣を渡した。
「へえ……」
シーナは受け取った後鞘から剣を出す。
そして。
「?」
なぜかその刃を見て少し首を傾げた。
そしてちょんちょんと、刃の部分を触ってみた。
「え、ちょっと待ってなにこれ。ウチで農作業に使う鎌の方が切れるんだけど」
「へえ、そんなに切れ味のいい道具を使ってるんだね」
「え、いや……そうじゃなくて」
本気かこいつ、みたいな目でこちらを見てくるシーナ。
「他の剣、使ったことないの?」
「うん。刃物じたいエルフの国にほとんどないから、これしか触ったことないよ。皆んな物切る時は風魔法使うし」
「……」
シーナは少し唖然としていた。
「どうしたの?」
「……あのね、この剣だけど」
何か言おうとした時。
オオオオオオオオオオオオオオン!!
という獣の叫び声が夜の森に響いた。
そして現れたのは狼型モンスター、ムーンファング。
体長170cm、四足歩行の筋肉質の体を銀色の毛に包み、その牙は鋭く固い。
(……王城にいた頃にモンスターの図鑑を読んでいてよかった)
全くなにも知らないよりは、何かしら知っていた方が戦いやすい。
「シーナ隠れていて」
僕はシーナの手から剣を取ってムーンファングに向かう。
「え、ちょっと待って!! そのモンスターはウチの村では見かけたら危ないからすぐに逃げろって……というかその剣!!」
シーナがそんなことを言っている間に。
ガサガサと、幾つも音が聞こえてきた。
そして現れる他のムーンファングたち。
どうやら僕らは取り囲まれたようだった。
「……ああ」
絶望的な状況だと思ったのか、その場に膝をつくシーナ。
一方僕は。
(……最初の実践が多対一か、さてどう乗り切ろう)
そう思って剣を構えるのだった。
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