第11話 噂話

 山での手合わせから数日後。


「はあ……移動ってめんどくせえなあ」


 ある国の豪華な建物にゴライアスが帰ってきた。


「ゴライアス様!!」


 若い女の騎士がすぐに駆け寄ってくる。

 美麗な顔立ちだがその表情には、呆れと怒りが浮かんでいた。


「どこに行っていたんですか!! フィルハイム王国騎士団の十二師団長の一人とあろうものが!!」


「うるせーなあ。その年で小姑かよルミザーネ」


 そうこの建物。

 大国フィルハイムの警察軍事警備を司る大組織、王国騎士団の首都本部である。

 もう一つ上に総本部が王城の敷地内に存在するが、それを除けばフィルハイム王国騎士団の最大組組である。


「今度はどこをほっつき歩いて、迷惑な辻斬りみたいなマネをしてたんですか!!」


「辻斬りじゃねえよ。ポーション準備してるし、誰も死んでねえぞ。あ、殺し合い所望のやつは何人も死んだけどな」


「そういう問題ではなく!!」


 と、そこでルミザーネと呼ばれた女はあることに気づく。


「……ちょっと待ってください。その傷と服の切れ目」


「ああ、負けたわ。初敗北だな」


「!!」


 女は大きく目を見開いた。


「あと、もっと強くなりてえから騎士団辞めるわ。自由に腕を磨きてえ」


「はあ!? ちょっとふざけないでください!!」



「……なんだなんだ?」

「また師団長、ルミザーネちゃんに叱られてんのか?」

「いや、なんか師団長手合わせで負けたんだってよ」

「マジで!?」


 騒ぎを聞きつけて、本部にいた騎士たちが集まってくる。

 一方ルミザーネは信じられないというような表情で言う。


「というか本当なんですか……? 『剛剣』の異名を持つ騎士団屈指の腕利きであるゴライアス様をいったいどこのどんな剣士が……」


「ああ、シルバーホーン山脈で山籠りでもしようと思った出会った剣士でな。最高だったぜ。しかも聞いて驚け、なんとそいつ……」


 ゴライアスはそこで言葉を止めて貯める。

 なんだなんだと、団員たちが次の言葉を待つ。


「エルフだったんだよ!! エルフの剣士さ!! 珍しいだろ?」


 ゴライアスがそう言うと。


 シーン。


 とその場が静まり返った。


「ぷっ」


 そして。


「「ははははははははははっはははははははははは!!」」


 周囲から大きな笑いが起こった。


「いやいや、団長露骨に狙いすぎで逆に面白えっすよ!!」

「俺団長のギャグで始めて笑ったかもしれねえ!!」


 騎士たちはお腹を抱えて笑い転げた。

 彼らからすれば、エルフのイメージは徹底した魔法至上主義で、大人になれば本のページを捲るのですら魔法でめくろうとするような連中だった。

 そしてワザワザ自分の体を動かして、本を捲る他の種族を「下賤」と見下すのがエルフだ。

 そんなエルフが剣を持って自らの肉体で戦うなど、あまりにも想像できない。


「まあ、信じなくてもいいけどよ」


 ゴライアスはそう言って笑った。

 まあ、仕方ない。

 かく言う自分も最初は全く信じなかったわけだ。


「……」


 しかし、ルミザーネだけは笑ってなかった。

 ゴライアスは常時ふざけたところのある上司だ。

 しかし、こういうことでは冗談は言わないタイプなのを彼女は分かっていた。

 だからこそ「本当にエルフ族の剣士がゴライアスを倒した」という事実に驚愕した。

 もちろんルミザーネ以外にもそう思う人間はいる。


 よってその噂は時間をかけて国中にじわじわと広がっていくことになるのだ。

『シルバーホーン山脈に、超絶的な剣の腕を持つ剣士がいる』

 しかもそれが、フィジカル最弱のエルフ族の剣士であると。

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