第10話 予言

「……これ本当に効くなあ」


 勝負が終わったあと、僕はポーションを飲みながらそう言った。

 ゴライアスの言っていたとおり、凄く質が高くて効果の強いポーションなのだろう。

 そしてそのゴライアスはと言うと、僕が木の繊維で編んで作った敷物を敷いた地面の上に横たわっている。

 ポーションを飲ませたら、かなり大きく切ったはずの胴体の傷も見る見る塞がった。

 次期に起きるだろう。

 そんな風に思っていると。


「……ん?」


 ちょうど目を覚ました。


「ああ、飲ませてくれたのか。サンキューな」


「元々君のじゃないか。僕のほうこそ勝手にいただいたよ」


 まあ急に戦いを挑まれた分として、タダでもらっておく権利くらいはあるだろう。


「あーくそ、負けたなあ」


 ゴライアスはそう言って手を放り出した。


「……最後の一撃。あれはなんだったんだ?」


 ついさっきの光景を思い出すように空を見ながら言う。


「確実にタイミングは俺の方が早かった……どう足掻いても俺の剣の方が早く届いたはずだ」


「ああ、それはね。円を小さくしたんだ」


 僕の答えに「どういうことだ?」とゴライアスは起き上がってこちらの方を見る。


「ええとね。振り下ろす剣の軌道って円って考えることができるでしょ?」


 僕は地面に丸を描いた。

 二つの丸である。

 一つは大きな丸。

 もう一つは向かい合うように小さな丸。


「この丸が相手に当たるまでの軌跡の長さで到達時間が決まる。元々ゴライアスの円は僕に比べて大きい、それでもタイミングや剣速を考えれば、僕よりも早く到達する状況だった」


「そうだな」


「それなら僕の円をさらに小さくしてしまえばいい」


「!?」


 僕は地面にさらに小さい丸を描いた。

 これで距離がさらに縮まった。

 それが敗北必至のタイミングから逆転した魔法の正体。

 剣を極限まで自分の体の中心に近づけ、極限まで小さく振りぬく。

 必要なのはその小さな円でも当たる位置まで接近することだが、加速力には自信がある。

 ゴライアスは顎に手を当てて言う。


「極限まで小さな円を描くことで極限まで到達速度を高める……『極円剣(きょくえんけん)』ってところか……理屈はまあ分かったけどそんなことできるもんなのかよ?」


 頷く僕。

 できたからこうしてゴライアスを見下ろしているわけである。


「……はは、大したもんだ」


 そう言って肩をすくめると。


「よいしょっと」


 ゴライアスは立ち上がった。

 さすがにかなり深く切ったので、完治とはいかない状態だがそんなもの知らんとばかりに顔色一つ変えない。


「いい戦いができた。最近退屈してたからよ。お前のおかげで俺もまだまだ強くなれるって思ったよ」


 そう言って握手を求めてくるゴライアス。

 僕はそれに応じた。


「こちらこそ……いい経験になった」


 ガッシリと互いの手を握る。

 大きな手だ。

 腕力では生涯勝てそうにはないと改めて思う。


「ああ、それからその剣だけどな……」


「ん?」


「……いや、なんでもねえ。言わねえ方が面白いことになりそうだ」


 ゴライアスは意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 そして僕に背を向けて歩き出した。


「一個予言しとくぜ」


 去り際にゴライアスは言う。


「お前はいつか、魔法だろうが兵器だろうがなんだろうがぶった斬れるような『最強の剣士』になる……頑張れよ、お前ならできるぜ『エルフの剣士』」


「……」


 僕はその言葉にどんな反応を返していいか分からなかった。

 だからただ黙って、その大きな背中が去っていくのを見送ることしかできなかった。


ーー

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