第10話 じじいと女性と少女と女

 見慣れた白いワンピースが見えたところで俺はヘロヘロになりついにぶっ倒れた。

 次にじじいが俺の背中の上で電池の切れたおもちゃのようにぶっ倒れ、そのじじいに引っかかった女性がさらにその上にすっ転んできやがる。少女だけは余裕綽々。


「お、重い。どけ!」

「健司ぃ! 捕まえたぞ!」

「携帯返してよぉ〜!」


 あんたらはそれしか言えんのか。

 そんな野生動物の争いみたいな騒がしく甲高い声に気づき、女が振り返る。

 流石の女も俺たちの姿を見て困惑の表情を浮かべた。


「何ソレ」


 少し首を傾けた後、言い直した。


「何ソレら」

「知らん」

「流石に言わせてもらうよ。そんなわけないだろ」

「ただ、自殺しようとしてたから止めてきたぞ」

「……全員?」

「全員」


 女が額を抑えた。


「この現代社会が果てしなく生きづらいということがよく分かったよ。で?」


 何しに来た、というニュアンス。

 その疑問に該当する答えは一つしかない。


「いや、なんとなく」

「帰る」

「待て。頼むから。俺もこの後どう収拾付ければいいか分からないんだよ」

「それこそ知るか。君が勝手にやったことだろ」


 街の方に向かって歩き出す女。

 俺はいい年した二人の大人に乗っかられているので手を伸ばすことしかできない。

 と、そこで真上から声が聞こえた。


「息子よ、その見目麗しい娘は誰なのだ? お前のカノジョか?」


 その場にいる全員(じじいを除く)がぎょっとした目で俺を見た。


「親子で自殺とは恐れ入ったよ。あと親子ともども死ね」

「まさか親子喧嘩に付き合わされて走らされたんですかわたし! っていうか、このおじいさん今日走りまわってた人じゃないですか!?」

「あら見てこれ。親と子が乗っかってるって……まるで親子丼。うふふ、私、上手いこと言った」


 ざざん。


「……あ、私お邪魔だからどくわね。あと携帯」


 一人分の体重と一台分の携帯が減った。


 俺の身体が震える。


 色々言いたいことはある。本当に色々あるが。


 思い切り立ち上がり、未だ上に乗っかっているじじいを吹き飛ばす。


 俺は心の底から思ったことをこれまでの人生で最も大きな声で叫んだ。


「めんどくせえええええええ!」

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