1花目 転入生に脅されています。誰か助けてください!

担任に呼び出され、二学期の初日から私は他の生徒よりも早くも職員室前に来ていた。




他の生徒よりはやく登校するのは

いつものことだけど今日はさらに早めの登校だ。



眼鏡がずれていないことと、身だしなみに問題がないことを確認し扉に手をかけた。



ガラガラ…






「あ、おはよう!イベリスさん。




朝早くに呼び出して申し訳ない。」










「おはようございます!



いえ、学級委員として当然のことですから


お気になさらないでください。



それより、頼みたいことってなんでしょうか?」








おおかた、またクラスに関することだろう。



















「今日からこのクラスに新しい生徒が転入するんだ。






彼女は魔法に関する知識はかなり未熟だけど、


2週間前に行われた編入試験を


基礎魔法だけで合格できるほどの


莫大な魔力と才能がある。」









「編入試験ってつまり…外部からの転入ですか?!


それも基礎魔法のみで?






…それはかなり珍しいですね…!」









実力主義のこの学園には才能あふれる人材を取り入れるために編入試験が《一応》存在する。







一応というのは、

この試験に合格するのはとても難しく、

この学園の全生徒が同じ試験を受けても合格するのは

片手で数えられるほどと言われているからである。








「私も理事会にお話を聞いた時は驚いたよ…。

 






それに彼女の学生証の色は初めから最上位の紫、





その影響で、転入後在学生たちとなにかトラブルが起きるんじゃないかと教師陣心配しているんだ。




そこで同学年の生徒から


最も信頼されている生徒である君に



しばらく彼女のサポートをお願いしたいんだよ。



もちろんイベリスさんの学園生活に


支障が出ない程度でかまわないんだけどね。」













…なるほど、それはたしかに心配にもなる。






この学園では生徒一人ひとりのあらゆる分野の

総合力を計算し、


そのレベルを毎年学生証の色で分けている。









特に紫色は最上位の証であり、


学園の中で最も人数が少ない。









この学園の生徒は勤勉で優秀だが、


その分プライドが高い者たちも多い。



そんな彼らにうっかり学生証を見られ、

さらに彼女の無知さに気づいてしまえば、


少なからずなにか思う生徒はいるだろう。









「…なるほど、承知いたしました。





力になれるかは分かりませんが、



私なりに転入してくる子のサポートをしたいと


思います。頑張らせてください!」







「イベリスさんがそばにいてくれれば私としても安心だよ、ありがとうね。」









相変わらず担任に気に入られているようで安心した。






たしかに面倒な頼まれ事だが、転入生をクラスに溶け込ませるなんて私には簡単なことである。







「転入生には隣の自習室で待っている。



早速一緒に行こうか。」




そんな事を言うと先生は腰を気づかいながら立ち上がった。






















「部屋に入る前に、



彼女のお名前だけお伝えしておきますね。






転入生の彼女の名前は



サラ・パルモ・ライラック です。



これから改めて彼女の学園の案内、任せますね。」










『サラ・パルモ・ライラック』










私はどんな時でも一度聞いた名前は忘れない。









その名前は

2週間ほど前に私に声をかけ振り回してきた少女と同じものである。





そこまで考えて私は彼女の言っていた『用事』

という言葉を思い出す。







私は心の中で悪い予感が当たらないように


手を合わせて祈っていた。

















「はじめまして、あなたがライラックさんね。




 私は学級委員長のアンジュ・ネーロ・イベリス。


 編入してきたばかりで不安だと思うけど、


 私たち在校生も精一杯サポートするから



 これからよ‥



「…!!!!!」













予感があたってほしくなかったから、


顔を見ずに挨拶を済ませようと思っていた






 




そんな私の愚かな考えと挨拶は





転入生の全力突撃ハグでかき消された。




































ーーーーーーーーーーーーーーーーー







…なるほど、ここが食堂、広いですね!


あの、今日はずっと付き添ってくれて

ありがとうございます!イベリスさん




‥あと、今朝は急に失礼なことを‥


ほんとにすみませんでした。」









「いいえ、それは気にしないで。







同級生になるんだし、


敬語は無し、私のことはアンジュでいいわよ。」





「え、ほんとですか?




あ、ありがとう…!」









そうだ、あまり気にしないでほしい。



彼女いわくつまずいてしまった勢いで

ちょうど目の前にいた私にぶつかってしまったらしい。






少しドジな子なのかな。




彼女の可愛らしい容姿にはなんだか


少しドジなくらいがしっくりくる。









それよりも、私が恐れているのは


この子が私のことを覚えているかということである。




相当お酒を飲んでいたし、

暗がりであまり顔も分からなかっただろうから


これは余計な心配かもしれない。






でももし彼女があの夜のことを覚えていて、


同級生や教師陣にその事を話してしまえば、


多重の校則違反と、私のふしだらさが明るみに出る



私の12歳からの努力が水の泡になる。





学外の人間かつ純粋そうな女の子だからといって別れる時に忘却魔法をかけなくても良いと油断していた私自身のせいだ。













「そういえばライラック、



お昼は誰かと食べる予定はある?」







「あ~‥。いや、特にないよ。


お弁当を用意したのでそれを食べようかなって!」











「…?


そう、





なら良かったら私と2人で食べない?」








魔法のことをあまり知らない彼女には悪いけど、



ふたりきりになってから



忘却の魔法をかけてしまおう。




















ーーーーーーーーーーーーーーーーー








私、この学園に来る前に


あなたにすごく似てる人に会ったことがあるの。」





ふたりきりになれるように屋上に案内して


お互いに食べ始めたときのことだった。








巨大な爆弾でも落とされた気分だ。





口いっぱいにお弁当を詰め込んでライラックはとんでもないことを言ってきた。






私は心から動揺していた。








そして頭で整理する前に


彼女が私のことを覚えていることが確定したので


迅速に忘却魔法をライラックに向かって放った。














バチィッッッ!!!!






「っ!!!!」












「?



どうかした?


アンジュ。」










「いや…。あ、ほっぺに付いてるわ、




ひょっとしてあなたっておっちょこちょいなの?」










異常事態である。







私の魔法がはじかれた…?











「えへへ、ごめんありがとう~。」



無詠唱だったからか、


いやでも防御魔法を纏っているわけでもないのに


なんで‥




でも気付かれていないならまだ‥







「それでね!



ひょっとしてアンジュがその人だったのかな



って思ったんだ~」










「他人の空似じゃない?



私はずっと寮で自習と自主練習をしていたし、


他は実家に居て外出はあまり出来ていなかったわ。」















「そうなんだ!真面目なんだね、さすが委員長~!





でも、





ならどうしてさっき私に魔法を放ったの?」













「…。なんのこと?」













「私にかけようとしたのって忘却魔法だよね?





…学内での無許可の魔法使用は校則違反って




聞いたんだけど大丈夫なのかな、委員長さん。」







さっきの笑顔とはどこか違う


小悪魔のような笑みを浮かべている。



いや、私には悪魔にすら見える。





「ほかにも、


この学園の生徒である限りは


保護者がいない場での飲酒、


夜10時以降の外出は厳禁


だったっけな。」




「委員長になるためにはある程度の成績と


普段どれだけ規則を守っているかが重要って


聞いたけど、3つも校則違反だね!」








この子の目的はなんだろう。


お金か?委員長の座?それとも…















「ねぇ!私たち《親友》にならない?」










「…え、…親友?」




思わぬ提案にこの子はかなり頭がおかしいのかと


驚いてしまった。





「あなたの秘密を知ってるのはこの学園では


多分私だけでしょ?


あなたもそばにいたほうが安心だよね。




それに私あなたのこと、前からずっと好きだったの。」









「アンジュ、あなたがそばにいてくれるって

約束してくれるなら、

あの秘密はこの学園の生徒にも先生にも



あなたのご家族にも言わない。」





「あなた、私の両親のこと知ってるの…?」








「どうだろ、





ためしてみる?」









正直この子の本心がわからなくて怖い。


こんな迫り方をされたことは初めてではないが、


いつも油断したところで忘却魔法と催眠魔法を放って


対処できていた。







でも、この子にはそれがなぜか通用しないようだ。




それにどの生徒にも教えていないのに


両親のことを話題に出されると余計に恐ろしい。








「あなたの考えてることが分からないわ。」




「言ったじゃん!私あなたのこと好きなの」



「いやでも、」











「恋人になってなんて言わない。



これは私にとってやっと掴んだチャンスなの。




それこそ運命よりも奇跡的な。








アンジュ、あなたが私のそばにいるうちに




私のことをしっかり見て、好きになってほしいの





私たちが卒業するまでの2年間、

その間で私のことを好きになれなかったら、




私から離れてしまっても大丈夫。




その場合は私はもうあなたと会わないで


あなたの秘密も一生口に出さないことを誓うよ。」














これは告白なのか?それとも脅迫なのか??







「じゃあこれから親友からよろしくね、委員長。」





まくしたてるように喋りきって、

彼女は小さな手を差し出してきた。




いまのところ、私にはこの手を握る以外の術がない。









とてつもなく面倒で悪魔のような女の子に






私は好かれてしまったみたいだ。

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