第45話 殿下への手紙

 2週間後に新しい劇が上映されることになった。脚本はシリルと私で書いた。題は【アニマの誕生】

 

 私は反対した。こんな小娘が主人公の劇など面白くはない、と。しかし、シリルやみんなは猛反対した。


 リンジーが言った言葉を引用する。

「あたしはアニマちゃんだから、ついてきたの。観客みんなに新しい主演女優はこんなに面白いってお披露目しないと。あたしはこのタイトルで行きたい! 絶対よ!!」


 リンジーはいつの間にか劇場の代表のようになっていて、決定権を持つようになっていた。ハーマイオニーがいつもそれに噛みついていたので、なんとなく、バランスがとれていた。


 シリルの部屋の扉を変則的にノックした。


「シリル、舞台のことで相談が……」

 シリルは手紙を書いていた。


「とうとう……書くのね」

「そうだ」

 シリルは神妙な顔でうなずく。


 セシル殿下が亡くなって、クライド殿下は軍備を強化しようとしていた。

 兄を殺され、その犯人を捕まえることもできない、無力な国。という風にクライド殿下はとらえたらしい。



 シリルが最後まで、私の計画の賛同を渋ったのは、クライド殿下が影響している。病弱な彼に、国を任せなければならなかったからだ。



 そして、軍事強化のことを新聞で読んだとき、シリルはクライドに手紙を書くかもと言ったのだ。


「生きていることまであかすの?」

 危険だ。事件から3ヶ月しか経っていない。ここから情報が漏れて、シリルが国に引き戻されたら、もう二度と会うことはできないだろう。


「そうしなければならない。アニマ、申し訳ない」

 私はあいまいに、うなずく。


「たぶん、アニマが考えているようにはならない。せっかく一緒になれたんだ。そのチャンスを棒にふるほど、俺は愚かではない」


 シリルは言った。

「クライドに頼まれてた蝶を取った時のことを覚えてる? バチェラーの1日目の時だ」

「タキシードで虫取り網を持っている姿は素敵でした。また見たい」

 思いだし、笑った。


「カキパリ蝶っていって、ある特徴があって面白いんだ。2頭で行動するのだが、1頭の蝶だけが蜜を集める。その時、もう1頭はサボっている。でも、もし、働いている蝶が死んだら、もう1頭は2頭分働くんだ。面白いだろう」

「面白い」



「話はもどるんだが、クライドは肺が悪いんだ。もし、病気が治って、国を統治することになったら、やりたいことはあるのかって聞いたことがあった。なんて言ったと思う」

 シリルは楽しそうだった。セシル殿下にもどって、クライド殿下と話している頃にもどっているのだろう。


「なんておっしゃったの」


「たしか、アニマと一緒にいった丘にふたりでいたはずだ。

 クライドはおずおずと、蝶の保全だと言った。この国にしかいない貴重な蝶を守りたいって言ったんだ。

 それを通して、この国を守るってことにつながるのかなとクライドは言った。

 それを、アニマに計画を提案された時に思い出した。身勝手な兄だろう」

 

 シリルは天井のシャンデリアを見つめた。


「弟に国を託した以上、クライドに好きなことをやってほしい。軍よりも、蝶だ。そっちのほうがよほど、気が利いている」



 聞いても、シリルが何をするのかわからず不安だった。

「手紙に書く内容はこうだ。自分勝手で申し訳ないが、俺は愛を見つけた。見つけた以上、手放すことはできない。バイラル王国をクライドに任せたい。ただし、軍備強化だけはやめた方がいい。なぜなら俺は生きているからだ。それよりも、蝶の保全はどうだ。これから政治のことで困ったことがあったら何でも相談してくれ。おまえの第2の脳として一緒に考え、働く。身勝手な兄より」


「大丈夫かな。心配です。シリルと離れることになったら……それは嫌です」


 シリルの手をにぎった。


「心配ない。ただ、クライドの間違いをただすのは俺の役目だ。頼む」

 シリルはあたまを下げた。

「クライドに効きそうな薬もフリージア共和国の薬師に作ってもらった。あわせて送ろう」



「わかりました。もしなにかあったら、私が守ります」

「いや、それは俺のセリフだよ。アニマを守る」

 シリルと抱きあった。

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