第43話 ロイドの旅立ち
ロイドは王城の入口に立ち、あたまを下げた。
「お世話になりました」
ロイドはもう一度深く、お辞儀した。
ロイドは従者を辞めた。殿下のお命を救えなかった責任を取ったのだ。
馬車にはロイドの道具が所狭しと並び、馬車は5台にもなった。
「こんなにいっぱい、なんの荷物なんだ」
同僚に問われた。
「ほほっ。秘密です。思い出と荷物ばかり増えてしまいますね」
「ほん、と。殿下のことは残念でならなかった……」
同僚と笑顔で別れる。
馬車から、王城を見る。そびえ立つ王城はいささか、立派すぎた。
「外からの侵略者を拒む建物としては素晴らしい。ただ、働くには広すぎて足がくたびれましたよ。殿下もそうだったんでしょうかね」
ロイドは長いこと、王城を見ていた。
馬車で3日かけて、隣国のフリージア共和国についた。
栄えている。それが第一印象だった。首都には、中央に巨大な白い城があり、それを取り囲むように店、家があり、区画がきれいに分けられていた。
歩いている人たちも笑顔の人が多く、活気にあふれていた。
左にひときわ大きな劇場が見えた。
「大きなことはよいことですが、ここもくたびれそうですなぁ。前の劇団は劇場をいっぱいにできなくて逃げ出しました。さてさて。アニマ様たちはどうなることやら」
劇場につくと、令嬢たちが出迎えてくれた。手紙で行くことは伝えてあったのだ。
「ほほっ。ご親切にどうも。なんだか、ひとかどの人物になった気分です」
「ロイド様。お待ちしておりました。さあ、なかへ」
アニマ様が言った。3ヶ月ぶりに会う彼女は、バチェラーの時よりもさらにお綺麗に、穏やかになられた。
「いいですね。しかし、この老骨。三日も馬車の固い椅子のうえで旅行してきたため、いささか疲れがでました。よろしければ、もうすこし良い気分にさせてもらえないでしょうか」
リンジー様が言った。
「あー。すごいすごい。よく、頑張って、ここまで来ましたねー。えらい、えらい。えらいでちゅよー」
「リンジー様のお褒めは、ある意味レベルが高いといいますか。あまりわたくしの好みではありませんな。しかし、悪くない気分です」
ロイドはおどけたようにまゆをあげた。
「おや。ずいぶんと……お変わりになりましたな」
ロイドはヴィヴィアンに話しかけた。
ヴィヴィアン様は女性では珍しい、あごのラインで切りそろえられたヘアスタイルになり、なんと、シャツにパンツスタイルだった。男装とは実に珍しい。
「とても……似合っています。そういう装いもアリですね」
「いいでしょう。わたくし、こういうクールな格好をしてみたかったのです。お母様とは揉めましたが、好きに生きることにしました」
「アニマ様の影響ですかな」
「秘密です」
ヴィヴィアンはすこぶるよい笑顔をロイドに寄こした。ロイドは微笑み、首肯する。
アニマ様を先頭に、なかへ入った。
舞台を見せてもらうことにした。
5階建てで、中央の舞台を囲むように席がつくられている。ワインレッドの豪華な絨毯が敷かれていた。ロイドは知らずに声が出ていた。
「広いですねぇー。……3000人近くは収容できそうです」
「ええ。前の劇場は500人程度でしたから。緊張で死んでしまいそうです」
アニマ様が言った。そういいながらも、声から自信が感じられた。
控え室に連れていってもらった。
ここも広い。机と椅子が20脚ちかく、奥に向かって置いてあった。机が広いのがとてもよい。特殊メイクをするときに助かる。
扉の開く音がした。
振りかえる。
ロイドが見知った男性が立っていた。
髪は黒くなり、髭が生えていた。
トパーズ色の目に本人だと確信する。
「ああ……」
ロイドが言った。それ以上、言葉が出てこない。
「師匠。ようこそいらっしゃいました」
男性とロイドは、抱き合った。
「とっても、立派な髭が生えましたな」
「そっちですか!」
男性は言った。
「それで。いまは……なんとお呼びすれば?」
「シリル、と名乗っております」
「シリル。とても良い名です」
シリル様の笑顔を見て、ロイドは涙を我慢した。色々な重責から解放された、良き顔をしていた。大変だったがやってよかったなと思った。年を取ると涙もろくなって困る。
「シリル様。ロイド様の歓迎の準備はできておりますか?」
アニマ様が言った。
「もちろん。ささ、どうぞ、師匠。ご案内します」
アニマ様とシリル様は自然と手をつなぎ、先頭を歩いた。
ロイドはそれを見て、落涙した。
年をとるのも、悪くはない。こんな幸せなことに立ち会えるなんて。
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