第9話 狙われた友樹くん?


「——友樹ゆうきくん、大丈夫?」


 お昼休み。


 友樹ゆうきくんが怪我をしたと聞いて、保健室に来たけど。


 白いベッドには、体操服ハーフパンツの右足にテーピングをした友樹くんの姿があった。


 友樹くんは私の姿を確認するなり、口元に笑みを浮かべる。


「ああ、ノルンか。俺は大丈夫だ」


「でも、バスケットゴールが落ちてきたんだよね?」


「当たってはいない。避けた拍子に転んだだけだ」


「良かった……心配したんだよ」


「そうか……なんだかくすぐったいな」


「何が?」


「友達に心配されるというのは」


「……」


 そういえば、この人は私に火を放った王子に似ているのに、どうして心配なんかしているんだろう。


 いくら友達になったといっても、まだ出会って五日目だし、過剰に心配しすぎたのかもしれない。


 でも、友樹くんのことはなぜか放っておけないんだよね。


「友樹くん、次何かあったら、先生に相談したほうがいいんじゃない?」


「どうしてだ?」


「だって、おかしいよ……友樹くんの周りで悪いことばかり起きて」


「悪いこと?」


「おとといは植木鉢が落ちてきたし、昨日は友樹くんの近くにあった窓ガラスが割れたし……今日はバスケットゴールが落ちてくるなんて」


「偶然だろう。先生に相談するまでもない」


「そんなことないよ! 今までは運よく怪我をしなかったけど……このままじゃ、怪我どころじゃ済まないかも」


「ノルンは心配性だな。大丈夫だ、怪我といっても足を挫いただけだ」


 そう言って笑う友樹くんには、何を言っても無駄そうな雰囲気があった。


 そんな風に頑固な友樹くんにヤキモキする中、ふいに保健室のドアがガラガラと音を立てて開く。


「……久美さん」


 入ってきたのは、保健医じゃなくて殿宮とのみやくんだった。


殿宮とのみやくん」


「やっぱり、待田まちだ先輩のところにいたんですね」


「うん。友樹くんが怪我したって聞いたから」


「久美さんは……」


「なあに?」


「やっぱりいいです。それより、待田先輩は大丈夫なんですか? バスケットゴールが落ちてきたと聞きましたが」


「ああ、俺は避けた拍子に転んだだけだからな」


「でもそんな大きなもの、よく避けられましたね」


「俺の反射神経も捨てたものじゃないな」


 その時は何もなかったみたいに笑う友樹くんだったけど、その後も友樹くんの周りで不自然な事故は続いた。




「今度はどうしたんですか?」


 放課後、私の教室にやってきた友樹くんは、左足首にテーピングしているのが、制服の裾から見えた。


 けど、私の視線に気づくと、友樹くんは左足を隠すように後ろに下げた。


「ああ、兄貴の手伝いで資料を運んでいたら、何かに足を取られて転んだんだ」


「足を取られて?」


「何に引っ掛けたのかはわからん」


 友樹くんが首を傾げる中、後ろからやってきた殿宮くんが口を挟む。


「だから気をつけてくださいって言ったじゃないですか。それ以外にも、調理実習で火が上がったって聞きましたよ?」


「誰かがフライパンにアルコールを注いだんだよ」


「誰かがって……待田先輩……それはさすがにおかしいですよ」


「そうか?」


「それは久美さんじゃなくても、不審に思います。一度担任に相談したほうがいいんじゃないですか?」


「それは、誰かが故意に俺を攻撃しているということか?」


「そうです。こんな事故が重なるなんておかしいですよ」


「だが、いったい誰が?」


「心当たりはないんですか?」


「ない。そもそも俺はクラスメイトと口を聞くこともないからな」


「本物のぼっちなんですね」


「とにかく、学校は危険なので移動しませんか?」


 殿宮くんの提案に、私もうんうんと頷く。


「そうだね。もしかしたら、友樹くんを狙う人が、また何か仕掛けてきても困るし……って、あれ? これは……?」


 殿宮くんの言う通り教室を出ようとしたその時、私はふと、足元に落ちている手紙に気づく。


「手紙が落ちてる?」


「また手紙ですか?」


「フレイシア宛てだ」


「いったい誰がこんなもの」


 周囲を見回しても、近くには誰もいなかった。




『親愛なるフレイシア

 

 僕の手紙は読んでくれたかい? 

 

 君への愛が健在だということを示したつもりだけど、君はわかっていないようだね。僕以外の王子たちと一緒にいる姿を見るたび、胸が焦げ付く思いだよ。


 どうせなら、僕以外いなくなってしまえばいいのに。

             

 君を愛する王子より』




 手紙を読み終えたと同時に私はぞっとする。


「この最後の一文って……まさか友樹くんの事故と関係があるんじゃ?」


「なんの話だ? この手紙はなんなんだ?」


 私の手紙を覗き込んできた友樹くんは、不思議そうな顔をしていた。


 私は慌てて説明しようと口を開くけど——。


「実は、ついこの間も似たような手紙をもらって……」


「フレイシアとは誰だ?」


「……たぶん、私———」


「久美さん、ちょっといいですか?」


 私が言葉を濁していると、殿宮くんがそっと耳打ちしてくる。


「へ?」


「待田先輩は久美さんの前世を知らないんですよね?」


「うん」


「だったら、全部は説明しないほうがいいんじゃないですか?」


「どうして?」


「もしかしたら、手紙の主かもしれませんよ」


「手紙の主? 自作自演ってこと?」


「そうですよ。あんなに兄王子にソックリなんですから。その可能性も——」


「でも、友樹くん……何も知らないみたいだよ? それに私を火あぶりにした王子が、手紙で愛を囁く?」


「でも一応は、気をつけたほうがいいですよ」


「それを言うなら、殿宮くんだって怪しいじゃない」


「俺は手紙なんか書きません」


「だって、事故が起きるのは友樹くんの身の回りばかりだし、あなたがヤキモチを妬いて行動を起こしてるかもしれないじゃない?」


「……俺ってそんなに信用ないですか?」


「私は友樹くんも、殿宮くんも手紙の主じゃないと思ってる」


「じゃあ、他にも王子の転生者がいると?」


「前世の王子は六人もいたし、殿宮くん以外にも、記憶を持ってる人がいる可能性はあるよ」


「……じゃあ、どうするんですか?」


「とにかく、友樹くんがこれ以上怪我したら怖いし、手紙の主を探すしかないよ」



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