第67話 進展したに違いない二人
放課後の教室で、私は自分の席に座りながら、ぼんやりと前方を眺めていた。
別に早く宿題を片付けようとか、そういう真面目な理由じゃない。
ただ、ちょっとした楽しみがあったからだ。
その楽しみとは──もちろん益山くんと羽音ちゃんの様子を観察すること。
「ん~、やっぱり距離縮まってるよねぇ……」
自然とつぶやきが漏れる。もちろん、周りに聞かれないように小声で。
あの二人、最近明らかに雰囲気が違う。
どこかぎこちなかったのが、まるで空気が柔らかくなったみたいに自然体になってきているのだ。
自然体になる、そんな感じだけでなくなんだか二人の間に甘い雰囲気が漂ってるような気さえしてくる……。
たとえば、今日の昼休み。
益山くんが何気なく羽音ちゃんの机に近づき、控えめに声をかけていた。
「水沢さん、このノートだけど、これ、たぶん途中の答えが違ってるよ」
「あ、本当だ……! えっと、こっちを……あ、なるほど! 合ってる!」
「あはは、最初から式が違ってたから、そこを直せば大丈夫だと思うよ」
「ありがとう、益山くん。助かった」
「ああ、いいよ別に」
いつものように淡々としている渚くんだけど、彼が羽音ちゃんにノートを渡す手元に目をやると、なんだかちょっとぎこちない動きだった。
それを見た羽音ちゃんが、少し照れくさそうに笑う姿がまた可愛い。
「あれ、完全に意識してるやつじゃん……!」
思わず拳を握りしめてしまう私。
もうここ最近は、二人が話しているたびに「何かある!」と確信する瞬間が増えた。
しかも、羽音ちゃんの方も以前とは違っている。
前までは、みんなの前では「完璧で優しい水沢羽音」を演じている感じがあったけれど、最近はふとした瞬間に素の彼女が出てくるようになった。
たとえば──
「羽音ちゃん、これ食べる?」
昼休みに、お菓子を取り出して差し出すと、羽音ちゃんはふわっと笑顔を見せながら言った。
「あ、ありがとう。でも、これ前にももらったよね? 有美ちゃん、それ好きなんだね」
「そうそう! 美味しいからさ、毎日でも食べられる!」
そんな話をしているとき、羽音ちゃんはしっかり声を出して普通に笑って、何だか気楽そうだった。
そして、その表情がどこか柔らかいのは、たぶん渚くんの影響なんだろう。
ふとしたとき、羽音ちゃんが渚くんの方をちらりと見たり、自然に名前を呼ぶ場面も増えている。
以前の羽音ちゃんからは考えられないほどだ。
三人の関係をオープンにしようとしてからは、少しぎこちない感じの学校での関わりが続いた。
しかしここ最近はそんな絶妙な気まずさのようなものもない。
さらに今日の掃除時間中には、こんなことがあった。
ほうきで教室を掃いている羽音ちゃんが、窓際に落ちていた消しゴムのかけらを拾おうとしてしゃがんだときのこと。
渚くんが、さりげなく彼女の隣に近づいてきて──
「水沢さん、そっちは俺がやるから。ここ、足元ゴミが多いし」
「え? でも、大丈夫だよ?」
「いや、いいよ。水沢さんは机の周りを頼む」
少しだけ強い口調で言った渚くんに、羽音ちゃんは目を丸くしたけれど、すぐに「うん、わかった」と頷いて笑った。
そのやり取りを横目で見ていた私は、心の中で「きたーーー!」と叫びそうになった。
だって、あの渚くんが、こんなに羽音ちゃんを気遣う行動を自然にするなんて。
それも、周りに気を使わせないようにサラッとやってのける。
「もう確定じゃん……これ進展してるやつだってば……!」
私は、自分の席でノートに落書きをしているふりをしながら、二人の様子をずっと眺めていた。
渚くんが羽音ちゃんを気遣う瞬間や、羽音ちゃんが自然と笑顔になる瞬間を見るたびに、私は心の中でガッツポーズを決める。
「いや~、いいねいいね! この調子でどんどん進展してほしい!」
正直、二人がプレゼント交換をしたときの話を直接聞きたいけれど、さすがにそこは黙っておこうと思っている。
でも、二人の表情や雰囲気から、きっといい感じの時間を過ごしたんだろうな、ってのは伝わってくる。
「あー、どうなるんだろうね、これから」
授業が終わり、私は一人ニヤニヤしていた。
「益山くんと羽音ちゃん、絶対お似合いだし、このままいい感じになってくれたら最高だなぁ」
そう思いながら、私は机の上で腕を組んで目を閉じた。
「さて、次はどうなるのか……楽しみだなぁ!」
まるで自分のことのようにワクワクしながら、二人のこれからを見守ることを心に決める。
その日も、私は嬉しさでいっぱいの気持ちで教室を後にしたのだった。
────────────────────
これにて6章終わりです!読んで頂きありがとうございました!!今後も応援よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます