第60話 少し攻撃的?な我が姉
机に向かっているものの、手元のノートには何も書けず、俺はただため息ばかりついていた。
水沢さんへのプレゼント。彼女が本当に喜ぶものが何なのか、全然わからない。
本とか? でも、水沢さんは本をよく読むけど、俺が選んだ本なんて彼女が気に入るかどうか……。無難すぎるし、特別感もない。
「……アクセサリーとかもいいのかな?」
呟いてみるが、今まであまり水沢さんがアクセサリーをつけている姿を見たことがない気がする。
考えれば考えるほど、どれも決め手に欠けていて、俺はまた頭をかきむしった。
「うーん……というか女の子が何をもらって嬉しいとか、俺にわかるわけない……!」
心の中のモヤモヤが限界に達して、俺は椅子に深く腰を下ろして仰向けになった。ふと天井を見つめる。
こういうとき、篠崎さんみたいな子が男なら、いっそ気軽に相談できたのかもしれない。
だが、さすがに篠崎さんには相談しづらい。だって、「羽音ちゃんに渡すの?」って絶対ニヤニヤしながら聞いてくるだろ。
それだけは絶対嫌だ。
……いや、しかし聞かないとかぁ。とかそんなことを思いつつ。
「はぁ……」
小さなため息を漏らして、もう一度机に向き直ろうとしたその時だった。部屋のドアがノックもなしに開いた。
「なぎー? なに辛気臭い顔してんの?」
声の主は姉ちゃん──姉の海月だ。
「……いや、別に」
俺は即答し、ノートを閉じる。
見られるとややこしいことになりそうだと思ったからだ。だが、姉ちゃんは俺の態度を見て明らかに何かを察したように目を細めた。
「ふーん? ……まさか恋愛相談? 水沢ちゃん絡みじゃないの~?」
ズバッと言い当てられて、俺は思わず椅子の背もたれに深く体を沈めた。
「べ、別にそんなんじゃないしっ!」
「へぇ~? じゃあなんで急にそんなに焦るのかなぁ?」
姉ちゃんは部屋にずかずかと入ってきて、俺の机の上のノートに視線を落とす。
俺は慌ててノートを手元に引き寄せたが、姉ちゃんは悪びれる様子もなくニヤニヤと笑みを浮かべた。
「なぎのくせに可愛い子に何かあげようとか考えちゃってるわけ?」
「……違う。なんでもないって」
反射的に否定したけど、姉ちゃんの視線は鋭い。
嘘をつける相手じゃないことは分かっていた。俺は大きく息を吐いて、しぶしぶ口を開く。
「……水沢さんの誕生日が近いんだよ」
「ほら、やっぱり! 羽音ちゃんだ~!」
姉ちゃんがぱぁっと嬉しそうに笑う。その反応に、俺はもう完全に逃げ場を失った。
「それで、何あげればいいかわかんなくて……」
もう無理だ。そう思い観念して相談することにした。
どうせ姉ちゃんには全部バレるのがオチだし、下手に隠して話が長引くのも面倒だ。
「なぎが羽音ちゃんにプレゼントねぇ……ふふっ、これは重大案件だわー!」
姉ちゃんは椅子に座り直し、どこか真剣な顔で俺の方を向いた。
「──まずさ、なぎ、女の子が本当に嬉しいものって何かわかる?」
「えっ……いや、わかんないから相談したんだし……?」
「うん、そうよね~。まぁなぎが知ってたら驚くけど」
俺をちょっと馬鹿にしたような口調で言いながらも、姉ちゃんは腕を組んで考える素振りを見せる。
「女の子が本当に嬉しいのは、『自分のことを見てくれてる』って感じるものよ」
「……自分のこと?」
「そう! 羽音ちゃんが普段大事にしてるものとか、趣味とか、好きなものをちゃんと考えなさいってこと」
姉ちゃんの言葉に、俺はハッとした。
そういえば水沢さんって、アクセサリーを眺めるのが好きだったかも。そんなことを思った。
自分でつけることは少ないけど、小さなペンダントを集めてるって前に言ってた気がする。
「……アクセサリーとか、かな」
俺が呟くと、姉ちゃんの目が輝いた。
「いいじゃん、それ! なぎっぽくないけど、羽音ちゃんっぽいしね。小さくて可愛いペンダントとか絶対喜ぶわよ」
「なぎっぽくないってなんだ!……ペンダントか……」
そうか、それなら水沢さんの雰囲気に合うかもしれない。
俺の中で少しずつ具体的なイメージが浮かび上がってきた。
「よし、決まりだね! ……で、選ぶのは誰が付き合ってあげると思う?」
「えっ、俺一人で──」
「いやいや、なぎ一人で選んだら、どうせ変なもん選んで後悔するでしょ?」
姉ちゃんはバッサリと言い切る。当たり強くないです!?弟くん泣いちゃうよ!?
「可愛い弟のために、姉ちゃんが買い物付き合ってあげるから。ありがたく思いなさいよ!」
「……いや、別に俺だけで選べるし──」
「ダメ〜そんなの信用できない。結局一人で行ったらまぁいっかってなって無難に本とかプレゼントしそう……本が無難なのかはさておき」
ギクッ。完全に俺の思考を見透かされてる……。
姉ちゃんに完全に仕切られる形で、後日一緒に買い物に行く約束をさせられてしまった。
「じゃあ、週末ね。空けといてね~。羽音ちゃんの笑顔のために、全力で選ぶから!」
嬉しそうな姉ちゃんの笑顔を見ながら、俺はなんだか釈然としない気分で深くため息をついた。
「ほんと、余計なことしなくていいからな……」
そう呟いてみたものの、姉ちゃんが頼りになるのも事実だ。
少しだけ心が軽くなった気がしながら、俺は机の上のノートに目を落とした。
「水沢さんが喜ぶ顔、ちゃんと見られるといいけどな……」
そんな風に思いながら、俺はノートのページをそっとめくった。
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