第六章 二人の誕生日
第59話 聖女様と誕生日
お待たせしました!この章では渚と羽音の二人の甘々な感じを楽しんで頂けたらなと思います!お願いします!
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夜の静かな部屋で、私は机に座り、スマートフォンを手にしていた。窓の外では虫の声が聞こえ、今日もいつも通りの平和な夜だった。
「……どう返そうかな」
画面に映るのは、益山くんからのメッセージ。
何気ない内容だ。『今日の国語の宿題、思ったより難しかったね』なんて言葉が並んでいる。
でも、それにどう返事するか、私は少しだけ考えてしまう。
『ほんとに難しかったね!次のテストも大変そう……』
そう打ち込んで、送信ボタンを押した。
すぐに既読がつき返信が返ってくる。
『国語ってやっぱり苦手だな……水沢さんはいけそうだけど』
『そっ、そんなことない』
『なんでテンパってる?』
『な、なんでもないっ』
『なにそれ笑』
画面越しの言葉から、どこか冗談めいた益山くんの口調が伝わってくるようで、思わずクスリと笑ってしまう。思わず頬が緩む。
こうしてメールで話していると、まるで隣にいるような気がして、私は自然と肩の力が抜けていく。
『得意っていうか、なんとか頑張ってるだけだよ~。でも益山くん、今日の授業中、篠崎さんと問題解いてたよね? あれすごいなって思ったよ』
そう送ると、数秒後に返事が届いた。
『いや、篠崎さんが勝手に答えを書いてただけ、俺、全然わかってなかったし笑』
そのメッセージを読んで、また笑ってしまう。
益山くんのこういう飾らないところが、私は好きだ。
好き……?
自分で思った言葉に、ふと胸がざわつく。いやいや、これは「友達として」だ。そう、自分に言い聞かせる。
『でも篠崎さんのおかげで、ちょっとは理解できたんじゃないの?』
『まあ、そうかもな。篠崎さん、面倒見いいし。助かるよ』
篠崎さんの話題が出ると、少しだけ胸がチクッとする。
でも、それを気にしている自分がバカみたいで、すぐに次の話題を考えた。
嫉妬だってのはいい加減にもうわかった事だ。気長にこの感情には付き合うことにしよう。
『そういえば、最近少し涼しくなってきたよね』
『だね、もうすぐ秋か…』
私が話題を変えてもすぐに返事をくれる。そしてその度に私の心は満たされる。嬉しいい。
『秋っていえば、文化祭の準備もそろそろ始まるよね』
『文化祭か……クラスで何やるんだっけ?』
『確か、模擬店だった気がするけど……まだ決まってないんだよね』
そんな風に、私たちの会話は軽やかに続いていく。
そして気づけば、時間は夜の10時を過ぎていた。
そろそろ寝る準備をしないといけないけど、益山くんとのやり取りが楽しくて、ついもう少しだけと続けてしまう。
『そういえば、水沢さん、来週の予定とか空いてる?』
突然そんなメッセージが送られてきて、私は思わず固まった。
『来週? 何かあるの?』
少しだけ期待混じりに返信を送る。すぐに返ってきたメッセージを見て、私は目を見開いた。
『いや、来週俺の誕生日なんだ。毎年何もしてないし、今年も別に特に何かするわけじゃないけどな』
益山くんの誕生日? 来週?
画面を見つめながら、私は心臓が跳ねるのを感じた。
『そうなんだ! いつなの?』
『次の次の金曜日だよ』
次の次の金曜日……それなら、あと10日くらいしかないじゃないか。
私は焦りながら、すぐに返信を打つ。
『すごいね! 実は私の誕生日ももうすぐなんだよ!』
『えっ、本当? いつ?』
『益山くんの誕生日のあとの土日を挟んだ月曜日だよ』
『マジか、すごい偶然だ笑』
たしかに、偶然としか言いようがない。こんなに誕生日が近いなんて。
でも、それを知った瞬間、私はあることを思いついた。
『……お互い近いし、何か交換しようか?』
そう送ろうとして……でも、指が止まった。
──待って、それだと、ただのお祝いになっちゃう。せっかくならサプライズで……。
私は打ちかけた文章を消し、こう送り直した。
『すごいね! 偶然だね~』
『だね!』
それ以上、私は誕生日について話題を広げなかった。
その後、少しだけまた日常の会話を続けて、そろそろ寝ようという流れになった。
『そろそろ寝るね! 今日もありがとう』
『うん、こちらこそありがとう!おやすみ』
そんなやり取りをした後におやすみのスタンプを送りあって最後に、私はスマホを置いてベッドに横になる。
でも、目を閉じても、なかなか寝付けない。
頭の中には、益山くんのことが浮かんでいた。
「何をプレゼントすれば、益山くん、喜んでくれるかな……」
自分のつぶやきにハッとして、私は慌てて枕に顔を押し付けた。
なかなか今日は寝付けなさそうだ。
******
一方、その頃。
俺、益山渚は自室でスマートフォンを置き、天井を見つめていた。
「水沢さんの誕生日が俺の誕生日の三日後だなんて……マジで偶然だな」
俺は思い出す。水沢が笑いながら、「偶然だね~」と話を流したことを。
でも、その向こうには、少しだけ特別な空気を感じた。
「……何か渡したいよな」
そうつぶやきながらも俺は頭を抱える。
サプライズで水沢さんに渡したら、彼女が喜んでくれるに違いない。自然と彼女にサプライズでプレゼントを渡したい、そんな気持ちになった。
プレゼントなんてまともに選んだことがない俺にとって、それは大きな挑戦だった。
でも、不思議と面倒だとは思わなかった。むしろ、考えるだけでどんどん楽しみな気持ちが湧いてくる気がする。
「水沢さん、何が好きだっけ……」
独り言をつぶやきながら、俺は机に向かい、ノートを広げる。
誕生日のことを考えながら、筆記用具を手に取り、俺はとりあえず書き始めた。
けれど、筆は途中で止まった。
「……まあ、ゆっくり考えるか」
******
その夜、2人はそれぞれの部屋で、静かに眠りについた。
けれど、心の中には、お互いへの特別な想いがじんわりと広がり始めていた。
(水沢さんに喜んでもらえるものを……)
(益山くんが大切にしてくれるものを……)
そんな気持ちをお互い胸に抱えながら。
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