第52話 聖女様と近いけど遠い距離
その日は待ちに待った遊びの日。
益山くんと篠崎さん、そして私の3人で集まるのは初めてで、なんだか胸が少しドキドキしていた。
待ち合わせ場所の駅前に着くと、すでに篠崎さんが元気よく手を振っていて、益山くんも隣に立っていた。
二人が並んで笑い合っているのが遠くからでもわかり、私はなんとなく心がざわつく。
「羽音ちゃん、こっちこっち!」
篠崎さんが私を見つけてまた手を振ってくれた。
その笑顔に私も手を振り返し、二人のもとへ歩み寄る。
今日は3人で思いっきり楽しむと決めていたから、心配なんてする必要ない。
そう自分に言い聞かせながら、二人に向けて一番の笑顔を作った。
「待たせちゃってごめんね」
「全然大丈夫だよ!今日はいろんな所行くつもりだから、いっぱい楽しもうね!」
篠崎さんは、いつものように明るく元気な声で答える。
「うん、ありがとう」
と私が返すと、益山くんが少し照れたように小さく頷いた。その仕草を見て、私も自然と顔がほころんだ。
最初に行ったのはカラオケ。
部屋に入ると篠崎さんはテンションが一気に上がり、さっそくマイクを手に取り歌い始めた。
明るいポップソングを元気よく歌い、合間に私たちに向かって楽しそうにウインクしたり、踊ったりしていて、思わず笑ってしまう。
「どう?羽音ちゃんも一緒に歌おうよ!」
と、篠崎さんは私にマイクを渡してくれる。
「う、うん……歌うね」
緊張しながらも、私も自分の好きな歌を選んで、少し照れながら歌った。
すると、篠崎さんがさっそく一緒に歌い始めてくれて、益山くんも笑顔でリズムに乗ってくれた。
3人で一緒に歌うのは、なんだかすごく新鮮で楽しかった。
でも、篠崎さんは次々と歌を選び、益山くんと掛け合いのように歌い始めて、私も最初はその楽しさに一緒になって笑っていたけれど、次第に二人の自然なやり取りを眺めるだけになっていた。
篠崎さんと益山くんが、リズムに合わせて息の合った掛け声をかけあい、互いに楽しそうに盛り上がる。
そのたびに、私はなんだか一歩引いてしまっている自分に気がついた。
「羽音ちゃんも歌おうよ!」
と篠崎さんが誘ってくれるたび、私は無理に笑顔を作りながら「うん、ありがとう」と返して、マイクを握る。
でも、私の心はなんだか少しだけ曇りがかっていた。
その次はゲームセンターへ向かった。
到着するなり篠崎さんは射的ゲームの前で足を止め、無邪気に益山くんを引っ張って行く。
「ねえ渚くん!これ、絶対私が一番になるからね!」
「俺も負けないからな」
と、益山くんと私も応じて対決を始めた。
篠崎さんが的を外すたびに益山くんが笑って「ほら、こうやるんだよ」と手本を見せたり、篠崎さんが「あー悔しい!」と言っているのが微笑ましかった。
でも、気づけば私はまた、ただ二人の姿を見ているだけ、という感覚に陥っていた。
益山くんと私だけのときなら、自然に参加できるのに、どうしてか今日はすぐに自分が遠くに感じてしまう。
二人の楽しそうな笑顔を見ながら、自分がここにいてもいなくても関係ないんじゃないかと、少しずつそう思えてきた。
その時、渚くんがこちらを振り返った。
「水沢さんもやる?」
「えっ、あ、うん……!」
驚きながらも答え、私は二人のもとへ駆け寄った。
そして、渚くんに教えてもらいながら射的に挑戦した。
的を狙いながら「益山くん、こうするの?」と尋ねると、彼は「そうそう、その調子」と言って笑ってくれる。
その笑顔に、胸が少し温かくなった。やっぱり、私は益山くんと一緒にいると心が落ち着く。
でも、その瞬間に篠崎さんが「じゃあ私ももう一回!」と言って、楽しそうに渚くんに何かを尋ね始めた。
ふとした瞬間、私はまたその輪から少しだけ外れてしまった気がしてしまった。
その後もプリクラを撮ったり、クレーンゲームに挑戦したり、二人と一緒に楽しむ場面が多かったのに、どうしてかずっと少しだけ寂しさが残っていた。
益山くんは私の隣にいるのに、心が少しずつ遠ざかっているような気がしてしまう。
「楽しいね、羽音ちゃん!」
篠崎さんは、ずっと明るく話しかけてくれて、私も「うん、楽しい」と答え続けたけれど、なんだか心の奥底ではそれがどこか違う気がしていた。
益山くんが篠崎さんと楽しそうに話すたび、心の中で小さな違和感が広がっていく。
「……これって、嫉妬なのかな」
そんな気持ちを抱えながら、私は益山くんと篠崎さんの後ろ姿を見つめていた。
益山くんが私に優しくしてくれることがいつもと同じなのに、篠崎さんに楽しそうに接するその様子を見ていると、胸の中がチクチクと痛む。
放課後に渚くんと二人で過ごす時間は、本当に心地よくて大切だと思っていた。
益山くんの隣にいられるだけで、すごく満たされた気持ちになっていたのに、こうして3人でいると、どうしてか彼が私の隣にいてくれるのが特別なことのように感じてしまう。
そして私が彼をどう思っているのか、それを考えてみるけれど、どうしても答えが見つからない。
益山くんを友達として大切に思っているのは間違いない。
それに加えて、それ以上の気持ちがあるのか、それともただ嫉妬しているだけなのか……自分でもよく分からなかった。
帰り道、私は二人の少し後ろを歩きながら、その答えをずっと考え続けていた。
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