第51話 聖女様と三人
夏の穏やかな放課後、篠崎さんが益山くんと私のところにやってきた。
元気いっぱいに「ねえ、今度3人で遊びに行かない?」と提案してきて、思わず私は驚いてしまう。
「3人で……遊びに行くの?」
私は、言葉に詰まりながら聞き返した。
「うん、そうだよ!せっかく仲良くなれたんだし、3人で遊びに行ったらもっと楽しいかなって思って!」
篠崎さんはキラキラした笑顔で、何の悪気もなくそう言う。
正直、驚きと戸惑いでどう答えればいいのかわからなかった。益山くんと私にとって、放課後に二人で過ごすことは特別な時間だった。
もちろん三人で遊びに行く、そのこと自体はとても楽しみなんだと思う。実際益山くんとは何度かお出かけには行っているが、周りの人も交えて友達何人かでどこかへ行ったことは無い。
そういうことをしてみるのも、新鮮な体験になるはずだ。
しかしこれまでのように益山くんと「秘密の友達」として一緒にいる日々に、少しずつ私自身が安心感を覚え始めていたところだったのに。
篠崎さんは悪いわけじゃない。むしろ誘ったり提案してくれるのはありがたい。ありがたいはずなのに……。
『──いい迷惑だ』
心のどこかでそう思わずには居られなかった。
「どうかな?羽音ちゃん、渚くん!」
しかしそんなこと言えるわけはなく……。
篠崎さんの明るい提案に、私は小さく頷くしかなかった。
「……うん、楽しそうだね」
心のどこかで、私たちだけの秘密の時間がなくなってしまうようで少し不安だったけれど、ここで断る理由も見つからない。
益山くんも、一瞬戸惑いを見せたものの、「どこ行く?」と賛成の意を示した。
「それじゃあまた連絡するね!」
篠崎さんも私たちを気遣ってか、そうとだけ言い残しその場を後にした。
その後、そこに残された私達2人はありふれたお話を少しして解散した。
そして、家に帰ってからも、三人で遊びに行く、その話が頭から離れなかった。
ベッドに寝転びながら、篠崎さんと益山くんが仲良さそうに話している姿が目に浮かぶ。
二人が楽しそうにしているのは見ている私も楽しいけれど、どうしてか心の奥底で小さな刺のようなものが疼いていた。
「なんで……こんな気持ちになるんだろう」
これまで益山くんと二人だけの時間に慣れてきたからだろうか。
「もうわかんないや」
一旦考えるのはやめにしよう。何度も二人へのモヤモヤが浮かんでは考え、それでも答えは出ない。
篠崎さんが益山くんと仲良くするのが少し寂しいからなのか?今はまだ、やはり答えが見つからない。
だけど、もうすぐその日が来る。
どこかで楽しみな気持ちもある一方で、少し不安な自分もいる。それでも、篠崎さんが計画してくれたことを、精一杯楽しもうと思う。
******
「3人で遊ぶ……か」
部屋で一人、俺はベッドに寝転びながら考え込んでいた。
これまでは水沢さんと二人だけで、しかも周りには内緒で友達として過ごしてきた。
だから、クラスメイトと一緒に、水沢さんも含めて遊びに行くというのはなんだか妙な感じだ。
「でも、ちょっと楽しそうだな」
篠崎さんは学校での「公然の友達」。
彼女と一緒にいることで、周りの視線も気にする必要がないし、みんなに隠れてこそこそする必要もない。
普段から明るくて人を巻き込むのが上手な篠崎さんと一緒なら、水沢さんとももっと自然な形で友達として過ごせるのかもしれない。
けれど、これまで水沢さんとは秘密で友達を続けてきた。
その「特別な秘密」があることで、水沢さんとの時間がさらに貴重なものになっている気もする。
もし、篠崎さんと一緒にいることで水沢さんとの秘密が崩れてしまったら、それはそれで寂しいかもしれない……。
そんなことを考えれば考えるほど、なんだか複雑な気持ちになってきた。
「……まあ、3人で遊んだっていいよな。水沢さんだって、別に他の友達と遊んでもいいんだし」
自分にそう言い聞かせながら、頭の中で3人で遊ぶ日の計画を想像する。
篠崎さんが言うとおり、周りの目線を気にせずに、もっと自由に友達と過ごせることは悪くないのかもしれない。
あぁ、もう何が何だか訳が分からなくなってきた。とりあえず三人で遊ぶことをたのしむもう、そう決めて俺は眠りについた。
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