第40話 聖女様と空白の日々
俺と水沢さんの間に距離ができてから、もう一週間以上が過ぎた。
スマホのカレンダーの予定を見ると、今日は本来なら水沢さんとプールに行く予定だった日だ。
「今日だったな……」
そう呟きながらも水沢さんと俺のトーク画面を開くが、そこにはそれに関してのやり取りは一切ない。
あれから10日ほど、俺は何度もスマホを手に取っては、すぐに置いて、を繰り返していた。
水沢さんに謝るべきだと思っている。それは分かっている。分かりきっている。
けれど、自分から連絡を取る勇気が湧かない。
それに、あの喧嘩以来、水沢さんが自分にとってどう思っているのかもわからないまま、ただ時間だけが過ぎていった。
いつも水沢さんと二人でおしゃべりしていたあのベンチ。そのベンチがある公園に行くこともなくなった。
以前なら、毎日のようにそこで一緒に過ごしていたのに、今では一人で家に帰り、何となくぼんやりと過ごしている。
「俺は、結局ただの友達だったんだよな……」
俺は、家のベッドに寝転びながらつぶやいた。
水沢さんが他のクラスメイトと遊んでいるのをSNSで見たとき、嫉妬した自分が嫌でたまらなかった。
彼女は、他の友達とも楽しそうにしている。
それは、何も悪いことではない。むしろ、喜ぶべきことだと頭ではわかっている。
けれど、どうしても心の中ではモヤモヤした感情が消えない。
「俺なんか、やっぱりいなくてもいいんじゃないか……」
その思いが、ますます俺の心を沈ませていく。
「今日は何しようかな」
宿題をしようと思ったが宿題はもう既に水沢さんと夏休みの序盤に終わらせていることに気づいた。
二人で遊ぼうと言葉を交わしたあの日。
なんだか今はそんなふたりの日常が遠くに行ってしまった気がして。
「はぁ……」
俺はため息をついてベッドの上でボーッとするしか無かった。
******
一方、羽音も同じように悩んでいた。
渚との喧嘩があってから、羽音は彼との関係がぎくしゃくしていることに気づきながらも、どうすれば元に戻れるのかわからなかった。
確かにあの渚が突然口にした言葉は羽音を傷つけるには十分すぎた。それから連絡をとってないことに対して後悔はしてない。
私は悪くない。羽音はそう自分に言い聞かせていた。
実際そうなのではあるが。
……しかし、これまで、渚とは何でも話せていた。いつも隣にいてくれる友達。それが当たり前だと思っていた。
でも、渚と距離を置いてから、その当たり前がどれだけ大切だったのかに気づいた。
本来なら二人で遊ぶ約束もして、それが携帯のカレンダーにも入っているが、結局その約束は果たされなかった。
初めての友達がいる夏休み。羽音はそれに憧れていたが現実はそれを許してくれなかった。
「益山くんがいなくなってから、こんなにも寂しいなんて…」
羽音は、自分の気持ちに戸惑っていた。
渚がいない日々がこんなにも虚しいと感じるなんて、思いもしなかった。
ふと渚のことを思い出してしまう。
「どうして、私はこんなに彼のことを気にしてるんだろう……」
もう彼とは関わらない、関われないだろうなと思っていた羽音は、自分に問いかけながらも答えが出ないまま、時間だけが過ぎていく。
彼との友達関係は、本当に特別だった。
渚がいつもそばにいてくれることが、どれほど自分にとって大きな存在だったのか、今になってようやく実感していた。
夕方、羽音は一人で買い物の帰り道を歩いていた。
いつもなら、渚と一緒に過ごしていた時間だ。
二人で何でもない話をしながら、公園のベンチに座っていたあの頃が、まるで遠い過去のことのように思える。
「あのとき、何か間違ったことを言ってしまったのかな……」
羽音は、渚に謝るべきかどうかをずっと考えていた。
けれど、彼が本当に自分を避けているのか、それともただ時間が必要なのか、何もわからないまま、自分も連絡を取ることができずにいた。
******
そんなある日の夕方、俺は偶然にも水沢さんを見かけた。
彼女は、一人で歩いていた。少しうつむき加減で、元気がないように見えた。
「やっぱり、俺のせいで元気がなくなってるのか……」
俺は心の中でそう思いながらも、彼女に声をかけることができなかった。
今さら自分から何を言っても、気まずいだけかもしれない。やはり俺はそう考えてしまい、水沢さんからはそのまま背を向けて歩き続けた。
******
そしてそれの少し後。
羽音も、帰り道で渚の後ろ姿を遠くに見つけていた。
彼が自分に気づいていないのか、それともわざと避けているのか、羽音にはわからなかった。
けれど、あの背中を見ていると、何か言いたくても言えないまま過ごしているのだろうと感じた。
「私は結局益山くんに何をしてしまったんだろう……」
その思いが、ますます羽音の心に重くのしかかっていた。
自分が何か間違ったことをしてしまったのかもしれない。
渚がいない生活がこんなにも寂しいと感じるのは、彼が大切な友達だったからだ。
「……友達って、こんなに大切なものなんだね」
羽音は、ようやくその言葉の意味を噛みしめながら、ため息をついた。
そして、二人はそれぞれの家に帰り、また連絡を取ることなく、悩み続ける日々が続いていった。
渚は、自分が彼女にとって特別な存在ではなかったという不安に押しつぶされそうになり、羽音は、どうすれば渚との関係を修復できるのかを考え続けていた。
──けれど、二人ともお互いの気持ちを伝えられずにいる。
こうして、渚と羽音はお互いに悩みながらも、距離を縮めることができず、すれ違いが続いていく。
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