第37話 聖女様とクラスメイトとの写真
それから一週間ほど経った。
水沢さんとは連絡はしてるもののあれ以降なんだか気まずいと少しだけ思ってしまっている自分がいた。
俺だけなんだとは思うけど。
中盤に差し掛かり、いつものように自分の部屋でゴロゴロしていた俺は、何気なくスマホを手に取ってSNSを眺めていた。
タイムラインに流れてくるクラスメイトの投稿を眺めていると、突然、ある写真が目に入った。
「……あ、これ、水沢さん?」
俺は思わず画面に釘付けになった。
水沢さんがクラスメイトたちと楽しそうに遊んでいる写真がアップされていたのだ。
彼女が仲良さげに笑顔を浮かべて、何人かの女子と一緒にいる様子が写っている。
遊園地の入口での記念写真だろうか、みんなカラフルな服を着て、楽しそうにポーズを決めている。
水沢さんはその中で、いつもと変わらぬ明るい笑顔を浮かべていた。
「……そっか、今日遊びに行くって言ってたっけ」
公園で彼女が話していたことを思い出しながら、俺はなんとも言えない気持ちで画面を見つめていた。
彼女が楽しそうに過ごしているのを見るのは悪い気分じゃない。
むしろ、喜ぶべきことなんだろう。
だけど、心のどこかで小さな刺のようなものを感じているのも事実だった。
俺と水沢さんは、今までずっと二人で過ごしてきた。友達としての時間が特別で、彼女と一緒にいることが楽しかった。
それなのに、彼女が他のクラスメイトと遊んでいる姿を見ると、まるで俺が一歩後ろに引いたような気分になった。
「……俺って、ただの友達なのか?」
そんな疑問が浮かんできて、胸が苦しくなる。
水沢さんにとって、俺はクラスメイトの一人に過ぎないのか。
彼女にとって特別な存在ではないのかもしれない、そう思うと、これまでの二人で過ごしてきた時間が急に薄っぺらく感じられてしまう。
「いや、そんなことないだろ……」
自分にそう言い聞かせるものの、不安は消えない。
SNSにアップされた写真を何度もスクロールしては、彼女が楽しそうに笑っている姿を見てしまう。
その笑顔は、いつも俺に向けられていたものと何ら変わりはない。
でも、今は俺じゃなくて、他のクラスメイトたちに向けられている。
俺はそのことにどうしようもない寂しさを感じていた。
「これが……嫉妬ってやつなのかな」
自嘲気味に呟き、ベッドに顔を埋めた。
俺は一体、何を求めているんだろう。
水沢さんが他の友達と遊んで楽しむことを喜べない自分が、少し情けなかった。
彼女が笑顔でいられることが一番だと思っていたはずなのに、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう。
******
俺はその晩、結局SNSを何度も確認してしまった。
彼女とクラスメイトたちが投稿する楽しげな写真やコメントを見るたびに、どこか心がチクチクと痛む。
それを自分でもどうしようもできず、モヤモヤした気持ちを抱えたまま眠りについた。
******
──その頃。
遊園地の広場では、水沢羽音がクラスメイトたちと笑顔で楽しい時間を過ごしていた。
夏休みらしい真っ青な空の下、彼女は風に髪をなびかせながら、友達たちと笑い合っている。
大きな観覧車やジェットコースターが背景に見えるその場で、彼女はまるで子供のように無邪気に楽しんでいた。
「羽音、次どこ行く?」
クラスメイトの一人が声をかけると、水沢さんはニコッと笑いながら、近くのメリーゴーラウンドを指差した。
「メリーゴーラウンド、乗りたい! あれ、ずっと気になってたんだ」
「えー、あれ子供っぽくない?」
「いいじゃん、楽しそうだし!」
そう言って、水沢さんは軽やかに走り出す。
彼女の無邪気な笑顔と笑い声が、遊園地の喧騒に紛れて響いていく。
「なんか水沢さん、イメージと違うよね」
「うん、いい意味でね! もっとなんか固い感じかなって思ってたけどめちゃくちゃ可愛い!」
「ね!」
そんな会話をしながらクラスメイトたちもその後に続き、みんなでメリーゴーラウンドに向かっていった。
メリーゴーラウンドに乗り、優雅に回る馬たちの上で羽音は童心に返ったかのように笑っていた。
彼女の顔には、心から楽しんでいる様子が見て取れる。
まるで、普段の「聖女様」としての彼女ではなく、ありのままの羽音として遊んでいるかのようだった。
「楽しいね!」
一緒に回るクラスメイトたちも笑顔を浮かべ、楽しさを共有していた。誰もがその場の時間を楽しんでいるようだった。
だが、羽音の心の中では、ふとした瞬間に、渚の顔が思い浮かぶことがあった。
遊びながらも、ふと彼との時間を思い出す。
それはまるで、彼との特別な時間が心の奥底に刻まれているかのように、自然と彼のことが頭をよぎる瞬間があった。
「……益山くん、どうしてるかな」
羽音は心の中でそう思いながら、メリーゴーラウンドがゆっくりと回るのを感じていた。
友達との楽しい時間を過ごしつつも、彼との時間が特別なものであることを、どこかで感じていたのかもしれない。
そして、遊園地の喧騒の中、彼女は再び笑顔を浮かべ、クラスメイトたちと楽しい時間を共有し続けた。
だが、その笑顔の裏には、益山渚との特別な関係が確かに存在していた。
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