第35話 聖女様と自然な友達


 カードゲームが終わり、二人で机の上に散らばったカードを片付けていると、ふとした静けさが部屋に訪れた。


 さっきまでの羽音さんの「厨二病」全開のテンションが嘘みたいに、今は穏やかな時間が流れている。


「ふぅ、楽しかったね」


 水沢さんが微笑みながら言う。

 さすがにあれだけ厨二病モード前回にした反動がやってきたのだろうか。


「うん、すごく楽しかった。でも、さっきのキャラ、急にどうしたの?」


 俺は笑いながら尋ねる。

 聞いてはいけない内容だったか?いやあんなおおっぴろげにやってたならさすがに大丈夫か。


 これで何か言われたら水沢さんは二重人格だろう。

 車に乗ると人が変わる、という人がいるが水沢さんの場合カードゲームをすると人が変わる人なのだろう。……なんじゃそりゃ。


 水沢さんは俺の質問に少し照れくさそうに頬をかきながら答える。


「……えっと、なんかカードを引くたびに、自然とそうなっちゃったんだよね。友達と一緒に遊ぶって、こういうことなのかなって思ったら、ついはしゃいじゃった!」


 そう言って、彼女は少し恥ずかしそうに笑った。

 俺はそんな水沢さんを肯定してあげるように、


「まぁ、楽しかったし、いいんじゃない? 水沢さんがそんなにノリノリで楽しんでくれるとは思わなかったけど」


 俺がそう言うと水沢さんはてへへと笑った。


「益山くんといると、なんか安心して自分を出せるんだよね。だから、ああいうキャラになっちゃったのかも」


 水沢さんは照れ笑いを浮かべながら、カードを一枚一枚丁寧にまとめている。

 さっきのカードの扱いとは大違いだ。さっきは机にバントたたきつけていたのに……(僕の私物なのでちゃんと優しく扱ってくれてはいました)。


 俺はカードを丁寧にまとめている彼女を見ながら、改めて思った。

 水沢さんとこうして友達として一緒に過ごす時間が、こんなにも特別で貴重なものだってことを。


「ねえ、益山くん?」


 片付けを終えた水沢さんが、少し真剣な表情で俺に問いかけてきた。


「ん? どうしたの?」


「私ね、益山くんと一緒にいると、友達ってこういうものなんだって、改めて感じるんだ。学校ではみんなに『聖女様』って言われて、ちょっと距離を感じてる部分もあったけど、益山くんといると、そういうの全部忘れられる。こうして一緒にゲームをしたり、普通の会話をしたり、カードゲームして変なことしても受け入れてくれて……すごく自然な友達って感じで……なんか、嬉しいんだ」


 彼女の言葉は、少し照れくさくて、でもとても誠実なものだった。


 俺はなんと言っていいのかわからなくて、でも心の中で同じように感じている自分がいることに気づいた。


「俺も同じだよ、水沢さん。水沢さんと過ごしてると、友達ってこういうものなんだなって感じる。今まで、友達がいないのが普通だと思ってたけど、今は全然違う。こうして一緒に笑いあえるのが、すごく特別だなって思うんだ」


 そう言いながら、俺は少し照れくさい気持ちを抑えて、彼女に視線を向けた。

 水沢さんはふわっと笑顔を浮かべて、俺の言葉に頷いてくれる。


「ありがとう、益山くん。本当にありがとう」


 その言葉に、俺の心がじんわりと温かくなる。友達って、本当にいいものだな──そう思う瞬間だった。


「──さて、そろそろ帰らなきゃね。今日は本当に楽しかった!」


 水沢さんが立ち上がり、軽く伸びをする。


「うん、俺も。ありがとう、水沢さん。また遊ぼうね」


 俺も立ち上がり、彼女を玄関まで見送る。


 靴を履きながら、彼女がふと振り返った。


「次はどんなことして遊ぼうかな? 楽しみだね」


「うん、そうだね。また一緒に何かやろう」 


 玄関のドアを開け、外に出る水沢さん。夕方の涼しい風が心地よく、二人の間に流れる空気は穏やかだ。


「じゃあ、またね!」


 水沢さんが手を振りながら去っていく。


「またね!」


 俺も手を振り返し、彼女の後ろ姿を見送った。


 友達として過ごす時間は、本当に特別で、かけがえのないものだ。

 今日はそのことを、改めて強く実感した。


 ちなみにその直後で母さんと姉ちゃんに二人には何も言わずに水沢さんを送ったことに対してモニョモニョ言われた。

 

 母さん曰く、

「来てくれたお礼にまたお菓子でもプレゼントしてあげようと思ってたのに……」


 姉ちゃん曰く、

「えええ、水沢ちゃんと次は二人でお出かけの約束しようと思ってたのに、せめて連絡先の交換だけでも……」


 との事だった。も、もうやめておくれええ。

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