第34話 聖女様とカードゲーム


「益山くん、これ次にやってみたい!」


 と、手に取ったのは俺が机の上に置いていたカードゲーム。

 何の気なしに出してみたけど、まさか水沢さんがこんなに食いつくとは思わなかった。


「え、これ? ルール複雑だよ、大丈夫?」


 と俺が心配したが、水沢さんは目を輝かせている。


「うん! こういうの、やってみたかったんだよね! しかも、友達と一緒に!」


 友達と一緒に──その言葉にちょっと嬉しくなりながら、俺はカードを手に取った。

 久しぶりに友達とカードゲームするのも悪くないよな。


 「じゃあ、やってみるか。まずはルールを説明するね」


 このカードゲームは、魔法や特殊能力を使って戦うタイプの対戦ゲームだ。

 プレイヤーは自分のデッキからカードを引いて、相手にダメージを与えながらライフポイントを削っていく。


 カードの組み合わせや戦略が重要で、初心者には少し難しいかもしれない。


「へぇ、なんだかすごくカッコいいね!」


 と目を輝かせる水沢さん。説明を聞きながら、何やらニヤニヤと怪しい笑みを浮かべている。


「水沢さん、大丈夫? 難しいって感じたら言ってね」


 と言ったが、彼女は首を横に振った。


「大丈夫! 私、こういうの好きかも!」


 意外と水沢さんは自信満々なご様子だった。


 そうしてゲームを始めると、水沢さんはカードを引くたびに顔つきを変えていった。


「ふふふ……見よ、このカード! 我が右手に封印されし力が今、解放される!」


「…………」


 ……え? いきなりどしたどした。


「えーっと、水沢さん?」


 と、俺は思わず声をかける。

 だけど、水沢さんは俺の方なんて見ていない。


「見える? この強大なる力! 我が手札には、『闇の騎士』と『炎の召喚獣』が揃いし時、全ては滅びへと導かれるのだ!」


 突然、何かに目覚めたようにカードをテーブルに叩きつける水沢さん(一応僕の私物なのでちゃんと加減はしてくれてます)。明らかにテンションが異常に高い。


 俺は少しだけ引きつった笑顔を浮かべつつ、


「いや、なんかキャラ変わってない?!」

 

 と小声で突っ込んでみる。しかし、そんな俺の小声によるツッコミははまるで届いていない。


「さぁ、行くぞ! 闇の炎よ、我が命に従い、敵を焼き尽くせ!」


 ……わわわ、厨二病、全開だぁ……。


「ちょ、ちょっと待って、そういうゲームじゃないんだよ」


 と、なんとかツッコミを入れるが、水沢さんのテンションは天井知らず。まるでファンタジーの世界に入り込んでしまったかのようだ。

 

 ……いや、まぁでもアニメだとこんな感じだし、こんなゲームなのか。

 無理やりそう言い聞かせて自分を納得させる。


「この一撃で全てが決まる! さぁ、覚悟しろ、益山くん!」


 テーブルにカードを叩きつけた(一応僕の私物なのでちゃんと加減はしてくれてます)水沢さんは、真剣な眼差しで俺を見つめている。


 俺は思わず苦笑いを浮かべてしまったけれど、なんだか楽しそうな彼女を見ていると、俺も自然と笑顔になってくる。


「じゃあ、受けて立つよ……って、なんでこんなノリになってるんだ?」


 と突っ込みつつも、そんなノリノリな水沢さんを見ながらカードゲームをしていると、少し、どころかめちゃくちゃ楽しみ始めている自分がいる。


「我が手札、炎の召喚獣! これでお前の運命は終わりだ!」


「おお、すごいすごい……」


 俺は思わず拍手してしまう。なんか引く、と言うよりかは一周まわって感心、というかんじになってきた。

 これ、俺今どんな気持ち?自分で自分の気持ちが分からない。


 そんな混乱状態の俺はよそに水沢さんは、


「うふふふ、見たか! これが、私の力だ!」


 と満面の笑みを浮かべる。


「……でもさ」


「ん?」


「楽しいね!」


 といきなり笑いながら言う彼女に、俺も思わずつられて笑みがこぼれる。


「そうだね、なんか思ってた以上に盛り上がったよ……いろんな意味で」


 と答えつつ、俺もカードをテーブルに戻す。


 水沢さんはゲームを続ける度にどんどんテンションが上がり、まるで小さな子供のように無邪気に笑っている。

 

 その笑顔を見ると、なんだか俺も楽しくなってきてしまう。不思議なものだ。友達というものは。

 こうやって生産性も何も無いはずのやり取り。

 バカやれてこうやって楽しめるのってやはり友達なんだなって思う。


「ふふっ、益山くん、次も私が勝つよ!」


 と、また新たなカードを手に取る水沢さん。その意気込みに俺も、


「……ふ、ふふ!俺もそろそろ封印を解き、本気を出す時!」


 と少しだけ対抗心を燃やしてみる。


 こうして、俺たちはどちらが勝つかを競い合いながら、何度もカードゲームを繰り返す。


 水沢さんは相変わらずノリノリで厨二病を発揮し続け、俺はそんな彼女に苦笑いをしつつも、心から楽しい時間を過ごしていた。

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