第31話 ノリノリな我が姉と母


 水沢さんとの約束をして家に帰った俺は、少し張り切りすぎな気もするが早速日曜日の準備を進めることにした。

 だって女の子が来るんだぞ?張り切らないわけが無い。


 ……とは言っても、部屋を片付けたり、どんなゲームを用意するか考えたりしていただけで、まだ何も言っていない親や姉ちゃんにどう説明するかが頭の中でずっと引っかかっていた。


 家に友達が来るのは珍しいことだから、いきなり「友達が来る」なんて言えば、色々と聞かれるに決まっている。

 しかも、女の子だなんて言ったらなおさらだ。俺はため息をつきながら、なんとか無難にごまかせないかと思案していた。


 夕食の時間になり、食卓に座った俺は、勇気をだして慎重に話を切り出すことにした。


「……えっと、今度の日曜日なんだけど……友達が家に来ることになったんだ」


「友達?」


 母さんが嬉しそうに反応する。


「いいじゃない!どんなお友達なの?」


「いや、普通の……友達だよ」


 このまま無難に進むと思っていた俺の期待は、早くも打ち砕かれた。

 隣に座っていた姉の海月(みつき)がニヤリと笑いながら口を挟む。


「ふーん、友達ねぇ。どんな友達?もしかして……女の子?」


「べ、別に、そんなことないよ……!」


 すぐに否定したけれど、明らかに動揺してしまったのがバレバレだった。

 姉ちゃんは俺の反応を楽しむかのように、さらに追及してくる。


「怪しいなぁ。男友達ならもっと自然に言うでしょ?あー、やっぱり女の子なんだ!」


「違うって……!」


「そうなの?」


 母さんも興味津々な表情で俺を見つめる。

 眩しい……!


「女の子の友達が来るの?」


 このままでは完全に追い詰められる。

 俺はもう隠しきれないと悟り、観念して白状することにした。


「……ああ、そうだよ。女の子が来るんだ。でも、ただの友達だから!」


 そこは強調しておく。いや、逆になんか怪しいか。


「やっぱり!」


 姉ちゃんは顔をパーッと輝かせ、得意げな表情で俺を見つめてくる。


「へえ、女の子の友達が来るなんて珍しいじゃない!誰なの?」


 母さんも興味を隠さない。


「水沢さんって言って、同じクラスの子だよ。友達として家で遊ぶってだけだから、別に変なことじゃないから……」


 俺はあくまで冷静を装おうとしたが、内心は焦っていた。

 これ以上、母さんや姉に深入りされるのは勘弁してほしい。


「ふーん、そっか。じゃあその子のために、張り切って迎える準備しなきゃね!」


 母さんの言葉に、俺はぎょっとした。


「え、いいよそんなの。普通に遊ぶだけだし、そんなに気を使わなくても……」


「何言ってるの、せっかく女の子が来るんだから、家をきれいにしておもてなししなきゃ!お菓子とか飲み物も用意しておくし、せっかくだから綺麗に掃除しておくわね」


「い、いや、そんなのいらないよ……」


 俺は否定するが、ノリノリなお母さんに姉ちゃんが乗っかる。


「そうだよ!ママ、せっかく女の子が来るんだから、お花とか飾った方がいいよ!あ、それと、なぎ!私もおしゃれしておくね!なぎが恥ずかしくないようにさ!」


 姉まで乗り気になって、勝手に自分の準備まで始めようとしている。


「いや、姉ちゃんは関係ないでしょ……!?」


「関係あるよ!家に誰か来るんだから、私だってちゃんとしておかないと。妹とかお姉ちゃんとかいると、男の子も安心するでしょ?だから、私もちゃんとメイクしておくし、髪型も可愛くしとくね!」


 姉の言葉に俺は思わず頭を抱えた。


 なんとかして母さんや姉を日曜日に家から追い出そうと考えていたけど、逆に彼女たちは「女の子を迎える準備」に夢中になってしまったらしい。


 

 その晩、俺はベッドに倒れ込んで、ため息をついた。


「どうしてこんなことに……」


 結局、母さんも姉も、俺の話を完全に誤解している。


 普通に遊びに来るだけの友達だって説明したはずなのに、なんでこんなに大騒ぎになるんだろう。

 しかも、家を飾り付けるとか、お菓子を用意するとか、完全に過剰な対応だ。


「まいったな……」


 翌日の昼間には母さんが部屋の掃除を始め、姉も買い物に行って「おしゃれにするための準備」を始めていた。


 俺はそんな家の中で、どうやって水沢さんを迎えればいいのか、不安でいっぱいだった。


「……まあ、なるようになるか」


 そう思って無理やり自分を納得させるしかなかった。


 少なくとも、水沢さんには普通の友達として来てもらうだけなんだから、一番初めに俺は変に緊張しすぎる必要はない……と、自分に言い聞かせながら俺は眠りに着いた。

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