第30話 聖女様と次の約束

 宿題を無事に終えた俺たちは、公民館を出て近くのアイスクリーム屋に向かっていた。


 夏の暑さがまだ残る夕方の街を、水沢さんと並んで歩く。

 アイスを食べるのが楽しみなのもあるけれど、こうして友達と一緒にいる時間が、今は何より心地いい。


「益山くん、次は何しようか?」


アイスクリーム屋に向かいながら、水沢さんがふと思い出したようにそう言った。


「次?」


「うん。今日で宿題もほとんど終わったし、また遊びたいなって思って。夏休みはまだまだあるから、いろんなことをして過ごしたいんだ!」


 水沢さんの提案に、俺も頷く。

 確かに、夏休みはまだ始まったばかりだ。宿題のことを気にしないで遊べるなら、もっと自由に楽しめるはず。


「確かに、次は何しようか。どこか出かけるのもいいし、映画とか……」


「うん、でもね……次は、どっちかの家で遊ばない?」


 水沢さんが少し恥ずかしそうに提案してきた瞬間、俺は思わず足を止めてしまった。


「え、家で?」


「そう。私、友達の家で遊ぶのって、やってみたかったんだ。だから、益山くんの家とか、私の家とかで……どうかな?」


 その言葉に、俺の心臓が跳ねた。


 突然、家で遊ぶなんて話になるとは思ってもみなかった。

 いや、友達なら別に不思議なことではないのかもしれないが……水沢さんと家で遊ぶという状況を想像するだけで、妙に緊張してしまう。


「えっと、それは……もちろん、いいけど……」


 言葉を選びながら、俺は少し戸惑い気味に返事をした。

 頭の中では、水沢さんの家に行ったらどうなるんだろうとか、女子の部屋ってどんな感じなんだろうとか、いろいろと考えすぎてしまう。


「でも、俺が水沢さんの家に行くのは、なんか……」


「……うーん、じゃあ益山くんの家でいいよ! 私、益山くんの部屋とかも見てみたいし!」


「えっ、俺の家に?」


 水沢さんがさらっと言ったことで、今度は俺の心がさらにざわつく。


 まさか俺の家に来るという流れになるとは。

 ここで拒否しても、みたいなところはあるし、まぁ女の子が遊びに来るのが恥ずかしい半分、満更でも無い気持ち半分だ。


 机やベッドの上は片付けておいた方がいいし、変なものは見えないようにしないと……とか、そんなことばかりが頭を巡る。


「いいのかな……まあ、俺の家でも」


「ありがとう! 楽しみだなぁ~。じゃあ、今度の日曜日とかどう?」


「うん、日曜日なら大丈夫だと思う」


 結局、俺の家に水沢さんが来ることが決まり、あっという間に次の計画ができた。


 だが、これで本当に良かったのか?

 女子が家に来るのは初めてのことだし、何をすればいいのか、どういう風に時間を過ごせばいいのか、まるで想像がつかない。


 そんなこんな話しているうちに、アイスクリーム屋に到着し、二人でアイスを食べながら夏休みの予定についてさらに話を進める。


 水沢さんは楽しそうに


「友達の家で遊ぶのがずっと夢だったんだ」


 と言って、目を輝かせている。


「そうなんだ」


「うん!なんだか、家の中でお菓子食べながらゲームしたり、いろんな話をしたりするのが、すごく憧れてて。私、あんまり友達が家に遊びに来ることがなかったから、そういうのにずっと憧れてたんだよ」


 水沢さんのその言葉に、俺は少しだけ胸が温かくなった。


 友達として、水沢さんがやりたかったことを一緒にできるのは嬉しいし、そういう時間を共有できるのも俺自身にとってもやはり貴重な経験だ。


「じゃあ、今度は俺の家で一緒に遊ぼう。俺の家にはゲームもあるし、なんか好きなことやろうよ」


「わーい! ありがとう、益山くん。すごく楽しみ!」


 無邪気に喜ぶ水沢さんの姿を見て、俺もなんだかワクワクしてきた。


 もちろん緊張はするけど、水沢さんと一緒に家で過ごす時間は、きっと楽しいものになるに違いない。そんな予感がする。


 アイスを食べ終わり、公園までの道をゆっくりと歩きながら、二人はその日の予定をさらに具体的に話し合った。


「何かやりたいゲームとかある?」


「うーん、特には決めてないけど、二人で遊べるゲームがいいな。あとは……お菓子もたくさん買って行くから、一緒に食べながら話すのもいいかも!」


「それはいいね。お菓子とか、好きなもの持ってきてくれれば大歓迎だよ」


 水沢さんとの会話が弾むにつれて、俺も少しずつ不安や緊張が薄れてきた。そしてだんだんと楽しみな気持ちが膨らんでいく。


 友達として一緒に過ごす時間を、こうして楽しみに思えるのは、今の俺にとってかけがえのないものだ。


「それじゃ、日曜日の約束ね! 楽しみにしてる!」


「うん、俺も。じゃあ、また連絡するよ」


 二人で次の約束を確認し合い、俺たちは笑顔で別れた。家に帰りながら、俺は心の中で次の日曜日のことを何度も想像していた。


 女の子が家に来ることにとても緊張するけれど、水沢さんとの楽しい時間を思うと、その緊張も悪くない気がしてくる。


「さて……部屋、片付けたりしないとな……」

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