第29話 聖女様とご褒美アイス
今日も俺と水沢さんは公民館で宿題を進めていた。
前回の勉強会のおかげで、だいぶ宿題が片付いてきたけれど、まだやるべきことは残っている。
「よし、これで英語の課題もあと少しだな」
俺がそう言って、手元のノートを確認する。
隣の水沢さんも、彼女の中では苦手な数学の問題を解いていたが、ペンを置くとふっと小さくため息をついた。
「やっぱり宿題って、量が多いね……」
「まあ、これが終われば楽しい夏休みが待ってるから、今が踏ん張りどころだな」
俺がそう言うと、水沢さんは笑顔で頷いた。
量的には二人ともあと少し頑張ればもう終わる、という感じの量だ。
俺は夏休みとかの宿題は後回しにせずさっさと終わらせてしまい、周りはまだ終わってないが自分だけ終わっている、という状況に優越感を覚えるような人だった。
……わかるよね?
それは水沢さんも一緒だったようで、まだ夏休みに入り1週間ほどしか経ってないが二人とももう既に終わりが見えていた。
「そうだね。でも、友達と一緒にやると宿題も少しは楽しいよ」
水沢さんの言葉に、俺も自然と笑みがこぼれる。
確かに、一人で黙々とやるよりも、こうして誰かと一緒に進める方が気が楽だ。特に水沢さんとは、お互いに教え合うことで得られるものも大きい。
「うん、水沢さんがいてくれるから、俺も頑張れるよ」
俺がそう言うと、水沢さんは照れたように「えへへ」と笑った。
しかしそこからしばらく勉強を続けていると、集中力が切れたのか、水沢さんが椅子にもたれて背伸びをした。
「うーん……ちょっと休憩しない?」
「そうだな……少しリフレッシュしようか」
さすがに疲れた。
俺も同じように椅子にもたれ、窓の外に目を向ける。夏の青空が広がっていて、蝉の声がかすかに聞こえてくる。
こんな暑い日に涼しい室内で勉強できるのはありがたいけれど、外に出て遊びたい気分も少しだけ湧いてくる。
「ねえ、益山くんって、どんな映画が好きなの?」
不意に水沢さんがそんな質問をしてきた。
さっきまで宿題の話ばかりしていたから、少し驚いたけど、こういう何気ない会話も悪くない。
「映画かぁ……アクションとかSFが好きだな。スリルがあって、非現実的な世界観が面白いんだよ」
「そうなんだ。私は感動系の映画が好きかな。人の心が動かされる瞬間が見えると、自分もなんだか勇気をもらえる気がして」
水沢さんの言葉に、彼女らしい優しさを感じた。感動系の映画を好むところは、彼女の純粋な真っ直ぐな人柄そのものかもしれない。
前回映画に行った時はその時たまたま話題だった感動映画を見たが、そういうのが好きと知れてなんだか良かったな、と思った。
「水沢さんっぽいな。感動系の映画って、見るだけで泣きそうになるけど、確かに心に残るよな」
俺がそう言うと、水沢さんは少し嬉しそうに笑った。
「友達とこうやってお互いの好きなものについて話すのも楽しいね。宿題だけじゃなくて、こういう時間も大事だなって思う」
「確かに。勉強ばかりだと息が詰まるし、こうやって休憩して好きなことを話すのはいいよね」
俺も共感して、頷く。
今までは一人で黙々とやるだけだった宿題も、こうして水沢さんと一緒だと不思議と楽しい時間に変わっていく。
「じゃあ、益山くん。次の宿題が終わったら、一緒にアイスでも食べに行こうよ。近くに美味しいお店があるんだって」
「お、いいね。頑張って宿題を片付けたご褒美に行こうか」
「うん! それならもっと頑張れそう!」
水沢さんは目を輝かせながら、またノートに向き合った。キラキラな笑顔が眩しい……!
彼女のそういう前向きな姿勢に、俺も元気をもらって、再び集中することができた。
******
「──よし、終わった!」
最後の一問を解き終え、水沢さんが嬉しそうに手を挙げた。
俺もそこから10分ほどでほぼ同時に課題を終え、ふたりで顔を見合わせる。
「お疲れ、水沢さん。結構頑張ったな」
「うん、お疲れ様! 益山くんがいてくれたから、あっという間に終わったよ」
水沢さんはそう言って、満足そうに笑った。
俺も同じ気持ちだ。一緒に宿題をやり遂げたという達成感と、それを共有できる友達がいることが、何より嬉しかった。
「それじゃ、約束通りアイスでも食べに行こうか」
勉強道具を片付けながら俺が立ち上がると、水沢さんは笑った。
「切り替え早いな!?」
「だってアイスが溶けちゃう」
「いや、まだ私たちが買う予定のアイスは冷凍庫の中だし溶けないよ!?」
そんな軽いやり取りをしながら俺達は公民館を後にして次の楽しみへと向かった。
宿題が終わった後の爽快感と、水沢さんとの楽しい時間が待っていることに、俺も自然と笑顔になっていた。
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