第27話 聖女様と夏祭り その4
花火大会が終わり、祭りの喧騒も少しずつ静まっていく中、俺たちはゆっくりと会場を後にした。
空にはまだ余韻のように微かな煙が漂っていて、辺りにはほのかに夜風が吹いている。
少し肌寒いくらいの夏の夜。
「楽しかったね、益山くん」
水沢さんがぽつりとつぶやく。
その声は、どこか満足感に満ちていて、俺も同じ気持ちになった。
「うん、本当に。水沢さんが楽しそうにしてたから、俺もすごく楽しかったよ」
俺は正直な気持ちを言葉にして、水沢さんの方を見た。
彼女は浴衣姿のまま、歩幅を合わせるように俺と並んで歩いている。
夏祭りの熱気が少し冷めた今、俺たちの間には穏やかな静けさが漂っていた。
「お祭りに行けて本当によかった。ずっと、友達と一緒にこういう時間を過ごしたかったんだ」
水沢さんが微笑みながら言う。
水沢さんが今までどれだけこのような友達との楽しい瞬間を心待ちにしていたのか、その思いが伝わってくる。
「俺も、水沢さんと一緒に来れてよかった。こうして一緒に何かを経験できるのって、なんか特別な感じがするよな」
俺の言葉に、水沢さんは少し驚いたような顔をして、それから小さく笑った。
「益山くん、なんだか今日は素直だね」
「そ、そうか? 別に、普通だと思うけど……」
俺は少し照れくさくなって、視線をそらした。
水沢さんとこうして一緒に過ごしていることが自然になってきた分、なんだか特別な感情が胸の中に浮かんできていた。
でも、それを言葉にするのは少し恥ずかしかった。
「でも、本当に楽しかった。益山くんと一緒にお祭りを回って、金魚すくいとか花火とか、友達と共有できるなんて……幸せだなぁ」
水沢さんがそう言って、ふわりと息を吐いた。
彼女の表情は穏やかで、まるで花火の余韻に浸っているかのように、満足げだった。
「俺も……水沢さんが喜んでくれてよかったよ。最初はどうなるかと思ったけど、結局めっちゃ楽しかったし」
正直なことを言えば、浴衣姿の、校内一の人気者の「聖女様」である、水沢さんと祭りに来ること自体がドキドキだった。
でも今は、彼女との時間を心から楽しめた気がする。
お互いにこんな風にリラックスして過ごせる友達としての関係が、どんどん深まっているんだなと思った。
二人で静かに歩きながら、ふと、俺たちは小さな公園の前を通りかかった。
公園のベンチがぽつんと見えて、水沢さんが立ち止まる。
「ちょっと、休んでいこうか?」
「うん、そうだね」
俺たちは自然な流れでベンチに腰掛けた。少し冷たくなった風が、祭りの熱気を一層和らげてくれる。
「今日は、これで終わっちゃうんだね」
水沢さんがぽつりとつぶやいた。その声には、少しだけ寂しさが混じっている。
「そうだな。でも、夏休みはこれからだよ。また、いろいろ一緒に遊べるし」
俺は水沢さんを元気づけるように言った。
夏休みにはまだたくさんの計画があるし、これで終わりというわけじゃない。
「そうだよね! 益山くんと一緒に、プールや映画、それに遊園地にも行くんだよね。楽しみだなぁ」
水沢さんは目を輝かせて言う。彼女のその笑顔を見ると、俺も自然と心が温かくなってくる。
「うん、たくさん予定があるし、俺もすごく楽しみだよ」
俺たちはしばらくの間、そんな何気ない会話をしながら、夏祭りの余韻に浸っていた。
涼しい夜風に吹かれながら、二人で過ごすこの時間が、なんだかとても大切に思えてきた。
「そろそろ、帰ろっか」
水沢さんが少し名残惜しそうに言う。
俺も名残惜しい気持ちは同じだったけれど、これからもっと楽しい時間が待っていることを思えば、今日はここで終わりでも十分だと思えた。
「うん、また明日、だね」
俺たちはベンチから立ち上がり、家に向かって歩き出した。
帰り道はさっきよりも静かで、夜の静寂が二人を包んでいた。
そんな中でも、水沢さんとの間には確かな友情の温かさが流れている。
「益山くん、今日は本当にありがとう。これからも、いっぱい遊ぼうね」
水沢さんがそう言って、にこっと微笑む。その笑顔に俺もつられて笑ってしまった。
「もちろん、またいろんなこと、一緒に楽しもうな」
夏の夜空の下で、俺たちはこれからの夏休みを期待しながら、静かに歩き続けた。
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これにて第三章終了です、読んで頂きありがとうございました!
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