第26話 聖女様と夏祭り その3


 祭りも中盤に差し掛かり、水沢さんと俺は次に金魚すくいの屋台へと足を向けた。

 

 屋台には、色とりどりの金魚が元気よく泳ぎ回っており、水沢さんはその光景に目を輝かせていた。


「わぁ、すごく可愛い……! 益山くん、やってみようよ!」


 水沢さんが楽しそうに俺を誘う。

 俺は笑って頷き、二人で金魚すくいを楽しむことにした。


「けっこう難しいんだよなぁ、これ」


 水沢さんは金魚すくいをしたことがない、との事だったので俺が先に挑戦したが、金魚の動きが素早くて、すくおうとするとすぐにポイ(紙でできた網)が破れてしまう。水沢さんがそれを見て、くすっと笑う。


「益山くん、難しそうだね。でも、私もやってみる!」


 水沢さんもポイを手に持ち、真剣な表情で金魚を狙う。俺よりも慎重に金魚の動きを見極めて、そっと水面にポイを沈めていく。


「いけるかな……」


 水沢さんの集中力が高まる中、小さな金魚がスッとポイの上に乗った。ゆっくりとそれをすくい上げ、見事に金魚を取ることに成功した。


「やった! 取れた!」


「すごい、水沢さん!」


 彼女が嬉しそうに金魚を見せてくる。俺は拍手しながら、その腕前に感心した。


「やっぱり水沢さんは器用だな。俺なんか、さっき全然ダメだったし」


「そんなことないよ、益山くんも頑張ってたじゃない」


 彼女は優しい笑顔でそう言い、二人で金魚すくいを楽しんだ時間は、あっという間に過ぎていった。


 夜も深まり、いよいよ祭りのメインイベントである花火大会が始まろうとしていた。

 屋台の喧騒も少しずつ落ち着き、観客たちはそれぞれ花火を見るために良い場所を探して集まっている。


「益山くん、あそこに座ろうよ」


 水沢さんが指さしたのは、少し高台になっている場所だった。

 人混みから少し離れていて、落ち着いて花火が見られそうだ。俺たちはその場所に腰を下ろし、夜空を見上げながら、花火が始まるのを待った。


「もうすぐだね。なんだか、ドキドキするね」


 水沢さんが興奮したように言う。俺も、友達とこうして一緒に花火を見られることが嬉しくて、心の中が温かくなっていた。


 そして──


「ドーン!」


 大きな音とともに、最初の花火が夜空に咲いた。

 鮮やかな光の花が広がり、その輝きが俺たちの顔を照らす。水沢さんはその瞬間、感嘆の声を漏らしていた。


「綺麗……本当に綺麗だね……」


 水沢さんは無邪気な笑顔を浮かべながら、夜空に広がる花火に目を奪われていた。

 俺はそんな彼女の横顔を見つめながら、友達として一緒にこうして過ごせることに感謝していた。


 花火は次々と打ち上げられ、その光が夜空を彩っていく。ふと、水沢さんが俺の方を向き、ぽつりとつぶやいた。


「友達と一緒に花火を見るなんて……本当に幸せだな」


 その言葉に、俺の胸の奥がじんわりと温かくなった。


 これまで水沢さんにとって友達と過ごすことがどれだけ特別だったか……今ならとても分かる気がする。


「俺も、水沢さんと一緒に花火を見れてよかったよ」


「……本当に? ありがとう、益山くん」


 水沢さんが微笑んで、俺もつい微笑み返してしまう。


 二人の間にあるのは、カップルとは違う、だけど確かな友情の絆だ。

 こうして一緒に何かを共有できること、それがどれだけ大切なことなのか、改めて実感する。


 「ドーン!」という音がさらに大きく響き渡り、クライマックスに向けて花火は一段と盛り上がっていく。

 空一面に大きな花火が広がり、俺たちは言葉もなくその美しさに見とれていた。


 最後の一発が打ち上げられると、辺りにはしばしの静寂が訪れた。余韻に浸りながら、俺たちはしばらくその場に座っていた。


「本当に、今日はありがとうね。益山くんと一緒に過ごせて、すごく楽しかった」


 水沢さんが静かにそう言うと、俺も同じ気持ちで応えた。


「俺もだよ。水沢さんと一緒にお祭りに来られてよかった」


 少し照れくさいけど、正直な気持ちだった。

 こうして一緒に過ごす時間が、俺にとってもかけがえのないものになりつつあることに気づいた。

 

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