第22話 聖女様とゲームセンター


 放課後、メールにて水沢さんからこんな文面が来ていた。


 『ゲームセンターに行ってみたい』


 水沢さんにゲームセンターに行ってみたい、と誘われたのは、俺にとって少し意外なことだった。


 そして今は少し学校から離れたゲーセンの近くに向けて二人歩いていた。


「ゲーセン、私はほとんど行ったことないんだけど、益山くんは行ったことある?」


水沢さんがそう言いながら、目をキラキラさせて俺を見ていた。確かに、彼女はこれまで「聖女様」としての品格を保っていたし、そんな場所で遊んでいる姿は想像もつかない。


「俺もそんなに行くわけじゃないけど……うん、行ったことはあるよ」


思わず、俺は少し躊躇しながら答えた。水沢さんと二人でゲームセンターに行くなんて、なんだか妙にドキドキする。


「じゃあ、今日は益山くんが先生だね!」


水沢さんの無邪気な笑顔に、俺も頷くしかなかった。


 そして俺たちがそんなこんなで喋っていると、ゲームセンターに到着した。

 

 入口からは派手なライトと電子音が響き渡り、どこか懐かしいような賑やかさが漂っている。

 俺は少し緊張しつつも、水沢さんを見ると、彼女は興味津々の表情で店内を見渡していた。


「うわぁ、こんなにいろいろあるんだね! 何から遊ぼう?」


水沢さんの目はクレーンゲームや音楽ゲームの筐体に釘付けだった。


 俺は内心、どうしようかと思いつつも、「ま、こうなったら楽しもう」と腹をくくった。


「じゃあ、まずはクレーンゲームとかどう?」


そう言って、俺はクレーンゲームのコーナーに向かった。

 大きなぬいぐるみやキャラクターグッズがたくさん並んでいる。

 水沢さんは少し悩んでから、小さなうさぎのぬいぐるみに目をつけた。


「この子、かわいい……取れるかな?」


「うーん、クレーンゲームって意外と難しいんだよね。でも、やってみる?」


水沢さんは嬉しそうに頷き、クレーンにコインを投入した。

 慎重に操作する彼女の真剣な表情を見ていると、なんだか微笑ましい。


 結果は惜しくも失敗だったけど、水沢さんは全然気にしていないようだった。


「うーん、難しいね。でも楽しい!」


「じゃあ、次は俺が挑戦してみようかな」


俺も彼女に負けじとクレーンに挑戦するが、やっぱりうまくいかない。


 二人で笑い合いながら、何度も挑戦したが、結局うさぎは取れなかった。

 それでも、水沢さんはずっと楽しそうに笑っていて、俺もつられて笑顔になっていた。


その後、二人は音楽ゲームのコーナーへ向かった。

 ノリのいい音楽が流れる中で、プレイヤーたちがリズムに合わせてボタンを叩いている。水沢さんは音楽が好きだと言っていたので、これには興味津々だった。


「これ、やってみたい!」


「じゃあ、やってみようか」


俺はプレイ方法を説明しながら、水沢さんと一緒に音楽ゲームに挑戦した。


 最初は戸惑っていた水沢さんも、だんだんリズムに乗って楽しむようになり、俺もつい熱中してしまった。

 ゲームの最後、二人でハイタッチをする瞬間は、まるで一緒に何か大きなことを成し遂げたような達成感があった。


「友達とこうやって遊ぶの、すごく楽しい! 夢みたい」


水沢さんの笑顔を見ていると、俺も同じ気持ちになった。夢見たい、とは少し大袈裟かもしれないけど、友達と一緒に遊ぶという、こんな些細なことが、彼女にとっては夢だったんだなと実感する。


そして、ゲームセンターをひと通り楽しんだ後、水沢さんがふとある機械を指さした。


「ねえ、益山くん。これ、やってみたいな」


指さした先には……プリクラの機械があった。俺は一瞬固まった。プリクラって、普通は女の子同士とか、カップルが撮るものじゃないのか?


「え、プリクラ……?」


俺は思わず後ずさりしたが、水沢さんは全然気にしていない様子で、ニコニコしている。


「だって、友達とプリクラ撮るって憧れてたんだ。いいでしょ?」


水沢さんの無邪気な笑顔に逆らうことなんてできるはずがない。

 俺は恥ずかしさを押し殺しながら、プリクラの機械に足を踏み入れた。


「うん、まあ……いいよ」


プリクラの機械の中に入ると、周りがカラフルなライトに包まれ、カウントダウンが始まる。


 水沢さんは楽しそうにポーズを決めているが、俺はどうすればいいのかわからず、ただ硬直していた。


「益山くん、もっと笑って! 友達と撮るんだから!」


水沢さんの言葉に、俺は少しぎこちなく笑顔を作った。


 シャッターが切られる瞬間、なんだかものすごく恥ずかしくて、目をそらしそうになったが、水沢さんの楽しそうな笑顔を見ていると、それも悪くない気がしてきた。


プリクラの撮影が終わると、2人で思う存分落書きをして出来上がった写真が機械から出てきた。


 二人の笑顔が写っているプリクラを見ながら、水沢さんは満足そうに笑った。

 2人ともちょび髭が着いた少しおかしな写真だ。


「これが友達の証だね。すごく嬉しい!」


そう言って、水沢さんはプリクラを大事そうに手に取った。

 その姿を見て、俺もなんだか温かい気持ちになった。


 恥ずかしいと思っていたけれど、こうして友達として一緒に過ごす時間は特別なものだということを、改めて感じた。


「そうだね。友達の証、か……」


俺は照れくさそうにプリクラを見つめながら、水沢さんとの友情が確かな形になっていくのを感じていた。


その日の帰り道、水沢さんはずっと嬉しそうにプリクラを眺めていた。

 そんな様子を見ると、友達と過ごす日常が、彼女にとってどれだけ大切なものなのかが、自然と伝わってくる。


「今日はすごく楽しかった。ありがとう、益山くん。また一緒に遊ぼうね」


「うん、もちろん。また一緒に行こう」


 夕陽に照らされた街並みを歩きながら、俺たちはこれからも友達として、いろんな時間を共有していくんだろうなと感じた。

 友達と一緒に過ごす時間は、こうして少しずつ特別なものになっていくのだろう。

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