第三章 二年生夏休み前夜祭

第20話 聖女様と作戦会議


 夏休みが近づいてきたある日、俺はいつものように放課後の公園に向かっていた。

 夏の夕方の風はどこか心地よく、ほんのりと汗ばむ肌を撫でていく。


 公園のベンチにはすでに水沢さんが座っていた。ポニーテールを揺らしながら俺を見つけると、いつものようににっこりと笑って手を振る。


「お疲れ様、益山くん!」


「お疲れ、水沢さん。待たせちゃったかな?」


「ううん、全然。私も今来たところだから」


 俺は隣に腰掛け、夕方のオレンジ色に染まる空を見上げた。


 どこか浮かれた気分の水沢さんに、何か良いことでもあったのかと尋ねようとしたその時だった。

 水沢さんが少し頬を赤らめながら、俺の方をじっと見つめてきた。


「ねぇ、益山くん。夏休み、友達と遊びたいんだけど……どうかな?」


 予想外の言葉に、俺は一瞬反応が遅れてしまう。


 友達と過ごす夏休み——それは水沢さんだけでなく、俺自身もずっと憧れていたものだったからだ。

 

 けど、俺たちは「秘密の友達」。学校では他人同然に振る舞わないといけない立場だ。


「えっと……もちろん、遊びに行こうよ。でも、学校のみんなにはバレないようにしないとね」


 そう返すと、水沢さんはホッとしたように笑った。


「うん、分かってるよ。私たち、まだクラスのみんなには秘密の友達だからね」


 彼女はそう言って、いつものように可愛らしく笑う。


 あぁ、この笑顔を見ると、俺も気を張らずに素直に「遊びたい」って言えてしまうのが不思議だ。


「でも、夏休みだったら誰も気にしないと思うし、いろんなところに行ってみたいな」


 そんな彼女の発言に俺は認められてるんだ、と感じ嬉しくなりながらも尋ねる。


「そうだね。じゃあ、どこに行く?」


 水沢さんはしばらく考えてから、何かを思いついたように瞳を輝かせる。


「まずはプールとかどうかな? あとは映画とか、遊園地も楽しそうだよね」


「いいね、プールは夏っぽいし、遊園地も面白そうだ。映画も何か話題作があるかもしれないし」


 二人であれこれ考えながら具体的な計画を立て始める


 そしてそれが時間が経つのも忘れるくらい楽しかった。プールに行く日、映画を見る日、遊園地に行く日——次々と予定が決まっていくたびに、俺たちは目を輝かせた。

 どんどんカレンダーが予定で埋まっていく……!


「これが友達と過ごす夏休みなんだね……なんだかすごく楽しみ!」


 水沢さんは無邪気にそう言って、嬉しそうに笑う。その姿を見て、俺もつい笑みをこぼしてしまう。


「そうだよ、夏休みはたくさん遊んで、思い出を作ろう」


 俺は、友達と過ごす夏休みなんて考えたこともなかった。ずっと一人で過ごすことに慣れてしまっていたからだ。

 だけど、こうして水沢さんと話していると、自分も心のどこかで「友達と楽しい夏休みを送りたい」と思っていたことに気づいた。


 その夜、家に帰って布団に横たわりながら、今日のことを思い返していた。


「夏休みに水沢さんと遊ぶなんて……まるで夢みたいだ」


 独り言のように呟いてから、スマホを取り出して日程を確認する。

 プール、映画、遊園地——どれも二人にとって、忘れられない思い出になりそうだ。考えれば考えるほど、自然と心が躍ってしまう。


「うまくいくといいな……」


 小さく呟いて、スマホを枕元に置く。明日はさらに詳しいプランを立てる予定だ。なんだか眠るのがもったいないくらい、期待で胸が膨らんでいた。




 ******


 


 翌日、再び水沢さんと公園で集合し、昨日の続きの計画を練り始める。

 水沢さんはすでにスマホで調べてくれていたお店やスポットの情報を俺に見せてくれた。


「ねぇ、このプール、評判がすごく良いんだって! 流れるプールとか、スライダーもあるんだよ!」


「本当に? じゃあ、そこに決定だね。映画は何を見ようか? 夏休みだから話題作も多いだろうし」


「うーん、どれも面白そうで迷っちゃう……! 益山くんは何か見たい映画ある?」


「そうだな……アクション映画とか、あとちょっと感動するやつもいいかも」


「感動系かぁ……。そういうのも、友達と一緒に観るとまた違うのかな?」


 水沢さんの言葉に、俺は少し考えた。


「きっと、一人で見るのとは違うと思う。俺も、誰かと一緒に映画を観るなんて経験あまりないし……だから、一緒に観たいんだ」


 俺がそう言うと、水沢さんは嬉しそうに目を細めた。


「そっか……じゃあ、感動する映画も候補に入れておこうね」


 こうして俺たちは、次々に楽しそうなプランを立てていった。

 水沢さんが笑顔で俺にいろんな案を出してくれるたび、俺も自然と顔がほころんでいく。


「楽しみだね、夏休み」


「うん! 益山くんと一緒にいろんなところに行けるなんて、本当に嬉しいよ」


 水沢さんのその言葉に、俺の心臓が少し早く鼓動する。

 そんな彼女の無邪気な笑顔に、俺は不覚にもドキリとしてしまった。

 そして俺は嬉しい反面、少し照れくささも感じながら、小さく頷いた。


「じゃあ、夏休みになったらまたここで集合して、それぞれの場所に行こうか」


「うん、決まりだね! 絶対に楽しもうね!」


 期待に満ちた彼女の笑顔を見ながら、俺たちはこれから始まる夏休みの冒険に心を躍らせていた。

 夏の日差しのように温かな気持ちを胸に秘めて——。


 

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