第11話 聖女様とカフェデート
放課後、教室を出たところで、スマホが振動した。
携帯を開くとそれは水沢さんからのメッセージだった。
『今日ちょっと相談があるんだけど放課後空いてる?』
『うん、大丈夫だよ。どうしたの?』
──まぁ俺は毎度恒例遊ぶ相手もいないので空いております……とか打とうとしたが、少しあっちにも気を使わせるなという考えに至ったので今回はしっかりやめておいた。
こういうブラックジョークはもっとなかをふかめてからにしないとなへへっ。
俺がすぐに返信すると、少ししてあちらからの返事が来た。
『実はカフェに行ってみたいんだ』
『なるほどなるほど』
『友達と一緒にカフェって、楽しそうだなって思って。どうかな?』
なるほどなるほど。美少女と二人でカフェか……。
もうそれはデート以外のなんでもない。
……いや、友達とカフェに行くことくらい普通だと俺は思う!俺たちふたりは友達なのだから。
それにしても俺は水沢さんからの提案に驚いた。
彼女がオシャレなカフェに行きたいと思うなんて、ちょっと意外だった。
学校では「聖女様」として完璧に振る舞っている彼女だが、こういう普通の高校生らしいことにも憧れているんだなと感じた。
俺も彼女の「友達」としてその気持ちに応えないとな、そう思った。
「いいね!どこのカフェに行く?」
俺だってカフェなんて行ったことないし、緊張するけど、なるべく自然にあっちに気を遣わせないようにすることを意識して返事をした。
『益山くんの家の近くにあるって言ってたカフェが良さそうかな』
『あ、あそこか』
『あそこだったら学校から少し遠いから誰にもみられなさそうだし』
俺は少しドキドキしながら、約束の返事をした。
『じゃあ、放課後に駅前で待ち合わせしよう』
******
放課後、駅前の待ち合わせ場所に着くと、水沢さんが先に来ていた。
普段は制服姿の彼女が、今日はカジュアルな私服で、いつもとは違う雰囲気を醸し出していた。
淡い色のブラウスにスカート、そして小さなバッグを持っている。
まるでどこかのお嬢様が街に出かけるときのような姿に、俺は一瞬見惚れてしまった。
やっぱり聖女様の異名を持つ彼女はとてつもないなと思った。
「お待たせ、水沢さん」
「ううん、私も今来たところだよ。」
水沢さんはにこっと笑いかけてくれた。その笑顔に緊張しながらも、俺は一緒にカフェへと歩き出した。
カフェに着くと、店内は落ち着いた雰囲気で、他に客も少ない。学校からは離れているため、知り合いに会う心配もない。
「どこに座る?」
と俺が聞くと、水沢さんは窓際の席を指差した。
「あそこ、景色が綺麗だからあそこがいいな」
「おっけー」
俺たちが訪れたのは昔の古民家をカフェに改装した場所だった。
そして俺たちが腰掛けた席は2階の窓際の席だった。
座ると直ぐに水沢さんは写真を撮り出した。
「うーん、どの角度が映えるかなぁ……」
「水沢さん映えとか気にするんだ……」
「ま、まぁ見せる場所もないんだけどね」
「はは……」
「あ、なんかごめんね! 大丈夫流して!」
おぉ、水沢さん。いきなりあっちもブラックジョークをかましてきたな。
次は俺もかますかぁ……。
「にしても景色が綺麗だねここからだと」
「うん、水沢さんナイスチョイス」
俺はそういい親指を立てる。
目の前には街並みが広がり、柔らかな光が差し込んでいた。水沢さんはメニューを手に取り、少し迷った後でカフェラテに決めた。
「俺も同じのにするよ。」
俺もカフェラテを頼み注文を終えると、俺たちはしばらく無言で窓の外を眺めていた。
水沢さんの隣にいると、なんだか不思議な緊張感があった。
学校では見せない無邪気な一面を知っているけど、こうして外で過ごすと、改めて彼女の美しさに気付かされる。
「益山くんなんだか緊張してる?」
水沢さんが小さく笑いながら、俺に問いかけてきた。
「うん、ちょっとね。なんだかいつもと雰囲気が違うからさ。」
「そう?私は普段通りのつもりだけど。」
水沢さんはそう言いながらも、俺の言葉を受けてなんとなく嬉しそうな表情を浮かべているように見えた。
カフェラテが運ばれてくると、水沢さんは一口飲んで、ふっとため息をついた。
「これが友達と一緒に過ごす時間なんだね」
と、嬉しそうに笑う。
「友達と一緒にカフェなんて、私にとっては初めてのことだから、なんだかすごく特別な感じがするよ。」
「そうなの?でも、楽しんでるなら良かった。」
「うん、すごく楽しい。渚くんのおかげだよ。」
水沢さんがそう言って微笑むと、俺は少し照れくさくなりながらも、「俺も楽しいよ」と返した。
学校では「聖女様」として振る舞う彼女が、こうして普通の女の子として俺の隣にいる。そのギャップに、俺はますます惹かれていった。
「まぁまだここに来て頼んで1口それを飲んだだけなんだけどね」
「いいじゃん、それだけでも楽しいって思えるって最高じゃない?」
「確かに、それは言えてる」
そう言って二人笑い合う。
それから二人でたわいもない話をしてカフェを後にした。
「益山くん、またこうして一緒にカフェに行けたらいいな。」
帰り際、水沢さんはそう言って、少しはにかんだように笑った。
「もちろん。いつでも誘ってよ。」
俺たちはその後、夕焼けに染まる街を並んで歩きながら、それぞれの家へと向かっていった。
初めてのカフェで過ごした時間は、俺にとっても、きっと水沢さんにとっても忘れられない一日になった。
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