第2話 ラーメン屋に聖女様
「──今日はどこに行こうかな……」
時間は放課後。先程帰りのホームルームが終わり、周りのみんなは部活へと向かったり、塾へ勉強をしに行ったり、教室は喧騒に包まれていた。
俺は部活に入ってる訳でもないので放課後の時間は特に何をすると予定が決まっているわけでもなかった。
そんな俺はスマホを見ながら今日の夜ご飯を一人考えていた。
そして俺の最近のマイブームは、新しいラーメンのお店を開拓することであった。
「よし、今日はここに行こう」
今日は俺の最寄り駅の隣の駅の近くにあるラーメン屋に行くことに決めた。
しっかりと口コミもチェックした。
店主の気さくな接客と昔ながらの優しい味の醤油ラーメンが看板メニューで、常連さんもクチコミの中にみうけられた。
ここは期待できるぞ。
俺は直ぐにでも向かいたい気持ちではあったがまだ時間は約十五時過ぎ。
お腹はまだ空いていない。
俺は机に課題を広げるとその課題をダラダラと進めながら時間が過ぎ、お腹が空くのを待つことにした。
******
「ここか」
そして時間は約十七時。
俺は先程マップで調べた口コミがいい昔ながらのラーメン屋、『花丸らぁめん』の前まで来ていた。
こうやってラーメン屋に来るのは最近のマイブームではあるが、やはり一人で初めてのお店にはいる時はどんなときも緊張する。
俺はその入口の暖簾の前で深呼吸して気持ちを落ち着かせると意を決して『花丸らぁめん』の暖簾をくぐった。
カウンター席が6席と4人がけのテーブル席が二つ。昔ながらのラーメン屋、というような感じのないそうだ。
「いらっしゃいませー!」
店に入るとまずとびこんで来たのは食欲そそるラーメンのいい匂いだ。あぁこの店は美味いところだ、と俺はその瞬間に悟った。
そして初めにその良い匂いに思考を巡らせたのもつかの間、疑問がやってきた。
「あれ……?」
口コミには『男の店主がかっこいい』だとか、『優しいおじちゃん!』だとかそんなことが書かれていたが、俺の耳に飛び込んできた『いらっしゃいませ』の声は女の子の、それも若々しい声であった。
そしてなぜだかその声にはやけに聞き覚えがあった。
そんな疑問を胸にその声の主を見ると──。
「一名様ですね!そちらのカウンター席どうぞ!」
「あ……はい」
あちらはまだ気づいていないようだが、この花丸ラーメンを一人で切り盛りしていたのは、俺の高校で知らないものはいない『聖女様』こと、水沢羽音だった。
いつも肩まである透き通るような黒い髪はゴムでポニーテールに束ねられており、三角巾をつけエプロンをしていた。
俺は席に着くと彼女は何事もないように俺に注文を聞いてきた。
「ご注文は?」
「あ、ええと醤油ラーメン1つで」
「はいよ!醤油ラーメンいっちょ!」
──まてまてまてまて。
本当に俺の目の前にいるのはあの学校で誰もが羨む『聖女様』の水沢羽音なのか……?
さすがにキャラが崩壊しすぎてついていけない。
学校での水沢は誰に対しても口を抑えてふふふと微笑み、ごきげんようとでも言い出しそうな穏やかな雰囲気『聖女様』のはずだ。
しかしそんな彼女が、
──シュパッ!シュパッ!
豪快に湯切りをしていた。それはもう、その湯切りは豪快で、手馴れた感じだった。
俺は混乱していた。
どう見ても見た目はあの校内一の美少女の水沢羽音なのだが、いつもの彼女のキャラと今俺の前で豪快な湯切りを披露してくれた彼女をどうも結びつけることが出来なかった。
「へいおまち!」
そうこう考えているうちに彼女が俺の前にラーメンを置いた。
とても良い香りが鼻の奥までやってきた。
これから忙しくなるのだと思うが、時間も時間でまだ店の中の客は俺しかいない。
「いただきます」
手を合わせてから俺は麺をすする。
水沢さん(?)も手が空いているのかそんな俺の様子をチラッと見ている。
なんだか緊張するな。
水沢さんかどうかが確定した訳では無いが、ラーメン屋の店員が美少女であることにはかわりない。
そんな彼女に見られながら食べるラーメン。なんだか訳の分からない緊張感に苛まれながらまず俺はラーメンの汁をすすって見ることにした。
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