第51話
あふれて落ちるものがあった。
溶かされ、流れ出て、不破を求めてさまよっている。
「……あいたい」
『だから会えんのかって』
「会いたい、、」
『おー、それはもうわかったよ』
不破は遠くで呆れて、そんな声すら苦しい。涙がぼろぼろとこぼれて、いつからこんなに泣き虫になったんだと、自分に反吐が出る。
迷惑をかけているのを自覚して、口を開いた。
「不破、私、不破にお礼を言わなければいけなくて」
『何?』
「あなたのおかげで、私、変われたみたいで」
用件を探して見つけて、それにすがる。
「あなたのおかげで、縁談を断られていた人に前向きなお返事をいただいて、だから、もしかすると結婚できるかもしれなくて、私、日和じゃないのに……日和じゃないから……でも、私でもいいかもしれ、なくて……あなたのおかげで……あなたの……」
脳を通過させずに口走るから、ただお礼を言うという着地点を目指すことすら困難だ。お礼へと続く道から逸れてしまった。
言葉が続かず、徐々に項垂れ、顔を覆った。
「──不破が良かった」
こんな吐露は時間を奪うに値しないのに。
「……会うのも、知るのも、触られるのも、選ばれるのも、選ばれないのも、悲しいのも、全部、不破だったら、」
会いたい。触って。抱きつきたい。もっと教えて。いろんなことがしたい。いろんなところへ行きたい。いろんな顔を見せて。関わりを続けて。私を選んで。私でいいって言って。ただ笑って。会いたいな。
会いたいの。
未熟な気持ちが出所を誤った。欲張った。わがままだ。望んでもいなかった幸運を前に別の幸運を願うなんて、狂ってる。
ごめんなさい。誰に向けてということもなく謝ろうとした。
すると、不破が笑う。
『まどろこしいな。それ一言で言えんだろ』
会いたい。
『会いたい? じゃあ行くわ』
簡単に承諾して、「そんだけ?」と尋ねる不破。
「──これ以上好きになりたくない」
呟くようにこぼせば、耳元で不破の呆れる声がする。
『つまり何だよ』
「すき」
『うん』
「好き」
『うん』
不破は、笑った。
『そっち行くわ』
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