第14話
向かい合って座らなければ良かったと、後悔する私などどうでもいいらしい。
基本的に自由な不破は、頬杖をついたまま、俯いている私と目を合わせようとする。
「なあ、質問」
「……何よ」
「あんたの仕事って土日休み?」
俯いている場合ではなかった。
予想より真面目な質問だったことではなく、そんなことも話していなかったのかということに驚き、急いで不破と目を合わせる。
「……ちがう」
「じゃあいつ? 固定じゃねえとか?」
「ちがう、わたしまだ、大学生」
そこからの沈黙は長かった。
不破は目を見開きこそしないものの、私を見つめたまま微動だにしないので、きっとすごく驚いているのだろうと察した。
永遠に続くかと思われた静寂は、不破が両手で頭を抱えて項垂れたことで終わった。
「……あ? まじ?」
「ほ、ほんとよ」
「ああ、そういう? 酒飲めねえって法律上?」
「い、いや、もう飲める……」
「まじか。あぶねえ、捕まるとこだった」
「なんで不破が捕まるのよ」
「俺酒飲ましてねえよな?」
「飲まされていません。ねえ、ちょっと落ち着いて」
不破は疲れたように腹の底から息を吐いて、私は心の底からお詫び申し上げた。
不破は顔を上げずに尋ねる。
「何歳?」
「昨日22歳に」
「誕生日おめでとう」
「ありがとう。……ぐったりね」
「そりゃあね」
不破は上体を起こし、ソファーに背中をつける。
やっぱり先に言っておくべきだった、と後悔し、「ごめんなさい」と謝れば、不破の目が私に向いた。もう一度謝罪を繰り返す。ごめんなさい。
「すげえ謝んね。それは何のごめん?」
「……わからないけど」
「未成年かと思ったのが一つと、女子大生って単語とあんたが結び付かなかったのが一つ。後は、学生とじゃなかなか時間合わねえなって思った。そんだけだよ」
なかなか時間が合わない、という言葉を深読みする。もしかすると、休みの日はいつだと聞いたのは、約束をして会うためだったのだろうか、というところまで飛躍すれば、脳は妙な回路を通って、不破の手の感触を思い出させた。
「……予定なんてバイトと論文くらいだから、時間の融通はきく方だと思う、けど」
「俺に時間くれるって?」
「次があればいいなとはいつも思ってるから」
「……へえ」
止めていた手を動かし、パフェを食べることを再開した。アイスは溶け始めて、液体に近付きつつある。
私はやっぱり、しまったと思う。
不破の目のうるささに、向かい合って座ったことを幾度となく後悔する。
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