第13話
恋人繋ぎなんて、きっと叶わないと思いながら願ってきた、夢の一つだった。
私は自由な方の手で頭を抱える。
「……しなくていい」
「あ?」
「こんなことしなくていいって言ったの。大体、どういうことなの? なんで手を繋ぐのよ。彼女とさえ繋がなそうなあなたが」
「箱入り娘には基本抑えんのが常識だろ」
不破は放り投げるみたいな雑さで答える。
「あんたが面倒くせえのはわかってる。好きなだけ暴れればいいよ。こっちはこっちで好きにする」
まるで私のことを怪獣か何かだと思っているみたいな言い草だ。そういうことは、私が一度暴れてから言ってほしい。
私は繋がれた手を解いた。
「……そんなに良くしてくれなくていいわ」
ぼそっと落とした小さな声が聞こえたらしい。
不破は何やら楽しげに眉をあげて、そうかと思えば手を伸ばして私の耳を摘んだ。
「つめた…!」
驚いて叫びながら、可能な限り距離を取る。
不破は笑った。裏のなさそうな方の笑い方だ。
「……なにするのよ」
「かてえんだよ、あんたは。もっと力抜いてけよ」
不破のこういう笑顔はやっぱり悪くない。
日和に教わったカフェは、木目調のおしゃれなお店だった。向かい合って座って、正面から不破を見て、新しい景色を知った。
私はキャラメルパフェを頼んだが、不破はコーヒーだけでいいと言った。
「何も食べなくていいの?」
「いいよ。甘いものはあんまり食べない」
「そうなの。それはごめんなさい、前もって聞いておくべきだった」
「いや。聞かれても多分言わなかった」
しばらくして運ばれてきたのは、想定より背の高いパフェだった。ナッツやチョコやアイスが入っていて、その上から自分でソースをかけるタイプのものらしい。うまくかけることに集中していれば、不意に不破がソースを持っている方の腕を掴んだ。
「何?」
「袖が汚れる」
「え、あ、ごめんなさい」
アイスの部分につきそうになったニットの袖を押さえてくれているらしい。慌てて反対側の手で袖を押さえることを代われば、不破の指先と当たって、そんなことに不思議と意識が向いた。
すると、私の何を見透かしたわけであるまい、不破は唐突に呟いた。
「……純粋培養って感じだよな、あんたは」
「…、」
「何だよ」
「あ、いや、あなたに初めて褒められたから、ちょっと衝撃的で」
「別に褒めてねえんだわ」
不破は呆れる。
パフェを口に運ぶ。一口食べると、甘くて美味しい。今まで食べたスイーツの中で一番美味しいかもしれない。二口目からは夢中になってスプーンを運んだ。
でも、夢中は続かなかった。
頬杖をついてじっと見てくる不破のせいだ。
視線が刺さる。夏日に灼かれるように、不破の見ている場所が熱くなる。それはただ手を動かすことや咀嚼という簡単な動作さえ難しくさせる。
五分の一ほど食べた頃、私はついに手を止めた。
「……失敗した」
「何? キャラメルやだったの?」
「違う。テーブル席に座ったことよ」
普段はカウンターで隣合って座っているし、不破にはお酒があるので、暇を持て余した不破の視線がこんなにもうるさいとは知らなかった。
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