第15話


カフェを出ると「次はどうする?」と尋ねられたので、日和から聞いた情報を酷使した。



「映画館で映画を観る」



映画館に行くのは初めてだった。まず足元が柔らかいことに驚き、ロビーで流れる広告動画に惹かれ、たくさんの映画が同時に上映されていることを知った。


ポスターを見上げ、どれを見たいか尋ねれば、不破は、私が好きなものを選べばいいと私に丸投げしてきた。



「私、アクション映画が観たい」

「あー、どれだ?」

「戦闘シーンがかっこいい映画がいい。動物が傷付くシーンはなくて、味方も敵も無事で、すごくわくわくする映画が見たい」

「俺映画オタクじゃねえんだわ」



不破は仕方なさそうに笑う。


それから、ロビーの椅子に向かうと、隣に座った私にスマホを渡した。



「これ、今ここで上映してるやつな。このページの説明読んだり、モニターの広告動画見て選んで」



ほぼ他人の私にスマホを渡してしまえる不破に驚き、その寛大さに恐縮した。



「……うそよ。何でもいい。あなたも選んで」



スマホを返せば、不破は横目で私を見て、「じゃあ一緒に見よ」と私にスマホを持たせたまま画面を覗いた。私が操作するようにと不破が言うので、人のスマホを持ち主の前で触る。指先が震えそうになるのは、多分そのせいだろう。


不破は結局何も言わず、何分でも悩ませて、最終的には、私がぼそっと呟いた「これ面白そう」という言葉を拾って、その映画を観ることに決めてしまった。



「チケット買ってくるから待ってて」



不破が離れていき何かの機械を触り始めて、ようやく、チケットを買うという動作を要するのだと気付いた。エスコートは完璧だと思っていたのに、だめだ。


日和ならもっとうまく──。マイナス思考が顔を出し、懸命に振り払う。



これ以降のエスコートにはミスがないよう、気を引きしめ直す。不破が帰ってきたら私もチケットを買いに行こうと財布に手を伸ばし、いや、その前に機械の使い方を調べようとスマホを取り出した。


ロック画面に、新着メッセージを受け取ったとの通知。親か日和のどちらかだろうという予想は、顔認証を突破すると同時に正しくなかったと知る。



メッセージの送信相手の名前は、千尋くん。



【夏葉久しぶり! 相談があるんだけど、年内に1回会えない?】



たった一文で私を揺り動かす人。



     

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