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第12話
予習はした。日和に電話をかけよく行くお店を尋ねておいた。エスコートはおそらく問題ない。
クリスマスの一週間前、昼下がりに不破と聖夜の気配を感じる街中で待ち合わせる。
30分前から待ち合わせ場所で待機しながら、昼日中の景色の中にいる不破を想像しようとして断念することを繰り返している。だって、絶対に似合わないに決まっている。何度目だったか、笑ってしまいそうになって俯いたときだった。
「──早すぎるだろ」
後ろから声がかかって肩を跳ね上げた。
それは不破の声だったから不破だろうと思って振り返って、息を呑んだ。
「絶対もう来てると思ったわ」
「……うそだ」
「あ?」
不破は真っ昼間に馴染んだ。こんなの、嘘だ。
夜の街にしか生息できないという印象がこの瞬間見事に崩れる。きっと、遠目から見れば彼は誠実な人に見えるだろう。千尋くんと並べば、十中八九同級生に見えるはずだ。
いつもの不破と何が違うのだろうかと考えて、不破のおでこが隠れていることに気付く。服装もスーツでなくラフなものになっていて、それらが不破を幼くしているらしい。
それにしても、服装や髪形はこんなにも人の印象を変えるものだろうか。私は驚きのあまりまじまじと不破を見つめた。
待ち合わせ時刻の20分前。来て早々何かを疑われている不破は、わけもわからず顔をしかめた。
「何だよ。何が言いてえんだよ」
「あ、ごめんなさい。驚いて」
「何に?」
「普段と見た目が違うから」
「そりゃああんたに合わせたから」
不破は私のどうでも良い関心を断ち切ろうともくろんで、少し腰を屈めて私の目を覗き込んだ。
「で? どこ行く?」
「……かふぇ」
「カフェか」
「カフェでスイーツを食べる」
「店どこか決まってんの?」
「もちろんよ。ついて来て」
私は意気揚々と歩き出した。
すぐに隣に並び、不破は「ほら」と手を差し出す。
「……なに?」
「繋がねえの?」
「どうして?」
「デートだろ」
デートって、方便じゃなかったのか。
初歩でつまずいた私は、デートでは手を繋ぐという方程式を確立している不破に混乱するところにすら到達しなかった。
「……おかまいなく」
先日の不破が本気でデートと言っていたことに、今日はデートだと思って待ち合わせ場所に来たこと。情報過多なあまり呆然としながら、申し出を断る。
これは前々からそうだったが、やはり不破は、自分の提案を断られたところで嫌な顔を一切しない。それどころかむしろ楽しそうに笑うので、意味がわからない。
「あんたの線引きわかんねえな。キスすんのは歓迎すんのに、手は繋ぎたくねえの?」
「か、歓迎なんてしてな…」
反論すれば、不破は私の肩に腕をまわして引き寄せた。
「──その先は?」
わざわざ小声を聞かせた不破を肘で押し返す。
不破はやはり楽しそうに表情を緩める。
「そんなことしなくていいわよ」
「そんなことって?」
「接触とか、デートって呼ぶとか、そういうこと」
「接触って何すか」
「性的行為の全てよ。キス云々のときもそう言おうとしたけど、様子のおかしなあなたを前にそれどころではなくて言い忘れた。ごめんなさい」
軽く首を折って謝罪すれば、なぜかひとつも話を聞いていなかったらしい、不破は私の手を掴んだ。もはや手を繋ぐという次元ではない。これは連行だ。
振り払おうとするが、不破の力は強かった。
「やっぱ思った通りだわ」
「何よ」
「くそ面倒くせえ」
不破は連行から器用に恋人繋ぎにすり替える。
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