第10話


昔から人付き合いが苦手だった。



笑っても足りない。優しい言葉を選んでも、親切な人間を目指しても、足りない。及ばない。人格の核をなす自己評価が、ただそこにいることに罪悪感を抱かせた。


外面をつくろい背伸びをせずにはいられなくなって、いつしか空回って、疲れて、自分を嫌いになって、じゃあもういいと、いろんな関係を諦めてきた。




人付き合いは苦手だ。できれば1人がいい。


だから、思い切って行った先で出会った不破に、日を改めて会いに行くだなんて、私にとっては異常なことだった。



それがどうして続いているのか、理解できない。




初めて不破を目にしたときの衝撃なんて、私の持つ知識の範囲の外にあった。フロアを占拠する人混みの中に、ただ1人を見つけた。引っ張られた。


そんな感覚を何と呼ぶのか、わからないまま予感にすがった。



──あなたに恋をしたい。



何かをしたいわけではない。好意を手に入れたいわけではない。肌を合わせたいわけではない。


不破という存在の影響を受ける。不破に引きつけられて、形が変わり、やがて、恋をしていた私が藻屑となる。そんな予感にすがってみようと思った。



    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る