第2話



不破は言った。



「あんたって、箱入り娘か?」

「どうして?」

「世間擦れしてねえから」



その指摘は私の恥を刺激する。



「……経験に乏しいの」

「経験?」

「友達と付き合う経験。誰かと交際する経験。人と別れる経験。後は、火遊びをする経験とか?」



例を挙げた後で、「クラブに行ったから火遊びは経験済みか」と続ければ、不破に「未経験だよ」と呆れられる。



「火遊びって、クラブでぼけっと突っ立ってただけじゃねえか」

「……じゃあ火遊びって何?」

「こんな品行方正な男が知ってるわけねえだろ」

「……」

「聞こえねえか? もう1回言うか?」



不破は大きな手のひらで私の頭を掴む。


そこから抜け出しもせず、私は不破を見つめた。



「あなたって不思議な人ね」

「あ?」

「男の人なのに、触れられても何とも思わない」

「……盛大に貶してんのか?」

「褒めているの」



お客様に触られるのは不愉快だったけど、不思議だ。不破に触れられても不愉快だと思わない。


不破は私の頭を離し、嘲るように眉をあげた。



「あんたって、何されても受け入れそうだな」

「例えば?」

「例えば……? 俺に持ち帰られるとか?」



不破は自分でそう言っておいて、至極つまらない話をあしらうように笑った。


私は手元のグラスを見下ろし、口角を曲げる。



「あなたが私を持ち帰ることは、絶対にない」



不破の目が私に移ろう。



「恋してえっつっといて?」

「それは以前説明した通り、注釈付きだから」

「なんで持ち帰らねえと思うの」

「あなたは冷静で理性的な人だと思うから。本命以外に構うのは、割り切れる女性だけだと思う」

「つまり自分は対象外だと」



頷けば、苦笑を殺した。


あながち外れてはいないようだ。



「確かにあんたは割り切るタイプには見えない。でも騙しやすそうだ」

「騙す?」

「適当な間隔で飴でも与えておけば、あんたは聞き分け良く都合のいい女を演じるんだろ」



だから対象外とも言い難い、だなんて、不破は飼い慣らす気などさらさらないと顔に書いたまま、心にもない冗談を言うらしい。


真面目な横顔に感心した。




   

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