第3話
「ということは、あの話は前向きに検討してくれているの?」
少し喜べば、不破は途端に顔をしかめた。
「検討してるわけねえだろ。対象外とも言い難いが限りなく対象外に近いんだよ、あんたは」
「でも、先日の指摘を参考に、別パターンの口説き文句を考えてきたんだけど」
「何?」
「私と遊んでほしい」
不破は眉を寄せた。
返事は聞くまでもない。顔を見るのはやめた。きっと不破は、表情筋の全てを使って嫌悪感と拒絶感を伝えようとしているに違いない。
「……改善するわ」
目を逸らしたまま呟けば、頭に何かが触れた。
その何かが不破の手のひらだと気付いたのは、不破が情け容赦なく頭頂部を掴んで、私の首の向きを90度まわしたからだった。
痛い、という文句に重なった。
「あんた、遊びてえの?」
これは嫌悪。拒絶。呆れ。嘲り。
違う。これは驚きだ。
不破は、無防備に驚きを晒して私を見つめている。
すると、思考の隅に変なものを見つけた。変なものは言っている。いつもより大きくなった目がなんだか可愛い──。
私は不破の手を払った。
「いって、」
「ごめんなさい。間違えた」
「何とだよ」
変なものは見なかったことにしよう。オレンジ色に染まったジュースを流し込む。
「あんたは読めねえな。やっぱ対象外だわ」
「そうでしょう」
「そうでしょうじゃねえんだわ。言動と感想が矛盾してんのわかってんのかよ」
「矛盾はしていないわ。だから割り切るとアピールしているの」
からん。グラスの中、氷が滑る。
しっとりとしたBGM。他の客の声。聞いてもいなかった雑音を一つ一つ辿って、狂った何かを見ているかのような不破の表情に眉を寄せた。
「何よ、その顔」
「割り切るタイプでもねえあんたが割り切ってまで俺と遊びてえ理由は何だよ」
「理由……?」
「理由くらいあんだろ」
「いえ、あるけど、そうじゃなくて、やっと興味を持ってくれたのかと思って」
「……嘘。持ってねえ。今のはなしだ」
不破は野良猫を追い払う仕草で手を振る。
私は少し楽しくなった。
「いつでも説明するから、気軽に聞いて」
「一生聞かねえ、安心しろ」
不破は嫌そうに顔をしかめる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます